香辛料と王様
「あなたは、夜の国の王様なのですね」
ポテトパイはすっかり食べ尽くしてしまい、空っぽになったお皿を悲しく見下ろしながら、ディアは誰もいない王宮の厨房で、なぜ厨房の中に配置してしまったのだろうという凄艶な美貌の男性と話をしていた。
この人はやはり、夜を司る王の一人ではあるらしい。
また、ディアが最初に見た白灰色の髪の姿は、最も夜が長くなる冬至の日にだけ、夜の王座の者が転じる姿なのだとか。
(とても綺麗だったのに、もうあの姿には戻らないのだろうか…………)
人外者とは言えあそこまで髪が長いと煩わしいらしく、今は、容姿を変える魔術で冬至の日以外の姿を取っているらしい。
恐らく、話に聞く異教の魔術師達のように、全く違う姿になる事も出来たのだろう。
ポテトパイに入っていた挽肉のトマトソース煮込みの香りと、綺麗に磨かれて並ぶお鍋に囲まれ、夜を司る人外者と話をしているというのは、なかなかに不思議な体験であった。
外では、雪が降り始めたのだろう。
厨房にある、異国から仕入れたという高価な泉の魔術の結晶石の大窓から差し込んだ光は、雪雲を透かした鈍い灰色になっていて、その曖昧な光の中で厨房の調理器具や食器棚などが見慣れない硬質な輝きを帯びる。
ディアは、使い終わったお皿などを自分がきちんと洗えるだろうかと思案しながら、目の前の男が動くと揺れる、宝石を紡いだような水色の髪を見ていた。
(なんて綺麗なのだろう………)
先程見た白灰色にひと匙の夜の色を混ぜたようなゆったりとした巻き髪は、背中の真ん中くらいまでの長さだ。
今は幅広の天鵞絨のリボンのようなもので一本にまとめていて、一筋の毛筋がはらりと落ちている様子には、男性なのにどきりとするような色香がある。
ディアの髪色はこの国の人々の銀髪よりも色の暗い銀灰色なのだが、どんな風に光を当てても、彼のような、宝石の内側に宿る月光のような煌めきは得られないだろう。
人間の持つ色とは全然違うのだと思えば、手を伸ばしてそっと触れたくなる。
けれども、彼は人ならざるものなのだ。
そして、人ならざるものは、おとぎ話の中の隣人達のように優しくも単純でもない。
こうして現れ成されたこの施しにも理由があるのだろうし、指先を失くす覚悟をしない限りはそんな事は許されそうにもなかった。
「この国の人間達が、俺をそう呼ぶ事があるのは確かだな。だが、夜の席には司るべき要素や治めるべき王座が多いが、夜そのものを統べる者となると、それはやはり真夜中の精霊王だろう。一般的にそう呼ばれるのは俺ではない」
「夜の国の王様という呼び名だと、他の方も含まれてしまうのですね………」
「夜の系譜の魔物の中には、人間を喰らうものもいる。餌になりたくなければ、不確定な呼びかけはやめておけ」
夜の系譜の人外者は、数多くいるのだそうだ。
その中でも、あわいと呼ばれる時間にあたる、真夜中の席に付く者達は階位が高く、真夜中を司る王を筆頭にした真夜中の領域の者達があらゆる夜の王となり、様々な夜の区画を治めているという。
「では、ここはひとまず、ポテトパイの方とお呼びしますね」
「絶対にやめろ。………ノイン。そう呼ぶといい」
「……………ノイン」
「その名前が全てではないが、俺に繋げるのに事足りる程度のものは備えている。いいか、二度とおかしな呼び方をするなよ」
「は、はい」
人外者にとっての名前は、確か、とても大切なものだったのではないだろうか。
何だか凄い色々と教えてくれるぞと思いながら、ディアは、教えられた夜の系譜の生き物達の多様さに、人間などには及びもつかないこの世界の広さを思った。
真夜中の精霊王の下にいるという、様々な名前の夜達は、ディアの生活とも決して無縁ではない。
夜の入りの王がいて、春夜の王がいる。
夜の充足を司る者や、夜の孤独を司る者、また、夜運びという黄昏と夜の系譜を繋ぐ者達もいるのだそうだ。
