忌日の王宮とポテトパイ
ディアが、ファーシタルの王宮で夜の王様を見付けたのは、三年前の冬至の日の朝のことだった。
朝とはいえその日は忌日で、王宮内は、シャンデリアや燭台はおろか厨房や暖炉にも火が入っておらず、王宮内は青白い影の中に沈んでいる。
事情があり、そんながらんどうの王宮内を一人で歩いていたディアはまだ、人間の領域からこぼれる時間には、見慣れた場所にも人ならざるもの達が闊歩していることを知らずにいた。
ファーシタルは、一年に一度の最も夜の長い冬至の日を忌日としており、国中の人々が安息日として仕事を休む決まりがある。
窓を開けたり火を熾す事も良くないとされるので、人々は前の晩までにお湯を沸かして、保温効果のある火の鉱石で作るポットにお茶をたっぷり作っておき、家族分の備蓄用の食べ物を準備しておく。
部屋から出てはならないとされるその日には、王宮の扉も固く閉ざされ、王族達だけではなく騎士の一人までもが出歩かなくなるのだ。
人ならざる者達の存在を信じていないファーシタルの民がなぜそこまでをと思うだろうが、人外者を信じる事と古くからの風習はまた別物であるらしい。
また、魔術より生まれる疫病や災いの一部については、土地の魔術の少ないファーシタルと言えども無縁ではなかった。
(忌日に部屋を出るのは初めてだけれど、………本当に誰もいないのだわ)
その日のディアは病み上がりで、裸足でよろよろと石畳の床を歩いていた。
ひたひたと心許ない足音が響く衛兵の姿もない王宮の回廊は夜が明けたばかりで薄暗く、廃墟のようにがらんとしている。
けれども、こうして無人だと分かっていたからこそ、ディアは部屋を出たのだった。
歩きながら、ぐぅとお腹が鳴り、ディアは悲しく眉を下げる。
きちんと教育を受けさせて貰っているのだから、当然、冬至の日のしきたりを知らない訳ではない。
ディアの部屋には、今日の為の食料も届けられている。
けれども、諸事情からその準備を使えないディアは、お腹が空いて堪らずに人気のない王宮を彷徨っていたのだ。
そうして、その人を見付けた。
暫く歩けば、裸足の爪先は凍えるようになっていた。
なぜ王宮暮らしの公爵令嬢の靴がないのかと言えば、忌日の日になると、女子供達は悪いものに攫われないようにという災い除けで、履物を片付けられてしまうからだ。
ディアの立場で、片付けられた履物を隠れて取り戻すのは容易ではない。
諦めるしかなかった。
ひたひた、たしん。
誰もいない回廊に、自分の足音だけが響く。
普段はあまり機会がないのでと、天井画を見上げ、美しい絵画をじっくりと堪能した。
この季節の朝はとても暗いが、夜の長いファーシタルの王宮には、蝋燭の消費を抑える為に採光用の窓が沢山ある。
天井の高い王宮の回廊にも、一定間隔ごとに天窓があり青白い光が差し込んでいた。
(……………きれい)
先程までの足裏の冷たさも忘れ、えもいわれぬ美しい光の筋を辿るように歩いていたディアが最初に見たのは、薄闇にすいと伸ばされた指先。
天窓からの青い光の輪が青灰色の床に落ちていて、その指先は、光と影の境界をそっと指で撫でるよう。
忌日に現れた人ならざるもののように、王宮の回廊にひっそりと佇んでいたのは、ぞくりとするような美貌の男性だった。
(……………あ、)
足下までの長い髪はゆったりと波打ち、淡い水色とも雪影とも取れる白灰色に煌めく。
宝石を紡いだような髪の美しさに目を奪われていると、髪色と同じ色の睫毛の下に、金貨を溶かしたようなふくよかな金色の瞳が見えた気がした。
古い紙の匂いと、装丁の革の匂い。
蝋の溶ける香りに、虫除けの香木の香り。
どうやらディアは、目的地を逸れて、書庫の方まで歩いて来てしまったようだ。
「……………やれやれ、この王宮内に、どれだけの棘を隠し置いたものか」
人の形をしているのだから当然なのだが、その美しい生き物がそんなことを呟き、ディアはぎくりとする。
うんざりしたような美しく低い声は、たいそう不機嫌であった。
そうして伸ばされていた美しい手が、どこからともなくぞんざいに掴み取ったのは何と、声にはならない声を上げてもがく一人の騎士ではないか。
(………お城の騎士だわ…………!)
