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ダンジョン作成の裏技?




「ダンジョン作成を始める前に、ダンジョンのことをきちんと学びたいと思うの。ダンジョンを作るための基本的なルールは本で読んだけれど、ルールは熟知していた方がいいと思うから。他のダンジョンがどういったものなのか、内部がどうなっているのか、どういった罠がどんな風に設置してあるのか、そういうことも知りたいんだけど、知る方法はあるのかな?」



 ダンジョンから出られないし、出られたとしてもとても他のダンジョンに行くことはできないだろう。書斎にあるパネルで他のダンジョンの内部のことを調べることもできなかった。

 他のダンジョンのことは機密事項なのか、あの書斎でできるのは、自分のダンジョンに関することと、ダンジョンポイントを使って何かを得ることだけだ。

 セオならば何か裏技のようなことを知っているかもしれないと思って問いかけると、何故か感心したように頷いていた。



「カヤ様のその勤勉さと慎重さは、ダンジョンマスターとして得難い資質ですね。私は、大きな力を与えられ、慢心し、力に溺れる者も数限りなく見て参りました。主と定めたカヤ様が慎重なご性質であることを、とても嬉しく思います」



 にっこりと笑顔で褒められると、気恥ずかしくなってしまう。

 多分、勤勉なのは日本人の国民性だと思うし、慎重さは臆病の裏返しのような気がするから。

 何をするにしても、下準備をきちんとしてからじゃないと、落ち着かない性格なのだ。

 出かけるときも、必要になるかもしれないからとあれこれ持ち歩いて、荷物が増えるタイプだった。



「他のダンジョンの内部ですが、ダンジョンがある土地の冒険者ギルドに行けば、ダンジョンの地図が販売されています。出現する魔物や罠の詳細なども書いてあるものはかなり割高ですが、安全にダンジョンを攻略するために、持ち歩く冒険者も多いのです。このダンジョンにも冒険者が来るようになれば、情報が売られて地図を作られるでしょう。そういった情報は、ギルドでは高く買い取ってもらえますから」



 なるほどと、納得しながらセオの話を聞いた。

 確かに危険な場所に行くなら情報はとても大事だと思うし、高値で買い取られるということは、冒険者の間では、情報の大切さが知れ渡っているのだろう。

 でも、迷路の地図なんて作られると困るから、地図を作っても役に立たないように、何か対策を考えなければいけない。

 そうでないと、簡単に攻略されてしまう。

 攻略方法を知っていても、攻略が難しくなるように知恵を絞ろう。

 


「いくつかの冒険者ギルドに私は転移できますから、地図を手に入れるのは可能です。ですが、ダンジョンの地図というのは高価ですので、何か高値で売れそうなものを先に手に入れなければいけません。幸い、このダンジョンの周囲はランクの高い魔物の宝庫ですので、何匹か狩って解体し、その素材を売れば、資金を得られるでしょう。カヤ様のおそばを離れることを許していただけるのならば、すぐに狩りに行ってまいりますが、いかがいたしますか?」



 まるで近所のコンビニに行ってきますというような気軽さで狩りに行くと言われて、とても驚いてしまった。

 ダンジョンの周囲の魔物はとても強いみたいなのに、セオは気負う様子もない。

 


「危険はないの? 今すぐでなくても、ダンジョンのある街で売れそうなものを何か作って、それを売るという方法もあるのだから、セオに危ないことはしてほしくないの。もしもセオが怪我をしたりしたら、安易に外に出した自分を許せなくなってしまうわ」



 セオが危ない目にあったりしたらと、想像するだけで震えが走った。

 いくら主従関係だからといって、私のために尽くしてくれるセオに危険なことはさせたくない。

 セオがとっても強いのだとしても、できるだけ危険からは遠ざけたい。



「お優しいカヤ様、私はカヤ様が想像するよりもずっとずっと強いのですよ。伊達に長生きはしておりません。それに、白のケットシーは希少で、その分、能力も優れていますから、私は魔法が得意なのです。それでも、カヤ様が不安だと感じるのでしたら、一緒に、何か売れるような品物を作りましょうか。私は空間魔法が一番得意ですから、鞄などがあれば、それに魔法の付与ができます。カヤ様の世界の鞄に似たものを作り、それに空間魔法を付与すれば、こちらでは珍しいデザインの魔法鞄に仕上がるでしょう」



 私の心を思いやる優しい申し出に、大きく頷いた。

 セオにとって何でもないことだとしても、危険は少ない方がいい。

 それにセオに甘えるだけでなく、私も一緒に頑張りたい。



「何か、売れそうなものを一緒に作りましょう。それと、魔法鞄って何? 空間魔法を付与するとどうなるの? 空間魔法ってどんな魔法?」



 火とか水とかなら、まだ想像もつくけれど、空間魔法といわれてもどういったものかわからなかったので、素直に聞いてみた。

 セオは優しい表情で微笑み、空間魔法や魔法鞄について、丁寧にわかりやすく説明してくれた。

 空間魔法は一度行ったことのある場所に転移できたり、異空間に物を収納できる魔法だと聞いて、アニメなんかとはあまり縁がなかった私でさえ知っている猫型ロボットを思い出した。