(この世界には、私の知らない色々な者達がいるのだわ……………)
この王宮には、他の人外者はいないのだろうか。
ディアの父が仲良しだった竜に家族がいたのなら、是非に一度会ってみたい。
知るという事はとても豊かな事だ。
新しい知識を透かして世界を見れば、万華鏡を覗き込むように彩りに溢れる。
今はもう花々に宿る妖精達を見る事もないファーシタルを、少しだけ寂しいと思ってしまった。
魔術の豊かな国では、インクは妖精達が作るのだという。
手紙を鳥にして飛ばす魔術を、ディアは一度も見たことがない。
「…………外の国では、妖精や竜達と当たり前の様に共に暮らしている人達がいるのですね。そのような事を、もっと多くの人達が知ればいいのにとも思いますが、この国では、忘れられてしまうのも仕方がないことなのかもしれません」
「ほお、こちらの領域のものを無断で切り拓いておいて、忘却を正当化する強欲さは、確かに人間らしいな」
その言葉には少しだけひやりとした。
ジラスフィ公爵家の悲劇の後に、夜の王の治める森は少しだけ切り拓かれた。
直後から、採取される森の魔術の結晶石の質ががくんと落ちたのでそこまで酷いことにはならなかったが、それでも多くの場所が畑にされてしまったのだ。
(この人は、勿論そのことも承知の上なのだ。であればきっと、私の家に起きた事の理由も知らない筈はないだろう………)
「残念ながら、人間というものはそのようなものなのでしょう。所有値の低いファーシタルの民には、人ならざる者達と共に暮らす喜びは、どれだけ望んでも手に入れられないものです。…………私はずっと、なぜこの国の人達は、人ならざる者達との日々をおとぎ話に押し込めてしまったのだろうと、考えていました」
ディアは、不思議でならなかった。
ファーシタルでは、様々な祝福石や結晶石が採掘されるし、森の魔術の結晶石は豊かな森に溜め込まれた魔術が凝ったものだ。
呪いも疫病も悪夢も、その全てが魔術の領域にある。
異国の使者達は人外者を連れている事もあるし、行商人達の中には高位の魔術師もいる。
そもそも、魔術所有値という言葉があり、魔術の宿る道具や薬があるのだ。
それなのになぜ、ファーシタルでは、人知を超えたものを全て物語の檻の中に閉じ込めてしまうのだろう。
それがずっと、不思議でならなかった。
「……………生きてゆく為、なのですね」
「生きていく為?」
「ええ。きらきらと輝く美しくて素敵なものが、みんなは持っているのに自分達の手にだけは入らない。美しく豊かな場所が外にはあるのに、自分だけはそこで上手に呼吸が出来ない。それは、なんと恐ろしく、なんて悲しい事でしょう。だからファーシタルの民は、貴方達などはいなかった事にするし、…………あなた達に近しかったジラスフィが、どれだけ森への畏敬の念を呼び起そうとしても、そこからは目を背けていたかった。………私の家族は、殺されるべくして殺されたのだと、やっと分かりました」
この時になって、ディアは漸く全てを理解したのだと思う。
勿論、ディアの両親を筆頭とした森を残そうとした人々の見通しは、とてつもなく甘かったのだろう。
それでもやはり、どちらも生かし共に耐え抜く道もどこかにあった筈だ。
だが王家は、そしてこの王都の主だった貴族達は、ジラスフィ公爵家の粛清を選んだ。
「……………私の家族が粛清されたのは、………民の心を殺すからだわ。お腹を空かせた人達に、その森や森の向こうには特別なものがいて、けれどもあなた達を愛しも選びもしなかったと伝えるから。その上で、飢えながらその森を敬い、守り残して欲しいなどと言える訳もない。………両親達にそれが分からなかったのは、………私達が、傲慢だったからなのでしょう」
ジラスフィ公爵家がかつて祭祀としての役割を担ったのは、その所有値の高さにある。
