絶賛混乱中 ベイル視点
「お客様、ポイントカードをお作りになりませんか? 当ダンジョン内でお食事や宿泊をしていただきますと、そのたびにこちらのカードにハンコを押させていただきます。ポイントがたまりましたら、景品と交換することができますので、お作りすることをお勧めしています」
食事を終え、会計をしようとしたところで、ポイントカードなるものを勧められた。
交換できる景品の一覧表を見たんだが、どういったものかわからない品も含まれている。
「えっ!? これ、魔法鞄って、本当? このポイントというのを貯めるだけで、魔法鞄をもらえるの!?」
一覧表を見ていたアニスが、驚きの声を上げる。
魔法鞄といえば、ダンジョンの宝箱から出たり、空間魔法を使える奴が作った物が少量で回っているだけで、冒険者にとっては夢のアイテムだ。
俺達はみんな魔法鞄を持っているけれど、クライヴ以外は容量も少なく、ないよりはマシといったレベルのものしか持っていない。
「1000ポイントでもらえる魔法鞄は、馬車5台分くらいの容量のものです。2500ポイントまで貯めていただきますと、こちらは馬車20台分くらいの容量になるそうです」
馬車5台分でも、かなりの容量だ。
手に入れようとすればかなり高いし、そもそもあまり出回っていない。
それを、ポイントを貯めるだけでくれるって、嘘だろ……。
「カード、作ります!」
チェルシーがものすごい勢いでカードの作成を頼んでいる。
気持ちはよくわかるが、落ち着け。
早く作ったところで、すぐにポイントが貯まるわけじゃない。
「みんな作るよな?」
一応俺がリーダーなので代表して声を掛けると、頷きが返って来たので、人数分のポイントカードを作ってもらうことにした。
淡いピンクのカードは分厚い紙でできていて、いくつかに折り曲げられている。
広げてみると細長い一枚の紙で、表にも裏にもハンコを押す枠が並んでいた。
このカード一枚で1000ポイントが貯められるようで、早速一つ押されているのを見ると、貯めるのが楽しみになってきた。
ただ1000ポイントの魔法鞄まではかなり遠い。
「それでは、少しだけカードの説明をさせていただきます。こちらのカードは、食事や宿泊の料金を支払う時に、一緒に出していただければハンコを押させていただきます。この先にも宿や管理のための施設などがございますので、景品はいつでも交換できます。カードを紛失した場合は、また作り直しになりますので、紛失しないようにご注意ください。1000ポイントたまりますと、2枚目のカードに移行します。宿泊やお食事以外でもポイントが付くこともありますので、ポイントが付く場所ではこちらの方からカードの有無をお尋ねします。以上の説明で、何か、わからないことなどございますか?」
失くしたらやり直しというのが痛いな。
それにしても、宿はここだけじゃないのか。
ところどころに宿があるなんて、本当にダンジョンなんだよな?
自分がどこにいるのか、はっきりと確信が持てないまま、作られたカードをしっかりと魔法鞄にしまい込んだ。
色々といっぺんに情報が流れてきて、頭が飽和状態で、説明に対する疑問なんて思い浮かびもしない。
「他の場所でも聞けば説明してくれるんだろ?」
「はい、もちろんです。不明な点はいつでもお尋ねください。それから、ラザールさんのカードには、紹介ポイントも押しておきますね」
ラザールが問いかけると、響くように答えが返ってくる。
後でも聞けるなら、今じゃなくていいか。
それにしても紹介ポイントってなんだ?
ラザールの出したカードに一気にハンコの数が増えて、ちょっと羨ましい。
「当ダンジョンにお客様を案内していただいた場合、案内してくださった人数分のハンコを押すことになっています。パーティで案内してきた場合、誰かひとりのカードに纏めてでも構いませんし、分散させても構いません」
俺達が疑問に思っていることを察して、わかりやすく説明してくるあたり、本当によく教育されている。
いくら魔物が減ってきてるとはいえ、不帰の森を抜けられる冒険者は少ない。
護衛も兼ねて案内することを仕事にする冒険者も、そのうちに出てくるかもしれない。
「迷路に挑戦していただく前に、ダンジョン内のルールの説明をさせていただきますね。まず、お客様同士の暴力行為は禁止しています。争いになった場合、一時的に懲罰エリアに転移させられます。その後、暴力の度合いによって日数が違いますが、鉱山で働いてもらうことになっています。あまりにも度重なるルール違反の場合、ダンジョンの外に出されますのでご注意ください」
冒険者同士の争いは、はっきり言って珍しくない。
クエストをやるより、奪う方が楽だと思っている輩もいないわけじゃないから。
ただ、そういう奴らはよくてBランクだ。
複数のパーティで協力しなければ、森を抜けてこのダンジョンまでやってくるのは難しいだろう。
他にもダンジョン内の施設の従業員や、ダンジョン内で働いている従業員には保護が掛かっていて、殴りかかっただけでも懲罰エリアに転移させられること、パーティの中の個人が罪を犯した場合、罪を犯した者だけが隔離されることも聞いた。
ここって、物凄く安全な場所なんじゃないか?
この先も宿があって、そこで休みながらダンジョンが攻略できるのなら、疲れも残らないし補給もいらない。
何年だって楽に籠っていられるダンジョンだ。
「続きまして、迷路の説明をさせていただきますね。迷路の中には宝箱が3つあります。宝箱の取り逃しがないよう、迷路には、一度に一つのパーティしか挑戦できません。ところどころ、罠も仕掛けてありますので、注意しながら迷路をクリアしてください。全部で6つの迷路を抜けますと、次の階層に続く階段を見つけることができます」
6つも迷路があるのか。
だが、迷路一つにつき3つも宝箱があるのなら、ダンジョンの一層にしてはかなり宝箱が多いことになる。
通常のダンジョンの一層などは、全体で宝箱が2~3個あればいい方だし、中身もしょぼい。
「罠といいましても、命にかかわるようなものはございませんので、安心してお進みください。どうぞお気を付けて」
リタという赤毛の少女に見送られ、わくわくとしながら迷路に向かう。
「ラザールはこの迷路、抜けたことあるんだろ? 地図とかあるのか?」
ダンジョンに入ってからも同行してくれているラザールに問いかけると、にやにやと人の悪い笑みを浮かべたまま首を振る。
「ここの迷路な、地図を作っても意味がないんだ。どういう仕組みかわからないけど、道が変わるからな」
は? 道が変わる?
そんな迷路の話は聞いたことがない。
迷路自体は、ダンジョンではたまにあるが、どれもそこまで入り組んだものではなく、すぐに地図も出回るので難易度は高くない。
俺達のパーティも、今まで未攻略部分の地図を作って売り払ったことがあった。
「とりあえず、行くぞ。ここでは死ぬどころか、怪我もしねぇよ」
ダンジョンなのに怪我の心配すらいらないことを不思議に思いながら、迷路に足を踏み入れた。
全員が入ると、入り口が生け垣で封鎖されて、ほんの一瞬焦ったけれど、ラザールは全く動じていないのですぐに落ち着いた。
そして、綺麗な赤薔薇の咲く迷路を歩き出したのはいいけれど、割とすぐに罠に掛かって、入り口に戻されてしまうのだった。
三度罠に掛かったところで、今日はもう諦めて宿に泊まることになった。
何でこんなところに宿があるんだ?と思ったけれど、罠に何度もかかったことで、入り口に宿があることの重要性に気づかされた。
ラザールの言う通り、命の危険も怪我の心配もないが、苦労はさせられそうだ。
この先、かつてないほどに攻略に苦労させられることを知らず、俺達は宿の料理を堪能するのだった。




