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知らないなりに思案中



 まず、ダンジョンとは、ダンジョンコアを守るための建物のようなもの。

 周囲の魔力を吸収したり、ダンジョンに侵入してきた人を殺したりすることでダンジョンポイントを得て、そのポイントでダンジョンを広げたり、防衛のための魔物を召喚したりできる。

 ダンジョンポイントを得る方法は他にもあって、ダンジョンに侵入してきた人が滞在する時間が1時間を超えると、ダンジョンポイントが発生する。

 滞在時間が長くなれば長くなるほど得られるポイントは増えるが、殺した時と比べるとかなり少ない。



「魔力の吸収でもダンジョンポイントはもらえるんだし、長時間滞在してもらって、無事に帰すいい方法はないかな? 時間がかかるといえば、迷路とか思い浮かぶけど……。迷路の途中で、かかったら入り口に転送される罠を設置したら、もう一度やり直しだから、その分、攻略に時間を食うよね?」



 ノートに迷路と罠と書き込んで、攻略に時間がかかりそうな方法をいくつも思いつく限り書き連ねてみる。

 具体的にダンジョンポイントがどの程度手に入って、私のやりたいことでどれくらい消費するのかわからないから、机上の空論にしかならないけれど。

 私がダンジョンマスターになった後、しばらくの間はダンジョンが見つからないように隠してもらうことができるだろうか?

 もう一度勇者を誕生させるのは間に合わないにしても、まだ子供だった勇者が成長するくらいの時間はあるんだろうし、何年かの猶予がもらえたらいいんだけど。

 お爺さんの目的は魔力だまりの魔力を吸収することみたいだから、ダンジョンを作った段階で一応の目的は果たしているはず。

 他にも何か魔力だまりの魔力を減らす方法があるといいんだけど。



「冒険者達は、宝が欲しいからコアを目指す。ということは、コア以外の宝が定期的に手に入れば、無理にコアを探したりしないんじゃないかな? ダンジョンを存続させた方が得だと思ってもらえればいいのよね。ついでに、長期滞在してもらえれば、入ってきた人達を殺さなくてもよくなるんじゃないかな?」



 他とは違う、唯一の売りが必要だと思う。

 このダンジョンでなければ手に入らない物を何か作れれば、そしてそれが必要とされれば、コアを壊される可能性は低くなるんじゃないだろうか。

 思いつくことを呟いて、考えをまとめながらノートに書き散らし、よりよい方法を模索していく。

 冒険者をダンジョンの侵入者と考えるんじゃなく、お客様と考えれば、いい方法が見つかるような気がした。

 それに危険がないと知れ渡れば、冒険者以外の人もダンジョンを訪れるようになるかもしれない。

 侵入者をお客様と考えるのなら、客層が広がるのはとてもいいことだろう。



「うーん。違う世界の人の価値観とか、生活習慣とか、その辺りがまったくわからないから、何が喜ばれるのか、何が宝なのかわからない……」



 悩みながら視線を巡らすと、机の上にある辞書のような本が目についた。

 さっきまではなかったような気がするんだけどと、不思議に思いながら本を開くと、私の知りたいことが項目ごとに日本語で記されていた。

 それによると、ダンジョンを作ることになる世界は、エルフやドワーフなどの人間以外の種族もいるようだ。

 獣人族も多く、ダンジョンが作られる予定の大陸には、獣人族の国もあるみたいだ。

 そのほかに精霊なども存在していて、気まぐれに人々を助けているらしい。


 生活水準ははっきり言って高くない。

 魔法や高価な魔道具が使える王侯貴族はそれなりの生活をしているみたいだけど、一般の人の生活は、江戸時代とか、それくらい昔の生活に近いようだ。

 水は井戸から汲まないといけないし、トイレは穴を掘ってスライムを入れてるだけみたいだし、お風呂は銭湯のようなものを利用するみたいだ。

 魔物の肉が食べられるので、食材はそれなりに豊富みたいだけど、お菓子などの嗜好品は手に入りづらいようだ。

 砂糖やはちみつなどの甘味が高いらしい。

 魔物を倒した時に手に入る魔石で便利な魔道具が作られているみたいだけど、それも私の知っている電化製品と比べると貧相で、この世界の主婦は大変そうだなと思う。

 服は、綿や麻が主流のようだ。絹は贅沢品で、蜘蛛などの魔物から取れる糸で作った布は高級品らしい。

 この蜘蛛をダンジョンで召喚して、糸を取れるようにすれば、宝箱に布を入れられないだろうか?

