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隠された時間の終わり




 セオが紹介してくれたラザールさんのおかげで、悩んでいたボスモンスターの問題が片付いた。

 ラザールさんの住んでいた郷のドラゴンで、のんびり隠居したいドラゴンたちが引っ越してきてくれることになったのだ。

 ダンジョン作成にはいくつかのルールがあって、その内の一つが、10層ごとにボスモンスターを配置することだった。

 ボスモンスターを置かない場合、ダンジョンマスターがボスとして扱われ、ボスフロアに侵入者が来た場合、ボス部屋から動けなくなる。

 他にもいくつかのルールがあって、次の階層に続く階段か転移陣は必ず作らなければならないとか、答えのない謎を仕掛けてはならないとか、一層に最低一か所は安全地帯を作るとかの基本ルールは、必ず守らなければならない。

 

 移住してくるのはほとんど人化できるドラゴンだったので、出来る限り話し合いをして、ドラゴンたちが望むような環境の階層を作り上げた。

 山があって森があって湖があって、他の階層よりも高さがある。

 人型になった時に暮らせる家も作ったし、外に出るための転移陣も設置した。

 ダンジョンの中だから、どんなに頑張っても高度には制限があって、広い空を飛び回る快適さを与えることはできない。

 幸いここは森の中だから、ドラゴンが飛んでいても目につくことはないので、ボスモンスターとして設定した長老以外は、好きな時に外に出られるようにした。

 そうしたことで、安全な環境で子作りをしたい若いドラゴンも引っ越してきてくれることになって、10層はドラゴンだらけの階層になった。

 たくさんのダンジョンを知っているラザールさんが、『こんなの、絶対、クリアできねぇ……』と、現実逃避したように遠くを見ながら呟いていた。

 ドラゴンの群れを見た瞬間に、どんなに強い冒険者だって撤退を選ぶそうだ。

 今のところ10層まで来させる予定はないから、クリアできなくてもいいんじゃないかな?

 11層に移動した居住区に、ダンジョンのルールでボス部屋から移動できることになっているけれど、ドラゴンの棲み処にある階段を通って居住区を目指せるような勇者は、まずいないだろう。

 そんな強者がいるならば、魔物が増えても対処できてただろうから、私がダンジョンを作る必要もなかったはずだ。

 ちなみに11層に居住区を持ってきたのは、コアに辿り着くためには最下層まで攻略しなければならないという先入観を利用するためだ。

 コアルームに繋がっているのは、居住区にある屋敷の執務室だけど、居住区の次にも続く階層があることで、見落としてくれることを狙っている。

 ドラゴンのいる層を抜けられる冒険者はまずいないだろうけど、備えは必要だ。



 Sランクが7人集結したら、不帰の森の魔物を殲滅できるんじゃないかと思って、ラザールさんに聞いてみたけど、魔力が溢れすぎていてすぐに次の魔物が生れるので、イタチごっこになるだけらしい。

 それでも狩り続けていれば、魔力が薄まっていくそうだけど、それは微々たるものだし、魔物同士が争うことで勝った魔物のレベルが上がって強くなっていくので、Sランクが揃ったところで対応しきれないそうだ。

