第二話:厄介なのは一人じゃないの?
「・・・・・・粗茶ですが・・・・・」
「どうぞ、お構いなく」
テーブルを挟み、目の前には先ほどのデンジャラス小学生と、ぶつかってしまったその保護者?らしき人。
なぜか彼らは家に上がりこんでいる。
そしてなぜか俺は彼らに茶を出している。
「・・・・・」
ずずっとお茶をすする音がむなしく部屋に響く。
「申し送れました、私は死神育成担当のレインデートルと申します。こっちは研修中のイルヴィーナと申します」
「・・・・」
いや、さっき死神がなんだかんだ聞こえたのは空耳にしたかったのだが・・。
こちらが何も言わないことを、話を促してると捉えたのか、続きを話し出す。
「今回はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。イルは本日が研修初日でして、まだ講義も終了しておらず、本来であれば・・・」
「ちょーーーっと待った!!!」
レインデートルと名乗った男の話の途中だったが、マサトは口を挟む。
今何を言われてもマサトの脳細胞は考えることを放棄してしまう。
疑問は一つずつ解決を、だ。
だが、そのまえに人間は「夢見る生物」である。
「あのさ、あんたらが何者でもいいんだけど・・・。帰って二度と俺に近づかない、ってのはどうよ?今なら俺はまだ「夢だった」で済むんだけど・・・」
「はぁ・・・・。申し訳ないですが、そのご提案には同意いたしかねます」
マサトの提案はあっさり却下された。
「だからー、あたしはあなたの命をいただければ研修一つ終了なの!痛くしないように頑張るから、ね」
にこっと微笑むデンジャラス小学生。
「誰がはいそうですか、って命を差し出すか・・デンジャラスなヤツめ・・」
「通常は・・・死神が姿を見せることもないですし、話をするなんてまずありえません。痛いかどうかは本人次第ですし・・。そもそも、人の命を取るかどうかも最初から決まっているわけではありません。過去を拝見させていただき、未来を考慮して決定しています。そういったことを伝える前に・・その、お恥ずかしい話、私が迷子になってしまい、イルを見失ってしまって・・・」
・・・・。
飼い主失格軟弱男と名付けよう。
「わかった。とりあえず夢ではすまないことまで理解したとしよう」
両手を挙げて降参ポーズをとる。
「で。何で俺が殺されなきゃなんないわけ?」
デンジャラス小学生と飼い主失格軟弱男が見つめあう。
「それについては、お答えいたしかねます。過去か未来、どちらかに理由がある、とだけしか・・」
ふざけんな。
過去に死ななきゃならんほどの罪を犯した覚えもないし、今後も歴史に残るような犯罪者になるつもりもない。
「あのな・・」
ぴーんぽーん。
マサトが言いかけたとき、間の抜けたチャイムの音が鳴る。
というか、この客を今誰かに見られるわけにはいかない。
ワンルームのこの部屋は玄関を開ければそこが部屋だ。
まずい、非常にまずい。
ぴーんぽーん、ぴーんぽーん。
無言でデンジャラス小学生と飼い主失格軟弱男をみ見る。
「あぁ・・・普通の人には我々の姿は見えませんので、どうぞ」
飼い主失格軟弱男がすっと玄関の方を見る。
ほんとかよ・・。
そう思いながらも、おそらく外にいる人には部屋に人がいることがバレているだろうから、少し自棄気味にドアを開ける。
「はい!」
不機嫌丸出しでドアを開けると、そこには先ほど学校帰りに別れを告げた友人真田 孝典が立っていた。
「よぉ、近くまで来たからさ、この前言ってたゲーム借りに来たぜ〜」
そういいながら部屋へ孝典は部屋へあがろうとした。
マサトの横を孝典がすり抜ける。
「あ、ちょっと待て・・」
そうか、あいつらの姿は見えないんだっけな。
いやいや、でも湯のみが3っつもあったら不審に・・
「あれ、お前ら何やってんの?」
孝典以外の3人がその場に凍りつく。
もちろん「お前ら」というのは複数形であるし、マサトのことではないだろう。
(あぁぁぁぁぁぁ。)
(終わった、俺の人生。犯罪者の仲間だ、きっと。もしくはアブナイお友達決定だ。)
がっくりうなだれる。
(いや、孝典の命までも?!)
はっと友人の身を案じて顔を上げるが・・・。
「タカちゃん!!」
孝典に抱きつくデンジャラス小学生。
「お久しぶりです」
挨拶をする飼い主失格軟弱男。
意識が遠いどこかへ飛んでいるのは俺だけらしい。