ダンジョンへの誘い ベイル視点
Aランクパーティ『暁』のリーダー視点。
しばらく彼視点の外から見たダンジョンの話です。
世界に7人しかいないSランク冒険者であるラザールから、耳寄りな情報をもらえたのは本当に偶然だった。
不帰の森に接している大国シルヴァの王都に、俺はパーティメンバーと共にしばらく滞在していた。
というのも、同じパーティのメンバーであり、俺の最愛であるアニスと、ついに結婚することになったからだ。
美しいアニスには最高の花嫁衣装を着てほしいと、服飾文化の栄えているシルヴァに向かい、親友でもあるクライヴの手も借りて素晴らしい衣装を仕立てることができた。
友人や仲間達に祝福されながら無事に式を挙げ、今は新婚生活の真っ最中だ。
俺達はAランクのパーティなので、それなりに稼ぎもある。
たまには休暇を取るのもいいだろうと、仲間とは久しぶりに別行動をしていた。
他のメンバーは知らないことだが、サブリーダーのクライヴはシルヴァ王国のバシェリー公爵家の三男だ。
どうしても外せない実家関連の仕事があるとかで、しばらくの間は別行動をすることになったから、休暇を取るにはちょうど良かった。
退屈したときは、単独でもこなせそうな依頼を受けて、アニスと二人で狩りに出かける。
シルヴァの王都にはダンジョンもあるので、そこに潜ることもあった。
新婚だっていうのに、のんびりしてられないのだから、俺達は根っからの冒険者なのだと思う。
そんな日々を過ごしていた時、王都の冒険者ギルドでラザールに声を掛けられた。
相変わらず同性でも見惚れてしまうような美貌の持ち主だ。
冒険者歴は相当長いらしいが、外見は10年以上前に知り合ったときから全く変わらない。
人族である俺とは種族が違うから当然のことかもしれないが、出逢った頃は年上に見えていたラザールが、今となってはかなり年下に見えるのがとても不思議だ。
本当はラザールさんと呼びたいほどに格上の相手だけど、堅苦しいのは嫌いだという本人の希望で、呼び捨てにさせてもらっている。
ラザールが言うには、俺達のパーティは半数が女だけど、誰も自分に色目を使おうとしないので、一緒にいて気楽でいいそうだ。
ラザールの目に留まりたい冒険者は、男も女も掃いて捨てるほどいて、一夜だけでもいいからと関係を持ちたがっている奴も多い。
そういった欲に満ちた目にラザールはうんざりとしていて、必要な時だけ娼館を利用していると聞いた。
色街にもラザールの武勇伝があるそうで、王族を袖にした高級遊女を一晩で骨抜きにしたとか、遊女が一人では相手をしきれず、複数の遊女を抱きつぶしたという話は特に有名だ。
俺達はシルヴァ王国内にいることが多いけれど、ラザールは気ままに放浪しているから、滅多に逢うことはない。
偶然逢うことがあれば飲みに行ったりもするけれど、それも多くて年に2~3回のことだ。
前回ラザールにあったのは、やっぱり王都で、半年くらい前だっただろうか?
あの時も思ったけど、妙に機嫌がいいように見える。
もしかして、ラザールにも特別な人ができたのだろうか?
「ベイルのとこのパーティなら、不帰の森にも入れるよな?」
内密の話ということで、今回は俺だけがラザールと飲んでいた。
不意の問いかけに、少し躊躇いながらも頷く。
確かに俺達ならば不帰の森にも行けるだろう。
でもさすがに、森の奥にいるドラゴンを相手にしろと言われたら、かなり厳しい。
それに、いつかはクライヴを公爵家に返さないといけないから、あまり危険すぎることはできないという事情もあった。
「森に入るだけなら間違いなく。ただ、ドラゴンと戦えと言われたら、さすがに厳しいな」
もしかしたら倒せるかもしれないけど、その場合無傷とはいかないだろう。
あまり無茶はしたくない。
「あぁ、さすがに新婚にそんな酷なことは言わねぇよ。そうじゃなくてさ……」
そこで声を潜めたラザールが、秘密の話をするように顔を寄せてくる。
「ダンジョンが見つかったんだ」
直後、耳元で告げられた言葉を聞いて、思わず声を上げそうになった。
不帰の森にダンジョンがあるなんて、噂ですら聞いたことがない。
間違いなく未発見の新しいダンジョンだと思うと、冒険者の血が騒ぐ。
不帰の森のどの辺りにあるのかわからないが、少し無理をしてでも行ってみたい。
「ベイルの結婚祝いに俺が案内するからさ、一緒に行かないか? もちろん、他のメンバーも連れて」
ダンジョンの情報をもらえただけでも破格なのに、Sランクのラザールが同行してくれるなんて、あり得ないような好待遇だ。
危険な森の中で迷わずに済むし、ラザールがいるだけで危険度がぐっと下がる。
これが他の冒険者からもたらされた話なら、話がうますぎると疑うところだけど、ラザールの話なら疑う余地もない。
Sランクというのは、強ければなれるというものではない。
強い影響力を持つからこそ、人格なども重視される。
人を騙して嵌めるような奴は、絶対にSランクにはなれない。
「案内してくれるならありがたいが、少しだけ時間をもらえるか? 今、クライヴが実家に帰ってるんだ」
それだけ言えば、ラザールは事情を察したらしい。
特にクライヴが打ち明けた様子はなかったけれど、ラザールはクライヴの事情を知っていた。
Sランクには、俺達では知りえない情報網があるのだろう。
ドラゴニュートであるラザールは、精霊の知り合いも多いと聞く。
人の世に係わっている精霊には、情報通が多い。
「じゃあ、クライヴが帰って来てからでいい。準備が整ったら、冒険者ギルドに伝言しといてくれ」
「多分、そんなには待たせないと思う。今日にでもクライヴには連絡をしておくから」
お互いに王都にいるんだから、連絡は簡単につく。
貴族のお付き合いに疲れ果てたクライヴは、喜び勇んで戻ってくるだろう。
その後はお互いの近況などを話しながら少し飲んで、あまり遅くならない内に、俺は愛するアニスの待つ宿に戻った。




