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順調に攻略されています




 セオの予想通り、ベイルさん達のパーティが4層に辿り着くのには2か月以上かかった。

 途中に宿があってゆっくりと休めるから、のんびりと攻略していたというのもあるけど、優秀なAランクパーティの彼らでさえ、こんなにも時間がかかるのだからと思うと、すぐにダンジョンを攻略されて困ることはないだろうと少し安心した。

 寒かった3層と違って、開放的で遊び要素が多い4層を彼らは満喫しているみたいで、たまにモニター越しに様子を見ると、とても楽しそうだ。

 最初は水着になるのを恥ずかしがっていたけれど、今ではすっかり慣れたようで、プールや海で遊んでいた。

 日焼け対策に日焼け止めを用意してあるし、それに日焼けは火傷みたいなものだから、初級のポーションがあれば簡単に治ってしまう。

 だから女性たちも日焼けを気にした様子はない。

 私の作ったシャンプーやトリートメントで、しっかりと髪の手入れをするようになったからか、みんな髪が艶々としていて美人度が上がっていた。

 奥さんに見惚れて、ベイルさんの表情は緩みっぱなしだ。


 ラザールさんの提案で、宿では避妊薬も売り出すことになった。

 こちらの世界では、魔法で半永久的に避妊することができるらしいけど、その処置を受けているのは娼館の女性が多いらしい。

 だから避妊の魔法を受けるのは娼婦というイメージがあって、避妊の魔法を受けるのは不名誉なことだそうだ。

 貴族階級だけではなくて平民でも、女性は結婚するまで純潔であることが当然とされているので、避妊の魔法は必要ない。

 お嫁に行くということは、子供を産むことと同意義だから、貴族の政略結婚などでは、妊娠出産が命に係わるという特殊な例を除いて、避妊など決してしない。

 だから避妊薬は、子供を産む時期を調整したい夫婦が使うものらしい。

 私のダンジョンの場合、ダンジョン攻略中に妊娠したとしても、問題なくダンジョン内で子供を産むことができるけれど、子連れで不帰の森を抜けて街に帰るのは厳しい。

 だから、避妊薬の設置を勧められた。

 薬師のスキルを持った精霊達が、宝箱に入れる様々な種類のポーションや魔力回復薬、万能薬などを作ってくれている。

 避妊薬の製作難易度はそんなに高くないので、私が契約している精霊達なら、相当な高品質のものが作れるらしい。

 製作難易度が低いといっても、作り手によって品質は様々で、副作用が全くなくて確実に効果のある避妊薬というのは貴重なようだ。

 高品質な避妊薬は、外では高値で取引されている。

 ダンジョン内に人が増えたら、街エリアの薬屋でも取り扱うことを勧められた。

 ダンジョン内で手に入る材料で作れるのなら、元手はただのようなものだから、かなりの利益を上げられるだろう。

 高品質とはいえ避妊薬なんて外ではあまり需要がないんじゃないかと思ったけれど、貴族階級では飛ぶように売れるらしい。

 というのも、貴族は政略結婚が多くて、必要な子供を産んだ後はそれぞれに愛人を持つことも珍しくないからだ。

 愛人との間に子供ができたら面倒なことになるけれど、外聞が悪いので避妊の魔法は受けられない。だから、避妊薬が必要になる。

 政略結婚が悪いとは言わないけれど、お互いに愛人を持つ不誠実な関係なんて、私には受け入れられないなぁと思った。





 ラザールさんは冒険者ギルドの調査団を案内した後、数組の冒険者パーティをダンジョンに案内している。

 もっとたくさん呼ぶこともできるけれど、ランクの高いパーティが何組も私のダンジョンに籠ってしまうと、外に強い魔物が出た時に対処できなくなってしまうから、数を制限しているようだ。

 不帰の森にダンジョンができて、魔力だまりが小さくなっていっても、まだまだ魔物の数は多い。

 森の周辺の国では、強い魔物に対する警戒が常に必要らしい。


 場所が不帰の森の中ということもあって、ダンジョンの情報を調査中の今は、自力でこのダンジョンに辿り着いた冒険者はまだいない。

 この先も、複数の高ランクパーティが協力し合わない限りは、難しいだろうと言われている。

 それくらい、不帰の森は広いし危険だ。

 現時点では、ダンジョンがあるらしいという噂を聞いても、しらみつぶしにダンジョンを探せるような場所ではないから、はっきりとした場所がわかるまでは情報集めに徹するだろうというのがラザールさんの考えだ。