 不帰の森は3つの国と接しているけれど、森はかなり広くて、接している国々を合わせたくらいの面積がある。

 森に接している国は、過去に何度も森を切り開いて領土を広げようとしてきたけれど、下手に切り開くと奥から強い魔物が溢れてくるので、断念せざるを得なかったようだ。


 何にしても、ドラゴンたちやラザールさんのおかげで、一日に得られるダンジョンポイントがかなり増えていた。

 淫魔族の勧誘もして、街エリアで暮らしてもらうようになったので、その影響もあるようだ。

 子供だけでは対処できないこともあるからと、セオは成人済みの奴隷も購入するようになって、そうした人たちに街エリアの店舗を任せることにした。

 成人済みの奴隷のほとんどは、最初から街エリアに住んでもらっているので、私と顔を合わせたことはない。

 奴隷たちの主はセオなので、誰に何を任せるかなどの采配は、すべてセオに任せている。


 宿だけでなく、レストランやカフェに居酒屋、雑貨屋など、日本では当たり前だったものから、魔道具屋や武器屋、防具屋に薬屋など、冒険者には必須のお店も用意した。

 宝箱に武器は入れないけれど、防具を入れることになっているから、防具を作れる人が必要だ。

 それに2層で肉を得るために戦うには武器がいるから、ダンジョン内で武器が全く必要ないわけではない。

 武器の手入れをしてくれる職人も必要だからと、ラザールさんが知り合いのドワーフを勧誘してきてくれた。

 ダンジョン内で作られているお酒を持っていったら一発だったそうだ。

 精霊よりもドワーフの方が更に酒好きで、数人のドワーフが増えただけで明らかにお酒の消費量が増えているから、酒造のためだけに階層を一つ増やした。

 今後人が増えれば、お酒の消費量はもっと増えるだろうから、今のうちから備えておくことが大事だろう。


 淫魔族のお姉さま方は、セオの予測通り化粧品で釣れた。

 美しくなることに対する執着が半端なく、日本では当たり前だったランジェリーなどもお気に召したようで、女性を美しく見せるための下着や服の生産も始まった。

 服飾のスキル持ちの精霊は多く、その中でも特に腕のいい精霊が張り切っているので、既製服を売る店だけでなくランジェリー専門のお店もできてしまった。

 外では、古着屋はあっても新品の既製服を売る店というのはないそうだから、そういったお店もこのダンジョンの特色になるだろう。

 まだ、ダンジョンに訪れる人はいないのに、街の中が段々整っていく。

 今のところはダンジョンの住人だけがお客様だけど、奴隷の子もみんな給料をもらっていて、休日などに欲しいものを購入したり遊んだりしているので、それなりに利益も出ている。