持てる者だからこそ、ジラスフィの一族はその主張の残酷さが分からなかった。
それ故に、切り捨てなければ腐るその片端だったのだと。
そう理解してしまえる己の冷淡さに、ディアは胸が潰れそうになった。
(……………少ないものを殺し、多くを生かした。ここは外の世界を知らない愚かな箱庭の国だけれど、それでも、……………王族としてのその覚悟はきっと正しい)
ぎゅっと指先を握り込み、ディアは、空っぽになってしまったポテトパイのお皿だけを見ていた。
それでもなぜ、みんなには残されて、奪われるのがディアだったのだと泣きたいけれど、ディアがその苦しみに囚われれば、この国はディアも殺すだろう。
いや、あの日にディアも殺しておいた方が、本当は良かった筈なのだ。
(……………リカルド様は、なぜ私を婚約者にしたのだろう)
その当時の彼の年齢であれば、ジラスフィ公爵家が粛清された理由を理解していた筈だ。
その生き残りであるディアを自分の庇護下に置くということは、即ちこの国の中に抜けない棘を残すという事に他ならない。
子供だからと情けをかけるのであれば、使用人の子供達こそ助けるべきだった。
(……………そうしてなぜ、今になって私は殺されかけたのだろう。…………いや、もしかすると、殺そうとまではしていないからこそ、生き延びられたのかもしれない。………例えば、少しの間だけ大人しくさせておきたかった…………?)
「高慢である事が罪ならば、俺には、この国の民を粛清する理由があるようだな。統括地でもないものが減ろうが増えようが知った事ではないが、理解した上で成された略奪を赦す程、寛容ではない」
自分の思考の中に沈み込みそうになっていたディアは、その声で我に返った。
目の前に座ったノインのことを、すっかり忘れていたようだ。
「まぁ。…………では、私からという事になるのですか?」
しかしそう言えば、なぜかノインは酷く憮然とするではないか。
「お前は少しも死にたがっているようには見えないが、仮にそうだとしても、俺が、安易に願い事を叶えてやるような慈悲深い存在に見えるか?」
すいと伸ばされた指先が、ディアの喉元に向かう。
確かにこの男であれば、死にたいと思うような人間には、死にたくて死にたくて堪らなくなるような生を与えるだろう。
「いいえ、死にたくはありません。………私はまだ、この国の人達を許してはいないのですから」
ディアのその言葉に落ちたのは、ほんの僅かな沈黙であった。
見上げた先には、暗くて眩い紫の瞳がある。
簡単に自分を殺してしまえる生き物を見上げて、なんて美しいひとなのだろうと嬉しくなるディアは、きっとこの国では異端なものなのだろう。
「…………飼い殺しにされ、餌に毒まで混ぜられておいて、その憎しみにどんな価値がある?」
「他人から見ればどんなにみすぼらしいものでも、これは私の心です。私のたった一つの宝物なので、それを誰かに差し出しおもねることなど出来るでしょうか」
「であれば、その憎しみすら綺麗事だな。憎みながらも、抗いもせずに殺されてやることに甘んじるのなら、育てて腐らせるだけの心など捨ててしまえ」
(……………ああ、この人は)
つまらないのだ。
面白くなく、飽き飽きとしているのだ。
そんな事を知ってしまい、ディアはひっそりと嘆息した。
ディアが思ったような玩具ではなかったのだとしても、それはこちらの知った事ではない。
焚き付けて抗わせようとしても、所詮そちらはディアの欲しいものではなかった。
「無様だからといって、私が私の有り方を捨てる理由にはならないでしょう。私がこの王宮で暮らしているのは、どれだけ他の方よりも魔術の所有値が高くとも、所詮ファーシタルの民である私は、この国でしか生きられないからです」
この国から出られたのなら、ディアはどこにだって行けただろう。
