表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/45

街を作るための相談




「ラザールさん、お手数を掛けますが、外で宿に泊まるときの値段や、食事をするときの値段などを教えてもらえますか? それから、ここでしか手に入らないお酒もありますので、外のお酒とどう違うか試してみてほしいです」



 冒険者として活動しているのなら、大体の収入や経費、それから日常生活に必要な物の値段などにきっと詳しいだろう。

 キートも少しは知っているけれど、冒険者といっても見習いで、最低ランクの仕事しか受けられなかったから、他の冒険者のことはあまりわからなかったらしい。

 お父さんが冒険者だったけれど、どういう魔物を倒したとか、そういう話が主だったそうだ。



「俺はソロだけど、冒険者はパーティで活動する奴らがほとんどなんだ。大体一つのパーティが5人前後で、依頼の報酬は頭割りが普通。たまに奴隷とパーティを組んで、パーティリーダーが収入を独り占めってこともあるけど、奴隷の主になるからには、奴隷の生活全般の面倒を見ないといけないから、それはそれで大変なはずだ」



 まずは一般的な冒険者のことから、ラザールさんが教えてくれた。

 見た目は二十代半ばのラザールさんだけど、冒険者歴は既に数十年あるらしい。

 ドラゴニュートは長命な種族なので、いつまで経っても老けないラザールさんでも不審に思われることはないそうだ。

 エルフや魔人、時には精霊などの長命種も冒険者をしていることがあるので、特別珍しい存在でもないらしい。


 冒険者歴数十年のラザールさんの説明を纏めると、冒険者はCランクで一人前といわれて、Cランクくらいでの一度の依頼の報酬が大銀貨一枚前後らしい。

 もちろん、それをパーティで頭割りするので、パーティの人数によっては手に入るお金は銀貨2枚くらいになってしまう。

 当然、その程度の収入では生活できないので、Cランクくらいの冒険者は重複して依頼を受けて、必死に働くことになるそうだ。

 宿は高級宿から大部屋に素泊まりできる安宿まであって、高級宿となるとランクの高い冒険者や貴族が利用することもあるので、最低でも一泊大銀貨2枚は見た方がいいようだ。

 といっても、一人部屋から複数で使える大部屋まであって、部屋ごとに価格は違う。

 迷路の休憩スペースにあった宿は、高級宿と比べても遜色なく、料理の味やサービスなどを考えると、むしろこちらの宿の方がランクが高いとラザールさんは感じたそうだ。

 サービスに関してはベテランメイドのエイミーや、究極執事のセオが徹底的に仕込んでいるから、そこらの宿には負けないはず。

 日本でホテルや旅館に泊まった時の知識なども総動員して、サービスも徹底した宿を街エリアに作ったので、そこと比べたら迷路の宿はまだ足りないものもあるんだけど。

 迷路の休憩所の宿は無料だからと思って、あえて差をつけたけれど、それでもラザールさんは、無料で提供してはダメな宿だと感じてくれたようだ。


 冒険者が利用する安宿は、大部屋にベッドが並んだような最低ランクの部屋だと銅貨一枚から二枚くらいで泊まれる。

 冒険者になりたてでランクが低いうちは、寝泊まりできるだけの宿に泊まり、食費すら節約することも多い。

 何故かというと、武器や防具を揃えるためにある程度お金を貯めなければならず、ランクが低いうちは依頼の報酬も安いので、ぎりぎりの生活しかできないらしい。

 家から通えたり、親のお下がりなどで武器や防具を持っている新人は、かなり恵まれた部類になるそうだ。

 


「あの宿なら、大銀貨3枚出してもいいけど、あまり高くしたくないなら、せめて大銀貨1枚はとったらどうだ? 一部屋借りればパーティ単位で使えるから、その値段でも頭割りすればたいして負担はないと思う。不帰の森を抜けてやってくるパーティなら、最低でもBランクはあるはずだから、Bランクなら収入も段違いに増えて、かなり懐に余裕があるはずだ。Aランクのパーティともなれば、一泊金貨一枚の宿だろうが、たいして懐は痛まない」



 一人前のCランクを乗り越えた一部の成功者になると、収入も増えるのか。

 でも、そのうちにランクの低い冒険者も来るようになると思うから、その時のために宿代は高くなり過ぎないようにしたい。

 といっても、どうしてもお金がなければ、周囲で野営してもらうという手もあるんだけど。



「宿代は大銀貨一枚にして、代わりに食堂で出す料理の値段を色々考えてみます。お酒も美味しいものは高いみたいだから、懐に余裕がある人には、たくさん飲んでもらえればいいでしょう?」



