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恩知らずな奴ら  キート視点

3人兄弟の長男のキート視点。

日々着々と(信者に)成長中。





「そうだ、キート。魔法はイメージが大事なんだ。ダニーロのところで高温の火を見たことがあるだろう? あれをイメージすれば、より強い火魔法が使えるようになる」



 Sランクだというのに偉ぶったところが全くないラザールさんが、空いた時間を使って魔法の指導をしてくれた。

 本来なら、魔力がちょっとくらいあっても平民が攻撃魔法を使えることはない。

 何故かというと、学園に通って魔法を習える貴族と違って、平民には攻撃魔法を教えてくれる人がいないからだ。

 だから平民出身の冒険者は、余程恵まれていない限り、魔力があっても剣や槍を使って戦うことになる。

 当然、前衛として戦うのだから、一番死亡率が高い。

 俺の父さんは自己流で少し魔法が使えたらしいけど、魔法の使い方を教えてもらう前に死んでしまった。

 


「キートは何でもすぐに覚えるから、教え甲斐があるな。次のキートの休みには、2層に魔物狩りに連れて行ってやるよ」



 外に出かけたりもしていて忙しいラザールさんが魔物狩りに誘ってくれたのが嬉しくて、笑顔で頷いた。

 街にいた頃は冒険者見習いだったから、依頼で街の外に出ることがあっても積極的に魔物と戦うのは禁止されていた。

 だから、魔物と戦えるとなれば、一人前に近づけたようで嬉しい。

 俺は早く強くなって、リシュやミミを育て上げないといけないから。



「ありがとうございます、ラザールさん! 俺の休み、次は5日後です。連休を取ってあります!」



 まだ幼い弟達と過ごす時間を取れるようにと、カヤ様は休みを多めにくださる。

 しかも、俺の貰っているお金はコテイキュウというやつなので、働いた時間が短くても日数が短くても、毎月必ず同じ金額をもらえるし、余分に働いた時にはザンギョウテアテというものもつけてもらえる。

 このダンジョンで働く他の奴隷達と違って、俺達兄弟は奴隷じゃないからと、かなり優遇されていた。

 俺がもっといろいろなことをできるようになったら、ヤクショクテアテというのもつけてもらえるそうだ。

 他の奴隷達も俺よりは少ないけど収入があるので、それを貯めて自分を買い戻したら、俺と同じ待遇になるらしい。

 幼い弟妹を抱えた俺を雇ってもらうだけでもありがたいことなのに、いつも気遣ってくださるカヤ様は、俺にとっては女神様のような方だ。

 最初に俺を助けてくれた猫精霊のセオドア様にも感謝しているし、尊敬もしているけれど、そのセオドア様が主として大事にしているカヤ様のことは崇拝している。



「じゃあ、リシュとミミもつれて、コテージに一泊するか。ミミはじっとしてないから魚釣りは無理だろうけど、ハーブくらいなら摘めるんじゃないか? 採集スキルが発現したんだろ?」



 ラザールさんもいつも、弟達のことまで気にかけてくれる優しい人だ。

 兄弟そろって泊りがけで出かけるなんて贅沢、外の街に住んでいたら一生縁がなかった。

 やっぱりカヤ様やセオドア様には感謝してもしきれない。



「カヤ様がミミたちにもできる仕事を見つけてくださって、花畑の花を摘んだり、果物畑の果物を収穫したりしていたら、いつのまにかスキルを覚えてたんです。おかげで、収穫に適したものがわかるようになったみたいで、カヤ様に迷惑を掛けることも減りました」