 他にも虫系の魔物から取れる糸で、特殊な布が作れるようだから、ダンジョン内で意図的に繁殖させられれば、量産できそうな気がする。

 砂糖やはちみつも、サトウキビの栽培や養蜂がダンジョン内でできるなら、それで何とかならないのかな?

 ダンジョンの外では高値で販売されている品物を提供することで、冒険者と共存できたらいいのだけど。

 でもこれだけだと、まだ弱いかなぁ。

 


「あ、でも、ダンジョンの位置によっては国が介入してきたりするのかな? 安全で利益が出るとわかれば、欲を出す人も絶対に出てくるはず。どこの国にも属してない場所だといいんだけど」



 後でお爺さんに確認しようと、ノートに赤で書き込んで、色々と対策を立てていく。

 今は人付き合いが面倒で、引き籠ってしまいたいと思っているけど、働くのは嫌いじゃない。

 バイトを始めたのは大学に入ってからだけど、喫茶店で働くのはとても楽しかった。

 マスターにせっかく珈琲や紅茶の美味しいいれ方を教えてもらったんだから、ダンジョンでの生活でも活用できるといいなぁと思う。

 

 本を更に読み進めていくと、魔法についても詳しく書いてあった。

 あちらの世界の人達は、多かれ少なかれみんな魔力を持っていて、生活魔法くらいは誰でも使えるらしい。

 洗浄の魔法でトイレットペーパーがいらないのは便利なのかなぁ?

 魔法のおかげで疫病は発生しづらいみたいだけど、代わりにお風呂がなかなか普及しないみたいだ。

 銭湯があっても通うにはお金がかかるから、仕方がないのかな。

 魔法があるのもいいことばかりじゃないのかもしれない。

 大規模な魔法は魔石などを媒介にして発動させるみたいだけど、それは大きな街一つを結界で覆うなどの特殊な物だけで、その他の魔法は魔力と素質があれば使えるようだ。



「私も魔法が使えるのかな?」



 使えるようにしてくれる気がするけど、要確認だ。

 これも赤で書き込んで、どんな魔法があるのか調べていく。

 石鹸はあまり質が良くないみたいだったし、石鹸とかシャンプーとか、あとは化粧水なんかも作れるスキルがあるといいんだけど。

 できるなら入浴剤のようなものも欲しいし、お風呂上りに体をケアするためのクリームも欲しい。

 なかった時は、香油のようなもので代用するしかないのだろうか?

 でも、代用品があるとしても、ダンジョンから出られないんじゃ手に入れる方法がない。何とかして、ダンジョンの中でそれら手に入れる方法を見つけなければならない。

 欲しい能力や欲しいものなども、思いつくままに書き込んでいった。

 却下されるにしても、要望くらいは出しておこう。

 あまりにも生活水準が落ちすぎると、やる気が出ない。

 本を見た感じではパンが主食だったけれど、和食の材料も手に入るのかな?

 ダンジョンは森の中みたいだけど、海の魚も何とか手に入るといいなぁ。

 昆布とか鰹節とか、手に入らないと困るものは山ほどありそうだ。

 キッチン用品にしても、当たり前のように使っているラップとかキッチンペーパーとかクッキングシートとか、代用品があるんだろうか?

 食器用の洗剤とか漂白剤とか、日用品はないと不便なものが結構多い。

 ダンジョンポイントを消費してもいいから、手に入るといいんだけどな。


 魔法を使う素質のようなものはスキルと呼ばれているらしい。

 スキルは魔法だけでなく、全般にわたって存在していて、その人の能力を示している。

 スキルには生まれつき持っているものと、生きていく上で自然に覚えるものがあるようだ。

 私もスキルを持っているんだろうか?

 これも、後でお爺さんに聞いてみよう。

 持っていなかったとしても、何とか取得できるといいんだけど。


 情報を得て、色々と思いついたことを書き連ねてみたけれど、侵入者と敵対しない、共存するためのダンジョンならば作れそうな気がした。

 どれくらいダンジョンポイントが入ってきて、どの程度消費するのかわからないから、はっきりと大丈夫と言い切るだけの自信はないけれど、ダメだったときはダメだったときのことだ。

 少しでも魔力だまりの魔力を吸い取れれば、その分、国が滅ぶ確率は低くなるだろう。

 何もやらないよりはずっとマシなはずだ。

 コアが壊されれば死んでしまうけど、元々死んでいるはずだったんだし、これからの人生はおまけのようなものだと思えば、そんなに怖くない。

 もしかしたら、現実感がないからそう思うだけで、いざ死にそうになったら怖いのかもしれないけれど。

 死にたいわけじゃないから、死なないように精一杯足掻いてみる。それでいいんじゃないかなって思った。




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