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すべては主のために  セオドア視点

セオドア視点です。




 目論見通りラジィを引き摺り込んだことで、効率よくダンジョンポイントが稼げるようになった。

 森の魔物が減らなければ、ダンジョンに冒険者がやってこないので、私や他の精霊達も時々間引いていたけれど、魔物と戦いなれたラジィが来てくれたことで、かなり討伐が楽になった。

 奴隷の子供たちに止めを刺させることで楽にレベル上げもできたし、解体の仕方なども教えられたので、効率よく成長させることができた。

 やる気のある子を集めて戦闘訓練もしているので、成人前でもあの子達はとても強い。

 今後はきっと、カヤ様を守ってくれることだろう。


 ラジィが気難しいドラゴンの長老たちを口説いてくれたので、ボスモンスターがいないという問題も片付いた。

 自由を愛するドラゴンが、ダンジョンの中に閉じ込められるのを良しとするはずはなく、説得は難航するだろうと思っていたけれど、意外にあっさりと話がついた。

 不帰の森の南には山と海があって、その山はドラゴンたちの巣になっていたけれど、森の魔物が増えたことでドラゴンたちのテリトリーにまで魔物が入り込んでくるようになって、幼いドラゴンが育ちにくくなっていたらしい。

 好きな時に外に出られて、安全に子育てできる環境を得られるのならと、予想外にたくさんのドラゴンが移住してきた。

 ドラゴンは寿命が長いせいか、子供ができ辛い。

 宝ともいうべき子供を何度も殺されたことで、色々と思うところもあったのだろう。



 カヤ様のダンジョン作りは順調だ。

 キートを筆頭にカヤ様に忠実な子供達も育っているし、カヤ様を守るための魔道具などの開発も進んでいる。

 ダンジョンで働く精霊や奴隷達にはダンジョンの保護が掛かっているというのに、ダンジョンマスターであるカヤ様にはかからない。

 カヤ様は戦う術など何一つ持たない、か弱い女性のままなのだ。

 もちろん、レベルが上がることで身体能力などは上がっている。

 けれど、カヤ様は大量の血や暴力行為などを見るだけでも怯えてしまう、姫よりも姫らしいお嬢様だ。

 カヤ様の身も心も守るためには、細心の注意が必要だ。

 今は物理攻撃や魔法攻撃を弾く装飾品や、危険に晒された瞬間、屋敷へと自動的に転移する魔道具などを製作中だった。

 カヤ様のレベルが上がったので、ダンジョンの中ならばどこにでも転移できるようになっているけれど、人が増えた時のために、擬装用に転移の魔道具を持ってもらおうと考えている。

 転移の魔道具はカヤ様が考案されたポイントカードの景品にもしてあるので、あと10年もすればそこまで珍しいものではなくなるだろう。

 ただ、機能には合格点を出せても、見た目はまだまだだ。

 カヤ様が身につけられるものだから、最高級のものを用意したいので、精進を重ねてもらわなければ。

 無骨な見た目の装飾品など、決してカヤ様には使わせたくない。




 カヤ様には報告していないだけで、購入した奴隷たちに全く問題がなかったわけではなかった。

 元は貴族だったというアメリアが言っていたけれど、人とは良くも悪くも慣れる生き物だ。

 最初は奴隷としてはあり得ない好待遇を喜び、勉強や仕事に励んでいても、それが当たり前になってしまえば、感謝の気持ちを忘れ、不満を抱く愚か者も出てきた。

 魔物を雌雄で召喚しておけば勝手に繁殖行為を行うように、奴隷たちの中でも色恋沙汰が発生する。

 購入したほとんどは子供であったとはいえ、成人間近の者も3割ほどはいたし、後になって成人した者も増やしたので、奴隷の1割程度は成人済みだった。

 ダンジョンに来てから成人を迎えたものもいた。

 カヤ様に懸想するだけならまだいい。

 けれど中には、自分の想う相手がカヤ様に忠誠を誓っていることが気に入らず、嫉妬心を露わにするものもいた。

 カヤ様を害する危険がある者をここに置いておく必要はないので、しばらく他の階層で仕事をさせて様子を見て、それでも改善されない時には、ダンジョンのことやカヤ様のことを決して口外できないように契約をしてから、奴隷商に売り払った。

 購入したときには何ら問題のなかった者が、次第に悪臭を放ち始めると、呆れずにはいられなかった。

 自分がどれだけ幸運であるのか気づかず、自ら落ちていくのだから、愚かとしか言いようがない。

 けれど、再び奴隷商に売り払ったことをカヤ様が知れば、きっと心を痛めてしまう。

 奴隷がいなくなってもカヤ様が気づくことがないように、できるだけカヤ様が奴隷と接することがないようにした。

 貴族社会のことを知るのにちょうどいいアメリアだけは、カヤ様のメイドとしてそばにつけたけれど、メイドではなく妹のように可愛がっているようだ。

 一人だけ特別扱いすれば、他から不満が出ると理解しているカヤ様は、可愛がると言っても節度を持って可愛がっているので、黙って見守っていた。

 カヤ様に歳相応の笑顔が増えたのは、とてもいいことだ。


 カヤ様に見当違いの嫉妬を向けられるのが許せないだけで、私は奴隷同士の恋愛を禁じているわけではない。

 人を想う気持ちは誰にも止められないものであるし、周囲に迷惑を掛けなければいいのだ。

 相思相愛の二人が結婚したいと申し出てきたならば、もちろん認めるし、夫婦専用の宿舎を用意する。

 カヤ様は乙女らしく、周囲の人の恋愛模様を見ては楽しんでおられるし、無事に成就したならば喜んで祝福なさるだろう。

 人の世では奴隷同士の結婚を認める主は少ないようだが、カヤ様は違う。

 子供たちがもう少し成長すれば、夫婦となるものが増えていくだろう。

 成人済みの男性奴隷の一部が、淫魔族に金も精も搾り取られているようだが、そちらも黙認している。

 双方ともに利があるのだから、何ら問題はないだろう。


 顔のいいラジィも数多の想いを寄せられているようだが、全く相手にしていなかった。

 ラジィは想われることに慣れ過ぎていて、適当に相手をし、かわすことも上手い。

 人化していても心はドラゴンなので、人に対して恋愛感情を持つことは滅多にないようだ。

 ドラゴンと人では寿命が違い過ぎるから、仕方のないことかもしれない。

 カヤ様を見る目に熱が籠っているような気もするが、気のせいだろう。

 多分、気のせいに違いない。

 



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