でも、夢を見てそれを願うだけのことにも、必要なだけの資質が必ず求められる。
だから、どうしようもないほどに、ディアにはその資格がなかった。
「私は、特別に聡明でもなく、こっそり特別な魔術を持っている訳でもない。それで、遥かに知略に長けた人達をどうしろと言うのでしょう。飛び抜けて美しくもなく、武芸に秀でていたり、騎乗に長けている訳でもない。そんな私が、どうやってここから逃げ出すと?……………ノイン。私は、慈悲深くもなく清廉な心すらも持ちません。身勝手で怠惰な、ただ自分が可愛いだけの人間は、どうにもならないのなら、ただ波風を立たせずにぬくぬくと暮らしたいのです。あなたにとっての愉快な玩具にはなれません」
「…………そのようだな。やれやれ、興醒めだな」
「貴方のような方でも、遊べるかどうかの資質を見誤るという事があるのですねぇ」
ディアがそう笑うと、ノインは呆れたような目でこちらを見る。
けれども、先程迄の感情の滲む表情と比べると、冴え冴えとした酷薄さはとても冷ややかで余所余所しい。
この人外者はきっと、冷酷さや残忍さこそがその美貌を引き立てるのだなと思えば、多くを教えてくれていたように思えた彼が、自分がどんな種族で夜の何を司るのかすら教えてはくれなかった事に気付いた。
人間より遥かに長く生きる長命で老獪な高位の者に太刀打ち出来る筈もないが、それが少しだけ悔しく思えてしまうのは、ディアが、この美しい生き物をすっかり気に入ってしまったからだろうか。
ただ、このままであれば、あの光る花びらのようなものにされてしまうのかなと考えると、ディアはこてんと首を傾げた。
(こんな人から逃げられる筈もないので、ここでくしゃりとやられるしかないのだと仮定した場合、花びらのコースなら吝かではないと考えている事を知られないよう、暴れてみた方がいいのだろうか…………)
お腹はいっぱいだが、か弱く儚い裸足の乙女には、どんな事が出来るだろう。
演技だと見抜かれると余計に酷くされそうなので、ここは、本気の抵抗を見せるしかないようだ。
どちらにせよ助からないという結論ならば、絶対に苦しんで死にたくはなかった。
暴れてみれば、花びらにしてくれるかもしれない。
「まずは、餌をくれてやった対価だな」
「そちらのお支払いからが順当でしょうね。ですが、少しだけ待っていただいてもいいですか?実は、まだ少しだけお腹が空いているので、あちらに置かれた調味料で、ボウルに残った潰したお芋をいただきます!」
「……………いや、食い過ぎだろ。目の前の皿を見てみろ。どう考えても、一人前じゃなかっただろうが」
「………ちょっと何を仰っているのか、よく分からないのですが……………?」
困惑して首を傾げたディアにノインの表情は険しくなったが、今暫く自由にしていても良さそうな雰囲気になった気がする。
ディアは、ててっと走ると、なぜか目の前にあった小皿を持って香辛料棚に向かった。
この小皿は、さも取り皿ですという風に手元に置かれていたが、ディアの前に置かれたポテトパイはどう考えても一人前だった筈なので、これが取り皿だという事は絶対にない筈だ。
ぶんぶんと首を横に振って調味料棚の前に立ち、朧げな記憶を引っ張り出す。
(確か、ジーファ王女に貸して貰った娯楽本に、香辛料で盗賊を撃退したお話があった筈…………)
夜の国の王様に香辛料が効くかどうかは分からないが、何の効果もなければ、喜ぶかと思って奉納してみたとでも言って押し通せばいいだろう。
案外、怒ってすぐに花びらにしてくれるかもしれない。
余談だが、ファーシタルの国民は辛いものが好きだ。
長い夜を過ごす為に強い酒を飲む男達が多く、そんなお酒と一緒に楽しむピリリと辛い香辛料味のソーセージや乾燥肉などが好まれた結果、徐々に国民全体が辛いもの好きになってきてしまった。