 大事なのはダンジョンに滞在してもらうことだから、利益はあまり考えなくてもいい。

 でも、当初の予定よりも奴隷が増えてしまったから、彼らに払う給料の分くらいは稼げたらいいなぁと思う。

 奴隷だった子供たちを購入して、ダンジョンで教育を始めて1年と少し経つけれど、みんな見違えるほどに成長している。

 しっかりと栄養とをとれて、体を動かせることがよかったのか、どの子も健康的になって、表情も明るくなった。

 それぞれの希望に合わせて精霊達に弟子入りさせたから、持っていた能力を伸ばし始めているので、今後どんな大人になるのか、とても楽しみだ。

 セオが定期的にいろんな国の奴隷商を回ることで、たくさんの子供たちがダンジョンへやって来た。

 自分たちがいる場所がダンジョンだと知って、最初は怯えていた子供もいたけれど、何の危険もなく一日三食しっかりと食べて、勉強や仕事をしながら平和に暮らしていれば、すぐにこの環境に慣れてしまった。

 後から入ってきた子達は、ダンジョンでの生活に慣れた子達が面倒を見てくれたので、大きなトラブルなどはなかった。

 毎日必要な勉強をして、働いて、空いた時間には遊んだりもして、心身ともに健康になっている。

 セオと相談の上、それぞれに魔法鞄と水筒、制服などを支給したから、奴隷の人達もあまり多くはないけれど毎月給料をもらっていて、自分で管理してもらっている。

 お金を貯めて自分を買い戻してもいいし、奴隷のままずっとこのダンジョンにいてくれてもいい。

 毎月少しなりともお給料をもらえれば、仕事のやりがいもあるだろうし、貯金する楽しみも出てくるはずだ。

 街エリアには色々なお店を作ったから、自分の欲しいものを自分のお金で買う楽しみも得られるようになった。

 奴隷という最下層の身分に落ちてしまった彼らに、生きる喜びを知ってほしい。

 縁あって私のダンジョンに来てくれたのだから、幸せになってくれたらいいなと思う。



「冒険者は大酒飲みが多いから、それはいい案だと思うけど、酔って暴れる奴もたまにいるから、その辺は要注意だな。酔うと見境なく女を口説きだすのもいるから、食堂で働くのは、世慣れた子のほうがいいかもしれない。酔っぱらいを適度にあしらう技術は大事だ」



 酔っぱらいをあしらうとなると、子供じゃ無理だ。

 酒場で働いてくれるようなお姉さんを探すべきだろうか?

 今、ここのダンジョンにいる接客ができそうな奴隷は子供が圧倒的に多い。

 彼らの纏め役となって、トラブルの対処もしてくれる責任者がいるといいかもしれない。

 でも働いているのが子供なら口説こうとする人はいないだろうし、子供の方が逆に安全ということもある?

 何にしても、警備ができる従業員がいたら安心かなぁ。



「その辺りは今後の課題かな。働いてくれる子はいっぱいいるけど、酔っぱらいに上手く対処できそうな子は思い浮かばないの。セオは、誰か心当たりはない?」



 奴隷たちが契約したのはセオで、管理もセオがしているから、誰がどういう技能を持っているかは、セオの方が詳しい。

 奴隷の中には人族以外の種族も交じっているから、見た目と実年齢が違う人もいるかもしれない。



「そうですね、一人や二人ならともかく、すべての宿にとなると人数が足りません。いっそ、淫魔族を呼び寄せますか? カヤ様のお作りになる美容関連のアイテムを餌にすれば、簡単に釣れると思います。彼女らは美しくなることに対する執念が半端ないですから」



 淫魔族って、ダンジョンの召喚リストにもあったような気がする。

 私の知識にある淫魔と同じような性質なのかな?

 


「こちらの淫魔族って、どういう性質を持っているの? 私の世界では悪魔の一種とされていて、夢の中で異性を性的に襲って糧を得ると言われていたんだけど。セオの口ぶりからして、美しい女性の多い種族なのかな?」



 ちょっと内容が内容だけに恥ずかしく思いながら尋ねると、セオが肉球ぷにぷにの手で頭を撫でてくれた。

 嬉しくて、恥ずかしかったことなんて吹っ飛んでしまう。



「こちらの淫魔族は、男性体と女性体に分かれていて、どちらも美しい容姿を持っています。女性は豊満な体つきのことが多いですね。夢に渡ることもできるそうですが、それよりも実際に襲った方が手っ取り早いですので、実益を兼ねて娼婦や男娼をしている淫魔もいます。栄養源は人の精気ですが、通常の食事などでも問題ありませんし、食事をしなくても生きていけます。あれも一応精霊のうちですから」