こちらからは顔は見えないが、あの騎士服は間違いないだろう。
おかしな事だが、その手に捕らわれた者が見慣れた形をしていた事で、ディアはここで漸く恐怖を覚えた。
これでもディアは、六歳までとはいえジラスフィ公爵家で育った子供である。
目の前の光景が美しい幻でも夢でもなく、人ならざるものの姿を取った災いの訪れであると理解してしまったのだ。
白灰色の髪の男は、暴れる騎士を軽々と掴み上げたまま、凍えるような美貌に何とも酷薄な嘲りの微笑みを浮かべていた。
ディアの位置からは口元しか見えないが、それでも感じ取れる表情や美貌というものがあり、ここまで人間ではない生き物が相手だと、それはとても顕著である。
白灰色の髪の男は、まるで異形のものが獲物の形を確かめるように、騎士の顔を覗き込んだようだ。
その直後、掴み上げられた騎士は、ざあっと音を立てて花びらのようなものになって砕け散ってしまった。
「………っ、」
はらはらと、薄闇の中に舞い落ち、床に触れるとぼうっと光って消えてしまう騎士の成れの果てを見ながら、ディアは、呆然としたまま残酷なまでに人間とは違う美貌と色を持つ男性を見ていた。
逃げなければと考える事も忘れてそんな風に立ち尽くしていたのは、長い髪に隠れてしまって顔はよく見えなかったものの、ふと、こんな姿をしたものをどこかで見た事があったような気がしたからだ。
しゃりんと夜闇が揺れた。
雪の降る季節の朝の光は薄暗いとは言え、回廊には朝の光が落ちていたし、その不思議な音を立てるようなものはどこにも見当たらなかったけれど、水晶のベルを鳴らしたような美しい音が、確かに聞こえた。
それはもしかしたら、人間には想像もつかないような、人ならざるものだけが持つ音だったのかもしれない。
(……………!!)
そんな生き物が勿論ディアに気付かない筈などなく、その人外者がいつの間にかこちらを見ている事に気付き、ディアは短く息を飲む。
一方で、裸足で立ち尽くしていたディアを見付けた人外者は、僅かに瞳を瞠ったようだ。
こんな所に裸足の人間が無防備に立っている事に、人外者なりに驚いたのかもしれない。
こんな場所に迷い込んでしまった己の運のなさを心から呪い、唇を噛み締める。
相手は明らかに人間ではないし、走って逃げようにも、ディアは裸足な上に病み上がりである。
走るだけ無駄になるのなら、走らないに越した事はない。
これはもう、あの光る花びらにされてしまうのだろうかとぎりぎりと眉を寄せていると、なぜかこちらを見た人外者は、どきりとする程に人間的な顔をした。
即ち、盛大に顔を顰めたのである。
「やれやれ、この国の人間達は、忌日を忘れたのか?…………おまけに裸足か」
人間のように喋るのなら、人間のように対話をする事も出来るのだろうか。
そんな事を考えかけ、ディアはぞっとする。
いつの間にか、雪影のような長い髪を持つ人外者の姿がどこにも見えなくなっていた。
(……………どこに………っ?!)