よって、ファーシタルの王宮の厨房ともなれば、沢山の激辛香辛料が用意されている。
食事の際に、自分の裁量で使えるようにとテーブルに置かれているので、ディアもそれなりの種類を熟知していた。
ディアはまず、とびきり辛いと噂で、異国から取り寄せたばかりの激辛香辛料をどさりとお皿にあけた。
そこにたっぷりと山盛りの胡椒を混ぜ、また別の辛味香辛料などを入れ、色を誤魔化す為に乾燥させた夏時草の葉を粉末にしたものも入れる。
この夏時草は、一つまみで、びりりとする程に辛い。
(……………ふむ)
このあたりで、小皿の上がじゃりじゃりしてしまい、液体感を取り戻す為に料理の風味付け用に置かれていたコルグレムと呼ばれるファーシタルの強いお酒を投入したところ、思っていたより良さそうなものが出来た。
これはなかなかだと凛々しく頷き、ディアは、渾身の武器を湛えた小皿と、お皿の大きさ上ポテトパイにならなかったお芋の残りを持ち、先程の場所に戻って来た。
少しどきどきしたものの、ノインがディアの即席調味料を気にしている様子はない。
「………お前を見ていると、排除に傾いた王宮の連中の意図も分からないではないな。第一王子の婚約者にしておくには、様子がおかしい」
「繊細な心を持つ女性に対し、たいへん失礼な評価ですが、あなたが、私の事をそこまでご存知だったことには驚きました………」
「暇潰しをしようとしておいて、駒の特性も知らずにそれを使おうと思うか?」
「……………まぁ。あなた方は、そのように考えられるのですね」
物語の中でよく、人ならざる者達と対峙した人間が、相手が自分のことを何でも知っていると怯える場面があるが、実際にはこのような背景があったのかもしれない。
ディアだって、リカルドと駒取り盤のゲームをする為に、最初はたくさん勉強したものだ。
人間には及びもつかないような叡智を持つ人外者達なら、そうして道具の使い方を学ぶ方法は幾らでもある筈だ。
「えいっ!」
そしてディアは、ここで、小皿の中身をノインの顔面に向けてぶちまけてみた。
程よく会話の途中であったので、攻撃を仕掛けるなら今だと考えたのである。
「……………っ?!」
このような時、人外者は見えない壁などを展開して攻撃を防いでしまうのかなと心配していたが、幸いにもディア特製の激辛香辛料酒は、ノインの顔面に直撃したようだ。
うっかり小皿ごと投げてしまったし、赤と緑の入り混じった液体が周囲に飛び散って独創的な殺人現場のようになったが、どうせ自分は花びらにされてしまうので後片付けの心配はしなくていいだろう。
そう考えていたディアは、ぼさりと椅子の上から床に落ちたものを見て、目を丸くした。
どうやら、思っていたよりも、凶悪なものを作り上げてしまったらしい。
「……………まぁ。夜の国の王様を殺してしまいました」
そうして、ディアはノインに出会った。
うっかり無力化してしまった事で、その場で殺されてしまう事は回避出来たものの、だからと言って彼がディアの友人や僕になった訳でもない。
それを証明するかのように、その後でまたディアの食事に毒が入っていても、それを食べてしまったディアが熱を出して寝込んでいても、ノインは馬鹿な人間だなと呆れるばかり。
彼は、少々激辛には弱いとはいえ、高位の人外者だ。
この場所に飽きれば立ち去るだろうし、不愉快だと感じればまた、それがディアだろうとも簡単に壊してしまうだろう。
そんないつ立ち去るとも、いつ牙を剥くとも分からない隣人だが、ディアは、夜の国の王様が時々遊びに来る奇妙な日々をこっそり楽しんでいた。
けれども、あの日からずっと考えている事がある。
いや、あの嵐の日からずっと、ディアは考えてきた。
どうして。
人間ではないノインですら分かったことが、どうしてこの王宮の人達には分からないのだろう。