 同じ猫でも、うちのセオの方がずっと素敵だけれど。

 それにしても、見た目よりもたくさん物を入れられるバッグは、日本にいるときに欲しかった。

 出かけるときに持ち歩くものはできるだけ厳選していたけれど、それでも多くて、バッグがパンパンになって見苦しくならないように荷物を纏めるのは大変だったから。



「セオって凄いのね。遠くに転移できるだけじゃなくて、あのパンのバスケットみたいな便利な鞄が作れるようになるなんて。私が読んだ本では、この世界に魔道具はあまり普及していないみたいだったけれど、魔法鞄は魔道具の内に入るの? 冒険者なら持っている人も多いのかな?」



 セオがあまりにも有能過ぎる上に、異世界らしい事柄に触れて、少し興奮してしまった。

 システムキッチンにある冷蔵庫やパンのバスケットで、同じようなものを見ていたけど、あれは多分神様っぽいお爺さんだから用意できたものだと思っていたので、その分、驚きも大きい。

 セオって私には過ぎた精霊なんじゃないかな?

 私の元にセオが来てくれたのは、とても運がよかったのだと思う。



「褒めていただけて光栄です、カヤ様。基本的に魔道具と呼ばれるものは、魔物から取れる魔石を利用して稼働させるものの総称です。ですから、魔法を付与された物は魔道具扱いされないことが多いのですが、魔法鞄はその性質から、魔石が使われていなくても魔道具の括りになっています。魔法鞄の能力は、魔法を付与する人物の空間魔法のレベルや熟練度で変わっていきますから、空間魔法の能力が高ければ高いほど、内容量の多い魔法鞄が作れます。ですが、あまり大容量の物となると、高価すぎて買い取ってもらうのも大変ですから、今回売りに出すならば、それなりの容量の物を複数用意するほうがいいでしょう。洒落たデザインの魔法鞄ともなれば、貴族の女性が喜んで購入するでしょうし、容量がそれなりでも需要は高いと思います」

 


 セオは空間魔法が得意みたいだから、物凄い魔法鞄も作れるけれど、それだときっと天文学的な値段になってしまうんだろうな。

 そんな鞄を売りに行けば目立ってしまうだろうから、それも避けたいのかもしれない。

 目立つことをしなくても、精霊というだけで目立ちそうな気もするけれど、大丈夫なのかな?

 考えているうちに不安になってきた。



「セオが町の中で物を売買するのには問題ないの? 精霊が町の中にいるのは、珍しくないのかな?」



 白のケットシーは希少だってさっき言っていたし、セオをお遣いに出して、そのせいでセオが絡まれたりとか、誘拐されたりしたら嫌だ。

 転移魔法があるから逃げるのは簡単かもしれないけど、この世界のことを知らない分、心配は尽きない。



「目くらましの魔法もありますし、姿を変える魔道具もありますから、大丈夫ですよ。カヤ様がご心配されているようなことにはなりません。私はどこに行っても、必ずカヤ様の元へ帰ってきます。ですから、安心してお待ちください。むしろ、カヤ様を一人にすることの方が心配ですから、カヤ様がお許しくださるのなら、信頼できるものを呼び寄せたいのですが。私一人でもカヤ様のお世話をすることはできますが、同性の側仕えがいた方がカヤ様も安心でしょうし、それに、カヤ様のダンジョンには、女性の視点が必要だと思います。私では相談相手として足りない部分もあるでしょう」



 性差というのはどうしようもないことなのに、自分に足りないものを認め、私が困ることのないようにしてくれるセオは、なんて誠実なんだろう。

 まだ召喚してからそんなに時間はたっていないのに、セオは私を気遣って色々と考えてくれている。

 確かに、男性のセオには聞き辛いことや、頼みにくいこともあるかもしれないから、女の人がいてくれたらいいなとは思う。

 母と同世代の人はちょっと苦手だけど、セオが信頼している相手ならば大丈夫だろう。

 まだ知り合って数時間だけど、不思議なくらいにセオは信頼できる。

 召喚したことで契約が結ばれたからなのか、セオは絶対に裏切らないと信じられる。

 見知らぬ世界で、誰も知る人のいない中で、セオを信じられるその気持ちがどれだけ私を救ってくれていることか。

 引き籠りたいと願っても、結局、人は一人では生きられない生き物なのだと思い知る。



「セオが信頼できる人なら信じられるから、お任せします。セオを召喚したみたいに、召喚すればいいのかな?」



 ダンジョンポイントが足りるかな?と、ちょっと不安になりながらセオを見ると、緩く頭を振られた。



「彼らを召喚するのはダンジョンポイントの無駄ですので、私が直接交渉します。それに、ダンジョンポイントを消費して召喚すると、ダンジョンの中にずっといてもダンジョンポイントは発生しませんが、召喚以外の方法で交渉して契約すれば、ダンジョン内に滞在してもらうだけでポイントが発生します。そういった意味でも直接契約の方がいいでしょう」



 ダンジョンポイントを消費しないで済むだけじゃなく、更に増やせるなんて、セオって頭がいい?

 私ではとても思いつかなかったし、実行もできなかった。

 セオの人脈? 精霊脈?があってこその裏技だと思う。

 


「セオ、ありがとう。セオの好意に報いることができるように頑張るからね」



 私が主人だからといって、ここまで尽くす義理はないはずだ。

 魔法鞄のことも含め、すべてセオの好意で申し出てくれたことだと思う。

 お礼を言う私を見て、セオは優しく微笑んだ。

 すべてを受け入れて包み込んでくれるようなセオの雰囲気に癒されて、心が穏やかになる気がした。





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