足元にひたりと落ちた影に震え上がり、嫌々な思いを押し殺してゆっくりと顔を上げる。
手を伸ばせば触れられるような場所に立っていたのは、白灰色の髪の生き物ではなく、水色の髪に紫色の瞳をした美しい男性だった。
ふくよかな夜の香りがして、ひらりと揺れたのは漆黒のケープだろうか。
仄暗い朝の光の影となり表情まではよく見えなかったが、高貴な騎士のような艶やかで美しい漆黒の装いは、ディアの語彙では上手く説明出来ないが、仕えるのではなく支配する側の者の装いに見える。
(姿形は変わってしまったけれど、………先程の人だわ。間違いない…………)
理由は分からないが、彼は姿を変えてこちらにやって来たようだ。
では、先程まではどんな服装だったのだろうと考えかけ、何も思い出せない事にまた少しだけぞっとした。
(でも、こんな人の姿をどこかで………)
「…………あ!」
ここで、思わず気の抜けた声が出てしまったディアに、男は、内側から光を透すような鮮やかな紫の瞳をすっと細める。
ディアが上げた声が、近付かれた事による驚きからのものだと思ったらしい。
「忌日に部屋を出るのなら、せめて靴を履こうとは思わないのか?」
「……………その、お迎えに来てくれたのですか?」
「…………は?」
これはもしかするとと思い、そわそわしながらそう尋ねたディアは、訝しげに目を細められ途方に暮れる。
どうやら彼は、部屋を出てしまったディアを迎えに来たという訳ではなさそうだ。
となると、思った人ではないのだろうか。
「………あなたは、夜を司る方なのではありませんか?」
(夜を司る高貴な方の装いは、決まっている)
夜に属する高位の人外者は、長い髪に色とりどりの黒を纏い、その靴先や髪先、そしてケープの裾などが、夜に溶け込むようにけぶるのだとディアに教えてくれたのは、ディアよりも早くジラスフィ家の役目を受け継いだ兄だった。
その時のディアは、多少王宮内で悪さをしていた事は兎も角、この人外者は、祭祀の一族の最後の一人となったディアの様子を見に来てくれたのだと思ってしまったのだ。
「なぜ俺が、お前を迎えに来なければならない」
だからきっと、その言葉は鋭いナイフのようにディアの心を切りつけたのだろう。
なぜ、こんなしょうもないところで希望など持ってしまったのかと、ディアは己の軽率さに悲しくなる。
「……………まぁ、違うのですね。失礼いたしました。………その、………お散歩でしょうか?」
「……………ほお、よくこの状況で、そう考えたな」
ひょいと手を伸ばされ、ディアはさっとその手を避けた。
目の前の男は無言で片方の眉を持ち上げたが、良きものではない人外者であれば、触れられるのは遠慮しておきたい。
何度も言うが、病み上がりなのだ。
(そして、お客様ではないのなら、早々に逃げよう…………)
「では、私は失礼させていただきます。………ぎゃ!」
裸足な上に自室で過す為に用意された寛いだ装いなのだから、決して淑女とは言えない有様だったが、ディアはにっこり微笑みお辞儀をすると、そそくさと立ち去ろうとした。
しかし、素早く脱出しようとしたところを呆気なく捕獲されてしまい、逃げ損ねたディアは慌ててじたばたする。
一瞬、このままあの騎士と同じ運命を辿るのかもしれないと覚悟したものの、ディアの腕を掴んで捕獲した人外者は、なぜか複雑そうな顔をしているではないか。
「…………私はこの通り、通りすがりの罪のない乙女ですので、花びらにしても楽しくはないと思いますよ」
「………珍獣を狩った気分だな。解体する気も失せた」
「何という失礼な方でしょう!そもそも、…」
「ほお、おまけに、雪水仙の花蜜と満月の夜の夜露の匂いか。………どうやらお前は、誰かに毒を盛られたばかりであるらしい」
相手が人外者とは言え、可憐な乙女に対して珍獣扱いは失礼だ。