 花はともかく、最初の頃はまだ収穫するには早い果物を採ったりもして、せっかくミミでもできる仕事を与えてもらったのに、迷惑を掛けることもあった。

 だけど俺達がどんな失敗をしても、ここにいる精霊達に怒られたことはない。

 次は失敗しないようにと、収穫時期になった果物の見分け方なんかを丁寧に教えてくれた。

 だからこそ、採集スキルが発現したのだと思う。



「あの年でスキルが発現するほど頑張ったってことだろ。リシュもミミもキートに似て、働き者のいい子達だ」



 剣だこのある大きな手で頭を撫でられると、小さい頃、父さんに撫でられたことを思い出す。

 思い出すと懐かしくて涙が出そうになるけど、それは自然な事なんだってカヤ様が教えてくださった。

 父さんとの思い出がとても優しくて大事なものだから、思い出すと心が揺さぶられるんだって聞いて、父さんや母さんと過ごした思い出が特別なものになった。

 小さいミミに父さんの記憶はないし、きっと母さんのことだって覚えていられない。

 だから俺がしっかりと覚えておいて、ミミに話してやらなければ。

 ミミが生まれた時、ずっと女の子を欲しがっていた父さんは物凄く喜んで、すぐに抱っこするものだから、抱き癖がつくって母さんによく叱られていた。

 叱られて渋々とミミをベッドに戻す情けない父さんの顔とか、今でもはっきりと思い出せる。

 父さんや母さんにミミがどれだけ愛されていたのか、ミミが生まれてきてくれて、どんなに喜んでいたのか、何度だって教えてやりたい。

 こんなことを考えられるのも、今は余裕があるからだ。

 父さんが死んで、母さんが病気になって、俺が頑張って働くしかなかった頃は、不安で胸がいっぱいで、余計な事を考える余裕なんかなかった。

 夜寝るとき、今日も何とか無事に過ごすことができたという安堵と共に、明日はどうなってしまうんだろうという不安がいつも心の中にあった。

 母さんが死んでしまったら?とか、仕事がなくなってしまったら?とか、怖いことばかり考えてしまって、疲れているのに眠れなくなることもあった。

 そんな生活から救い出してくれたのがセオドア様で、兄弟そろって受け入れたくださったのがカヤ様だ。

 今では、何の心配もなく眠ることができるし、明日は何をしよう?って楽しみになる。

 母さんが死んでしまったのは悲しかったけれど、でも、今はとても幸せだ。



 ラザールさんと次の休みの約束をして、俺は弟達の待つ宿舎に戻った。

 5層に街ができて、そっちにたくさんの人が移っていったから、宿舎で暮らす人はかなり減ったけれど、居心地はかなりよくなった。

 宿舎に残っているのは精霊と一緒に働く人たちばかりだから、一緒にいて何ら問題がない。

 精霊は人の性質のようなものを感じ取れるみたいで、欲深い人とか嫉妬深い人とか、そういった人達は遠ざけられる。

 セオドア様は問題のない人を選んで購入していたようだけど、ここでの幸せな生活に慣れるにつれて、変わっていく人も出てきた。

 

 買われてきたばかりの頃、たいていの奴隷は、俺達がここに来たばかりの頃よりも痩せていて、薄汚れていた。

 中には病気だったり、体の一部が欠損している人もいて、誰もが同じように暗い目をしていた。

 家のためと覚悟して売られても、その後の扱いが予想以上に酷くて、心が折れている子もいた。

 セオドア様に買われて、万能薬や美味しい食事を与えられて、最初は思いがけない幸運にみんな感謝する。

 中には何か落とし穴があるんじゃないかと不安になる人もいるけれど、毎日しっかりと食べられて、仕事以外に勉強もさせてもらえて、その上、数日に一度は休みまでもらえる生活をしているうちに、元気を取り戻していく。

 奴隷なのに魔法鞄や給料までもらえるのだから、やる気に満ちて、積極的に働くようになる。

 そこまではいいけど、あり得ないほどに幸せな環境が当たり前と感じるようになる人もいるみたいで、そういう人は感謝を忘れて段々傲慢になっていったりする。

 周囲の人よりも上に行きたがったりとか、持っている人を羨んだり妬んだりとか、人の欲は醜いと感じさせられることも多かった。

 俺達兄弟だけは奴隷じゃないから、他よりも待遇がかなりいい。

 それを知ると、俺達を羨んだり、取り入ろうとしたりする人も出てくる。

 まだ小さいミミにできる仕事は限られているから、大した仕事もしていないのに自分たちよりも収入が多いのはおかしいとか難癖をつける人もいるし、子供だからと侮って、リシュやミミを騙して、お金を騙し取ろうとする人もいた。