 あまりにもダンジョンに辿り着くのが難しいようならば、森に接している3つの国からそれぞれダンジョンに辿り着けるように、道の整備などをした方がいいのかもしれない。



「セオ。冒険者達がダンジョンに辿り着けるように、道を作ったりすることはできると思う? 森の入り口からダンジョンに辿り着くまで、最短でも3日はかかるみたいだから、道の途中に野営する場所を作れたらなおいいと思うんだけど……」



 通常のダンジョンなら見つからない方がいいのかもしれないけれど、侵入者に滞在してもらってポイントを稼ぐこのダンジョンの場合は、見つけてもらわなければ話にならない。

 だから、人を呼び寄せる努力も必要なのではないかと思う。



「道を作るのは、もう少しダンジョンの有用性が知れ渡ってからにしましょう。ラジィがダンジョン発見の報告を、冒険者ギルドにしたことで、不帰の森にダンジョンができたという噂は流れていますが、ダンジョンの情報は出回っていません。あまり早い段階で、冒険者達が簡単にダンジョンに辿り着けるようになってしまったら、このダンジョン独自のルールが浸透しないでしょう。まずはラジィの選んだパーティにダンジョンを体験してもらって、少しずつ情報を持ち帰ってもらう方がいいと思います」



 どうやら道を作ることは、セオも考えていたようだ。

 より確実にダンジョン内のルールやシステムを周知させるために、色々と考えていてくれるのだと伝わってきた。

 セオのことだから、ラザールさんを呼んだ時には、既にラザールさんにパーティの選別をさせることを計画していたのだろう。

 私のために知らないところでいつも骨を折ってくれて、本当にセオには感謝しかない。

 本来は私がやらなければならない汚れ仕事も引き受けてくれているんだろうと予測がついているけれど、セオはそれを指摘されたくはなさそうだから、黙って受け入れることにしていた。

 その代わり、セオが何らかの不利益を被りそうなときは、全力で守ると決めている。

 それが主の務めだと思うから。

 私にできるのは、何があってもセオを信じることだけだ。



「それよりもカヤ様、ラジィが外で情報を掴んできたようです。アメリアの兄上と密かに接触できたので、後で報告にくると念話が届きました。ご褒美にフルーツたっぷりのタルトが食べたいと、ふざけたことも口にしていましたので、帰ってきたら叱ってやってください」



 セオがわざと捻くれた言い方をするので、おかしくなって笑ってしまう。

 本当にふざけたことだと思っていたら、ラザールさんがフルーツタルトを食べたがってたことなんて、セオは伝えたりしない。

 たまにラザールさんに対してだけは特に辛辣だから、素直じゃないセオが珍しくて、可愛いなぁと思ってしまう。

 愛称で呼ぶくらい仲がいいのにって指摘したら、どんな顔をするんだろう?

 ちょっと好奇心が刺激されたけど、何かを察知したセオににっこりと微笑まれたので、大人しく口を噤んだ。

 うん、可愛いセオを堪能するだけにして、余計な事は言わないようにしよう。

 口は災いの元とも言うしね。



「セオの好きな苺のタルトも作るから、美味しいお茶をいれてね?」


「もちろんです、カヤ様」



 私がねだると、セオが嬉しそうに頷く。

 セオはカスタードクリームだけじゃなくてアーモンドクリームも好きみたいだから、クリームたっぷりのタルトを作ろう。

 ダンジョンがほぼ出来上がった今、一日に数回、スキルで美容関連の商品を作るほかに私の仕事はあまりないので、午前中はアメリアと勉強をして、午後は好きに過ごすことが増えた。

 マスタールームのキッチンが一番使いやすいので、キッチンに籠って料理をしていることも多い。

 セオにはできるだけ、私の作った料理やお菓子を食べさせたいから。



「私はしばらくマスタールームに籠ってるから、ラザールさんが帰ってきたら教えてね」



 アメリアにとっていい話が聞ければいいと、そう思いながら、一人でキッチンに籠った。

 お菓子を作り始めると楽しくて、時間が経つのも忘れて没頭するのだった。




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