怒り狂いかけたディアだったが、淡々とそんな事を指摘された途端、すとんと心が冷えた。
こちらを見下ろしている紫の瞳は酷薄で、だからこそ、震える程に美しい優雅なけだもののよう。
そうか、この人にはそんな事までが分かってしまうのだと、どこか他人事のように考える。
ディアが、水差しから飲んだ水の不思議な甘さに眉を顰めたのは、三日前のことだ。
舌先に残る微かな甘さに僅かな違和感を覚え、けれどもその時のディアは、気に留めもしなかった。
最近は時折、誰かが水差しの水を檸檬水や香草水にしてくれていることがあり、その類の変化だと考えたのだ。
けれども、その日の朝食の席に出された紅茶からも、同じ甘さと馴染みのない花の香りを感じたことで、ディアは漸く自分が置かれている状況を知った。
案の定、午後には高熱を出し倒れ、そのまま生死の境を彷徨い、昨日までは寝台から立ち上がる事も出来ない有様だったのだ。
昨晩、看病をしてくれていた侍女達が、明日は忌日ですからと頭を下げて部屋を出ていってしまったことで、自分で動けるようになるしかないと何とか体調を整えたばかりである。
こうして無事に回復に向かってはいるものの、毒のようなものを飲まされたのは間違いない。
「…………さて、どうでしょう。お腹が空いて、うっかり雪水仙の蜜を食べてしまったのかもしれません」
「王宮に住んでおいて、花蜜で凌がなければいけないような羽目になるか?」
そこで、男の人外者らしい酷薄な眼差しがふっと翳った。
ディアの可哀想なお腹が、ぐぅぅと鳴ったのだ。
「……………おかしいだろ」
「おにゃ………かが空きました…………。ここの厨房がどこにあるか、場所をご存知ですか?」
「まさかとは思うが、厨房を探す為に、忌日に部屋を出たんじゃないだろうな?」
信じられないようなものを見る目に打ちのめされ、ディアは、かくりと項垂れた。
この国の王族達はそれはそれは美しいので、王宮にいると埋没してしまうことが多いものの、ディアとて美しいと言われる少女である。
表情があまり動かずにぼんやりとして見えるらしいが、第一王子の婚約者としての立ち振る舞いを学び、淑女らしい所作を心掛けてきた。
それがまさか、こんな美しい、けれどもどうやら不穏な訪れを果たしたものであるらしい人外者に捕縛された状態で、悲しくもお腹が鳴ってしまうとは。
一度は、相手は人外者ではないかと流してしまおうとしたのだが、残念ながら目の前の男にとっても、淑女は人前でお腹を鳴らさないという認識のようだ。
こうなるともう、手の打ちようもない。
ディアは、直前の出来事には敢えて触れない事にした。
「………厨房に」
「毒を飲まされたばかりの状況で、よくもその主張を重ねようと思ったな」
「私には私の理由があり、そこに行く必要があるのです。その手を離していただければ、自分の身は自分で…」
ここで再び、ぐぅと、お腹が鳴った。
この段階で、ディアを見た人外者の表情は、完全に呆れ返っていたと思う。
尊厳を保ったまま解放して貰う為に少し凛々しい雰囲氣などを出してみたところだったディアの心は、犯人は我が身とは言えあまりの仕打ちにぽきりと折れた。
項垂れたまま動かなくなった人間に、男もまた暫くの間言葉を失ったようだ。
「……………そうだな。お前が俺を満足させるような対価を払うなら、連れて行ってやらないこともない」
「お言葉を返すようですが、人間は軽率に齧られると死んでしまいますし、私の持ち物はこの王家の資産でもありますので、個人の裁量では動かせないのです」
「俺は悪食でも祟りものでもない。人間は食わん」
「で、では何を食べるのですか………?」
まさか人間を食べないとは思わず、驚愕の面持ちで見返すと、男は顔を顰めるではないか。
思えば、ディアと話し始めてからの彼は殆どこの表情だ。
「夜の静寂も食うが、お前達とさして変わらないだろうな」