 俺達兄弟の給料は、セオドア様が必ず手渡してくださる。

 カヤ様が気遣ってくださって、いつも3人分の明細をつけてくれるから、纏めて渡されても、誰がどれだけ稼いだのかわかるようになっていた。

 だから、弟達に危険がないようにお金は俺が纏めて預かっているけれど、ちゃんとリシュの分とミミの分は分けて袋に入れてある。

 いつか弟達が自分でお金の管理をできるようになったら、纏めて渡す予定だ。


 俺が他の奴隷達と比べて、かなり稼いでいることは知られているせいか、中には色仕掛けをしてくる人も出てきた。

 俺はまだ成人していないのに、今から恋愛関係になっておけば、将来は結婚できると思っているらしい。

 女は早熟だと聞いたことがあるけど、何でも恋愛に結び付けるやつもいて、結構鬱陶しい。

 たまたまちょっと手伝いをしただけで気があるとか、俺の気を引いて誘惑したとか言い出して、俺の恋人の座を勝手に争ったり、他の女を牽制したりと、扱いが面倒な女が増えた時はイライラとさせられることも多かった。

 俺がカヤ様を崇拝していることで、恩のあるカヤ様にまで嫉妬して馬鹿な妄言を言い出した時は、頭がおかしいんじゃないかと思った。

 カヤ様が男にだけ優しいとか、好みの男を侍らせるために奴隷を買っているとか、奴隷の身で決して口にしていいことじゃない。

 彼らの直接の主はセオドア様だけど、そのセオドア様が何よりも大事にしている主がカヤ様なのだから。

 現場を見ていなくても、カヤ様に悪意を持つような人は見分けがつくようで、セオドア様はすぐに他の階層に移動させて、カヤ様のそばから不愉快な奴らを排除していた。

 中には忠告されても反省せず、セオドア様に見捨てられた奴隷もいるらしいと聞いて、胸がスーッとした。

 地獄のような環境から救い出されたくせに、カヤ様に感謝の気持ちも持てない奴隷なんか、このダンジョンには必要ない。

 もう一度売られて、奴隷としては当たり前の厳しい環境で、自分がどれだけ愚かだったか思い知ればいい。

 ラザールさんがかっこいいとか、女同士できゃあきゃあと騒ぐぐらいなら可愛いけど、見当違いの嫉妬をするような奴はいらない。


 元々、弟達が成人するまでは恋愛も結婚も考えてなかったけど、不愉快な女たちのせいで、より恋愛から遠ざかることになりそうだ。

 今は、もっと強くなって、色んなことができるようになって、カヤ様の役に立てるようになりたいと思う。

 俺は一生かけて、俺達兄弟を救ってくださったカヤ様とセオドア様に尽くすと決めている。

 俺がいつか結婚することがあるとしたら、俺と同じような気持ちを持てる人だろうな。

 そんな日が来るのかどうかわからないけど、今のままでも幸せだから、来なくてもいいんじゃないかなって思ってる。

 住むところがあって、お腹一杯ご飯が食べられて、リシュがいてミミもいる。

 尊敬できるラザールさんも、一生をかけて仕えたいカヤ様とセオドア様もいて、毎日が充実していて満たされている。

 他に望むことは何もない。

 あぁ、でも、俺に子供ができたら、その子供もカヤ様に仕えてくれるのかな?

 そう考えると、いつか結婚するのも悪くないのかもしれないな。

 俺がどんなに頑張って長生きしても、ダンジョンマスターのカヤ様とは寿命が違い過ぎるから、仕えられる時間は短い。

 カヤ様のためにも、経験を積んで、女を見る目も養っておこう。




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