 特に飲食店などは、食材などを自給自足しているので、利益率が大きい。


 従業員たちの宿舎や宿の他に、長期滞在者用のアパートのようなものも用意した。

 この層での滞在中の様子などを見て、問題ない人だけが6層以降のエリアに家を持てるようにする予定だ。



 1層が迷路、2層が落とし穴のある草原、3層がウィンタースポーツが楽しめる雪山で、4層は海にした。

 雪山ときたら、次は海だろうと、南国のビーチをイメージした海エリアだ。

 気候を亜熱帯にして、トロピカルフルーツの果樹園なども設置したので、有料で果物狩りもできるようになっている。

 海ではもちろん泳げるようにして、水着も販売することにした。

 人が増えたら、淫魔族のお姉さま方に水着姿で客寄せをしてもらう予定だ。

 海だけでなく、浅くて幅の広い川も作って、水遊びもできるようにした。

 川床のある食事処も作ったので、せせらぎを聞き、涼みながら、食事を楽しんでほしいと思う。

 どうせなら打ち上げ花火を上げることができないかと、今は精霊達が試行錯誤している。

 花火を作ってもいいし、魔法で花火をあげてもいいし、花火の魔道具を作ってもいい。

 タブレットで見せた打ち上げ花火の映像をみて、綺麗なものが好きな精霊達は喜んでいたので、そのうちに形になるだろう。


 4層の宿は、プール付きの3階建ての宿と、海上にある複数のコテージだ。

 コテージは一度行ったことのあるモルディブの水上コテージに似たものを設置できたので、それを利用した。

 プールに関しては、私のイラストやタブレットの映像を見て、精霊達が頑張って作ってくれた。

 流れるプールは魔道具で緩やかな水流を発生させているし、巨大な滑り台などは、こちらの世界でしか手に入らない金属で作ってあるのでさびないし、強度もある。

 体格のいい種族の人が利用しても、壊れたりしないように作ってもらった。

 他にも飛び込み台を設置した深いプールもあるし、子供用の浅いプールも作ってあるし、きっと楽しんでもらえると思う。

 ここから次のエリアに行くために必要なのは、すべての施設を回ってスタンプをもらうことだ。

 宿でもらった台紙にすべてのスタンプをもらうことで、次の層への鍵の在り処がわかるようになっている。

 これももちろん、定期的に鍵の場所を変えるので、毎回すべての施設を回ってもらわなければ、鍵は手に入らない。

 他のパーティに答えを教えてもらって、鍵の在り処に直行しても、すべてのスタンプが押された台紙がなければ鍵はもらえないので、楽をして次に進めないようにしてある。

 気づくかどうかはわからないけれど、急いでこの層を抜けたいのならば、各所でスタンプをもらった台紙を、答えと一緒に売ってもらうという方法もある。

 パーティで人数分の台紙をもらい、すべての台紙にスタンプをもらって、答えと一緒に他のパーティに売りつければ、かなり稼げるようになると思う。

 この層でも答えが切り替わる日は告知してあるから、情報が古くて役に立たないなんてことにはならない。

 どの階層にも抜け道はあると思うし、やり方は人それぞれなので、他人に迷惑を掛ける行為以外はあまり厳しく取り締まるつもりはない。

 要は長くこのダンジョンに滞在してくれれば、それでいいのだ。

 気に入った層に居ついて商売をしてくれるのなら、それはそれで構わない。


 ダンジョン内でも金策ができるように、このエリアには鉱山もある。

 居住区の山だけでは鉱石が足りないので、今は奴隷の子達がお休みの日に鉱石を掘りにきたりもしている。

 週に二日お休みを入れるようにしたけれど、みんな鉱石を掘ったり薬草を摘んだりして、それを売ることでお金を稼いでいるようだ。

 中には自分の技能を活用して、売り物になるような小物を作ったりする人もいるので、そういったものも買い取っている。

 そのうち人が増えたら、雑貨屋で売り出す予定だ。

 支給した魔法鞄がみんなに有効活用されていて、セオや空間魔法持ちの精霊達には迷惑を掛けてしまったけれど、魔法鞄を支給してよかったと思った。


 5層目が街エリアだけど、ここに冒険要素は何もない。

 商取引などを行うためのエリアで、そのうち、冒険者を護衛に雇ってやってくる商人も出てくるのではないかと思っている。

 4層までは謎解きなどを入れるようにしていたけれど、どのエリアもかなり広げてあるので、慣れたとしてもクリアするのに時間がかかるだろう。

 4層までで十分にこのダンジョンの有用性は示せていると思うから、あえて五層からは街のように作ってある。

 意図していたわけではないけれど、魔物を配置せず、安全性を重視してダンジョンを作ったことで、ここはこの世界のどこよりも安全な場所になってしまった。

 そのうち、ここに移住したいという人も出てくるだろうと、私達は予測している。

 そうなったときに受け入れられるように、街を整えてルールを定めなければならない。

 暴力行為などのルール違反をした人をどう取り締まるか、外とは違うルールをどう周知させるかという問題があるけれど、何とか解決していきたい。

 とりあえず人が少ないうちは、街エリアにだけ、治安を守るためのゴーレムを設置することにした。

 ゴーレムといっても、スリムで素早い身動きができるタイプのゴーレムにしたので、犯罪者を取り締まるには打って付けだ。

 街エリアの一角の屋敷の地下に収容所を作ったので、そこに留め置くことになるだろう。

 罰則は罰金刑か強制労働を考えていたけれど、セオが言うには、このダンジョンの外に出されるというのが、一番の罰になるそうだ。

 安全で簡単に宝が手に入るダンジョンは、冒険者にとってはとてもありがたいダンジョンだから、そこから一人だけ出されてしまったら、それまでのパーティメンバーと合流するだけでも一苦労だ。

 一人で森を抜けて町に帰るのは無理だから、外に出されると完全に詰んでしまうらしい。

 外は危険だから、一人で外に出したら命に係わるのではないかと思ったけれど、最悪の場合は、近くの街にでも転移させるので、心配いらないと言われてしまった。

 ちょっとしたことで外に出すのはかわいそうだから、悪質な場合に限り外に出すというのがいいのかもしれない。

 外に出されたことで、怒って頭に血が上った冒険者がやってくる可能性もあるから、入り口の宿の従業員は、腕の立つ人にした方がいいだろう。

 最近、ダンジョン内の奴隷たちがやけに強くなっているみたいだから、人選に困ることはないのかな?と思っているけど、あまりスパルタ教育をしないように、セオに言っておいた方がいいだろうか?

 でもあの子達、やけにセオに懐いていて、セオの目標としているラインに達することができるようにと努力を惜しまない頑張り屋ばかりだ。

 セオの教育の賜物なんだろうか?

 私が直接言葉を交わす相手は限られているので、顔や名前は知っていても話したことがない人はかなり多かった。

 特に成人済みの人を私に近づけることを、セオが警戒しているようなので、セオに心配を掛けないように、よほどのことがなければ声を掛けないようにしている。

 料理やお菓子などのレシピを伝えるのは、エイミーやベラがやってくれるので、私が直接教えることはない。

 セオやエイミー、それから最近はラザールさんも手伝ってくれるので、私は私にしかできないことに専念することができていた。


 セオが新しくつけてくれたメイドのアメリアから、外の世界の一般常識なども学んでいる。

 私はどう頑張っても平民に見えないそうなので、ダンジョンに人が増えた時に貴族の令嬢だと勘違いさせられるように、貴族らしい言葉遣いや立ち居振る舞いを覚えている最中だ。

 アメリアはまだ15歳なのに、大人びた雰囲気の美少女だ。

 柔らかそうな金髪にとても綺麗な空色の目をした美人さんで、伯爵家の令嬢だったのに婚約者と義理の妹に騙されて奴隷商に売られたのだと聞いた時は、我が事のように腹が立った。

 奴隷の子達は、みんなそれぞれに理由があって奴隷になっているのだから、アメリアだけが特別に不幸というわけではないかもしれないけれど、でも、婚約者や家族に裏切られてというのが、自分の境遇と少し重なってしまったのだ。

 今ではもうほとんど思い出すこともないけれど、あの日、母をソファに押し倒している彼を見ていなかったら、私はまだ生きていて、日本で生活していたと思う。

 ダンジョンマスターになることなどなく、普通に大学生活を謳歌していたに違いない。

 それと同じように、アメリアだって婚約者と義妹が裏切りさえしなければ、今も貴族の令嬢として幸せに暮らしていたことだろう。

 私が日本での生活を取り戻すことはできないけど、アメリアが元の生活を取り戻すことはできるはず。

 だから、せめてアメリアだけでも何とか元の生活に戻してあげたい。

 そんな理由もあって、一人だけ特別扱いはよくないと思いながらも、アメリアを甘やかしてしまう。

 妹がいたらこんな感じだったのかもしれないと思うようになった。



 ダンジョンマスターになってもうすぐ2年が経つ。

 ダンジョンが隠されている時期が終わろうとしていた。

 まずはラザールさんの知り合いの冒険者たちを誘い込むらしいけれど、どういった反応が得られるのか、楽しみなような不安なような複雑な心境だった。





次の話でいよいよダンジョンがオープン。

最近、別視点が続いていたのですが、またしても別視点になります。


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