「まぁ、………人間の心臓などはいただかないのですね」
「いいか、その偏った知識は捨てろ」
「しかし、人間は作物や植物を加熱して調理するのです。そのような意味ではやはり、違うのかもしれませんね」
そう言えばとても怪訝そうにこちらを見るので、ディアは、王宮の近くに遊びに来るはぐれムクモゴリスは、麦や林檎を食べるのだと教えてやった。
ムクモゴリスは、大きくて丸いむくむくもこもこした耳の短い兎の一種で、ファーシタルに暮らすムクモゴリスは羽の退化した獣型だが、本来は妖精種となる生き物なのだという。
一度、人目を忍んでもふもふのお腹に顔を埋めてみたことがあるが、人生であれ程に幸福な時間はなかったと断言出来るたいへん結構な毛皮である。
「ムクモゴリス…………」
「はい。………っ?!」
唖然としたように呟やかれた言葉にこくりと頷くと、ディアは、その途端にびしりとおでこをはたかれ、赤くなったおでこを押さえてふるふるした。
「お前は、少しの間黙っていろ」
なぜか憤然としてしまった男は、あっと抗議の声を上げたディアを小脇に抱え、こつりと踵で床を鳴らした。
すると、ふわりと温度のない風が揺れ、淡く甘やかな薄闇に包まれたと思った途端、くらりと周囲の景色が変わる。
目眩のような魔術のあわいを渡るその初めての経験に、ディアは呆然としたまま目を瞬いた。
そこはもう、書庫のある西の回廊ではなかった。
今のディア達が立っているのは、初めて訪れるので確証はないものの、王宮の厨房だと思われる場所である。
(転移、……………だわ)
大国と言われる魔術が潤沢な国々では、人間の魔術師達がこの転移と呼ばれる魔術を扱う事もあるという。
けれども、魔術の希薄なファーシタルでは、おとぎ話の中だけに存在する魔術だった。
初めて触れる大きな魔術に感動してしまったディアがよろよろしている間に、紫の瞳の人外者は、器用に挽肉入りのポテトパイを作ってしまう。
そして、厨房の作業台の上ではあるが、目の前にことんとポテトパイの乗ったお皿を置かれ、ディアは途方に暮れて目の前の男を見上げた。
まさか、出会ったばかりの人外者からポテトパイを作って貰うとは思わなかったのだ。
(部屋に備えられていた食べ物は、怖くて手をつけられなかった……………)
指摘された時には肯定出来ずにいたけれど、ディアだって、自分が毒を盛られた事くらいはわかっていたのだ。
だから、漸く体を動かせるようになって、どれだけお腹が空いていても、ディアの為に部屋に用意されたものは怖くて口に出来なかった。
(見知らぬ人外者から振舞われる料理も怖いけれど、……………あの部屋にある保存食を食べるよりは余程いい)
倒れてからは、何も食べていない。
だから、その時のディアには、目の前のポテトパイを食べないという選択肢はなかった。
振舞われたものを口にしてしまえば、対価を支払わなければいけなくなる事は分かっていたのに、ほかほかと湯気を立てている美味しそうなポテトパイから、目を逸らせなかったのだ。
覚悟を決めてスプーンを取り、さくりとパイ生地を割ってふわっと上がった湯気を見た途端、ディアの胸の奥はおかしな音を立てた。
目の前の夜を司る生き物は、良き隣人としてディアの前に現れたものではないのだろう。
自分には、美しいおとぎ話の顛末のような救いはないのだとしても、それでも、こうしてあたたかな料理を振舞ってくれる。
ぴかぴかに磨き上げられた水差しの中に入れられていた毒を思うと、その事が堪らなく悲しかったのだ。
ぱくりと口に入れたポテトパイには、王宮料理のような華やかさはなかったものの、この王宮に来てから食べた食事の中で一番美味しく感じられた。
それが堪らなく悲しくて、わあっと声を上げて泣きたいような思いで、ディアはそのポテトパイを完食したのだった。