 そうか、こちらでは淫魔も精霊なのか。

 精霊というと聖なる存在といったイメージだったけど、この世界の精霊は幅広い。

 何にしても、異性を手玉に取るのが得意そうな種族に、宿のお手伝いをしてもらえるならばとても助かる。

 冒険者に長期滞在してもらうなら、街エリアには、娼館も作らなければならないかと思っていたけど、さすがに相談し辛くて後回しになっていたから、相談するならば今がいい機会だろうか。



「交渉はセオに任せていい? 必要なら、私の作った化粧水とか化粧品も持って行っていいから。それから、街エリアにね、歓楽街も作った方がいいかなぁって思ってたの。冒険者は圧倒的に男の人が多いみたいだし、性犯罪を減らすためにも娼館のような場所は必要でしょう? でもね、できれば、娼館だけじゃなくて、ホストクラブみたいなのも作りたいの」



 女性の冒険者だって、遊びたい気持ちがあるかもしれないし、一時夢を見せてくれるような場所があってもいいかなぁと思う。

 自分で行きたいかといわれれば、行きたくはないけれど。

 成人したときに母に無理やり連れていかれたので、ホストクラブがどういう雰囲気の場所なのかは、何となく知っている。

 身を持ち崩す人が出ないようなホストクラブなら、作ってみたい。



「カヤ、ほすとくらぶって何だ?」



 セオもラザールさんも、私がどういったものを作りたいのかわからないようで、不思議そうにしている。



「私の世界にあった女性客を対象にしたお店で、従業員はすべて容姿の優れた男の人なの。一緒におしゃべりをしたり、お酒を飲んだり、お客様が気持ちよく過ごせるようにサービスを売るお店といえばわかる? 娼館のように性交渉が目的じゃなくて、素敵な男性に囲まれて楽しい時間を過ごすのが目的なの」



 私の説明を聞いてもセオはまだ理解しきれてなかったけれど、人の世で生きているラザールさんは理解できたようだ。



「貴族の令嬢や奥様方が、高名な冒険者や見目麗しい騎士、それから吟遊詩人に入れあげるようなものか。吟遊詩人は見目がよくて声も美しいから、芸だけでなく色も売ることがあるんだ。カヤが言っているのは吟遊詩人の方が近いな」



 吟遊詩人っているのか。

 美形で高名な冒険者って、思いっきり当てはまる人が今目の前にいるんですが、突っ込むべき?

 ラザールさんの説明を聞いて、セオも理解できたようだ。

 イメージするところが大体伝わったようで、ホッとした。



「そのホストクラブとやらの従業員を、カヤ様は淫魔族の男性体に任せたいのでしょうか?」


「淫魔族じゃなくても、吟遊詩人がいるのなら、そういう人をスカウトするのもいいかも。私がホストに求めるのは、容姿の良さだけじゃなくて、お客様を楽しませようとするサービス精神や、巧みな話術、お客様を自然に気遣えることかな。お客を食い物にするような人は絶対にダメなの」



 一時の間、楽しく華やいだ時間を過ごしてほしいだけだから、過剰なスキンシップは必要ない。

 こちらの女性の貞操観念がどうなっているのかわからないけど、トラブルを避けるためにも、執事喫茶ホストバージョンくらいの健全さでいいと思う。

 将来的にターゲットにしたいのが、常に執事と接しているような人達だから、執事喫茶などは、作っても目新しさはまったくないだろうし。



「よくわかりました。カヤ様の思うホストに相応しい人材も探してみます。吟遊詩人などは、一つの場所に居つくのを嫌がる者も多いのですが、その場合は、定期的に来てもらえるような契約でもいいでしょう」



 あっさりとセオが請け負ってくれるけれど、淫魔族だけならともかく、世界中を放浪している吟遊詩人の勧誘ともなると、手間もかかるんじゃないだろうか。

 きっとたくさん苦労もしているに違いないのに、そんな様子は全く見せずに、セオはいつも私のために尽くしてくれる。

 後でカスタードクリームをたっぷり使った苺のタルトを作ろう。

 それくらいしか、私がセオにしてあげられることがない。


 いつしか話し合いは脱線して、ラザールさんが外で体験してきた冒険の話を聞くことになった。

 ダンジョンの外に出たいと思ったことはないけれど、いろんな場所を旅して、たくさんの経験を積んでいるラザールさんの話は面白くて、つい聞き入ってしまったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