ポイントカード
それにしても、宿に泊まりたくなる方法か。
料理が美味しくて、寝心地がいいだけじゃだめだよね。
宿に泊まることで、何か特典があればいいのかな?
宿泊者限定のプレゼントとか、割引クーポンみたいなのとかどうだろう?
「宿に泊まると、何かがもらえるようにする……あぁ、でも、もらえるよりも次に繋がるものの方がいいかな?」
呟きながら、日本にいた頃、特定のお店を利用するのに決め手になっていたものは何かなかったかと、記憶を探ってみる。
雑貨屋や紅茶専門店など、お気に入りで通っているお店はいくつもあったけれど、通う中でお得だと嬉しくなるようなサービスがなかっただろうか?
「あ! ポイントカード!!」
財布の中には、常にたくさんのポイントカードが入っていた。
雑貨屋さんとかケーキ屋さんとか薬局とか、ありとあらゆる店のポイントカードがあって、よく利用していた。
あのシステムを、ダンジョンに持ち込めないだろうか?
「カヤ様、ぽいんとかーどとは何でしょう?」
セオがお茶のお代わりを注ぎながら問いかけてくる。
話をすることで、アイデアがまとまりやすくなることを知っているから、セオはこういう時には話しかけてくれる事が多かった。
一人で考え込みたいときは黙って控えているから、本当によくできた精霊だと思う。
「あのね、私の住んでいた場所ではよく使われていたんだけど、特定のお店で品物を購入するたびに、購入金額ごとにハンコなんかを押してもらえてポイントが貯まるの。それで、カードのポイントがいっぱいになると、次の時に割引になったり、販売されていない限定品がもらえたりするの。中にはたまったポイントの分だけ、商品の代金が安くなるというのもあったわ」
説明することで考えがまとまっていく。
せっかく入り口に宿を作ったのだから、そこでポイントカードの発行をしたらどうだろうか?
宿などを使うたびにポイントが増えて、それを貯めれば、このダンジョンでしか手に入らない珍しい物がタダで手に入るとなれば、カードの利用者は増えるかもしれない。
この方法なら、宿が有料でもポイントを貯めるために泊まってくれるんじゃないかな。
部屋のランクで貯まるポイント数を変えたり、興味を引くような景品を用意したりと、決めないといけないことはたくさんあるけれど、いい方法に思えた。
興奮する気持ちを抑えきれないまま、できるだけ詳しく説明すると、ラザールさんが感心したように息をついた。
「異世界の人って、すごいな。よくそんなことを思いつくもんだと、驚かされる」
「そのシステムを思い出して、取り入れようとするカヤ様が凄いのです」
セオが自慢げなので、褒められて照れてしまうけど同時に凄く嬉しくなる。
私はセオが自慢だと思ってくれるような主になりたいから。
「目標が遠すぎると、最初からあきらめちゃうでしょう? だからね、段階ごとに景品のランクを上げていこうと思うの。20ポイント貯めたら自動販売機でしか手に入らない特製セット、50ポイントで自動販売機で当たりの容量が多い水筒、80ポイントでシャンプーとトリートメントのセット、100ポイントで容量が小さめの魔法鞄という感じで。景品の内容や、一度につけるポイントなんかはよく考えて、ちょっと面倒だけど、でも貯めてみたいって思わせるようなラインを見極めないとね」
ノートに書き出しながら説明すると、ラザールさんが顔を輝かす。
「えっ、何それ、全部欲しい。それに自動販売機に当たりとかあったのか? 何で水筒なんか売ってるんだろ?って思ったけど、容量があるってことは、空間魔法が掛かった水筒なんだな。あの値段じゃ、ちょっと安すぎるんじゃないか? 確か銀貨1枚だったよな?」
私が例としてあげたものは、どれもラザールさんの興味を引くものだったようだ。
Sランクの冒険者であるラザールさんの気を引くものだから、景品としては十分かな?
もっといろいろ考えてみよう。
販売物や宿の値段も、外の世界を知っている人と相談した方がいいかもしれない。
それから、自動販売機の使い方の説明だけでなく、商品の説明も必要なようだ。
「水筒が銀貨一枚だと安いの?」
セオの方を振り返りながら問いかける。
水筒に空間魔法を掛けているのはほとんどセオだから、適正価格というのをきちんと知りたい。
「精霊が作った水筒に、空間魔法を掛けたものですからね。外で販売するとなれば、ハズレの方でも大銀貨5枚くらいはするのではないでしょうか? 2リットルしか入らないとはいえ、中身が劣化しないのでしたら、途中で腹痛などを起こす心配もなくなりますし」
前に通貨の説明をしてもらったときに、共通通貨には鉄貨から白金貨まであると教えてもらった。
鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨と価値が上がっていくのだけど、平民の平均的な月収が大銀貨2~3枚で、それくらいあれば4人家族が普通に暮らしていけると聞いていた。
だから大銀貨一枚で10万くらいの価値なのかなと思っていた。
それだと、銀貨一枚というのは1万くらいの価値があるはずで、魔法が掛かっているとはいえ水筒に1万は高いんじゃないかと考えていたけれど、まだ安かったらしい。
冒険者をしていて人の世界に慣れているラザールさんの意見や、奴隷の中で商人のところで働いていた人などの意見も聞いて、価格調整をした方が良さそうだ。
物を見るだけで、適正価格がわかるようになればいいんだけどなぁ。
でも、物の価値を決めるのは人だから、あまり気にしないでもいいかな?
苦労したけど来てよかったって思わせるダンジョンにしたいから、色々なところでお得感を出しておきたい。
「さすがにね、大銀貨5枚は高いと思うの。でも、最初のパーティに買い占められても困るから、せめて大銀貨2~3枚は取るべき? 後で、元商人のリンジィさんにでも自動販売機の品を見てもらって、大体の価格を出してもらっていいかな?」
セオにお願いすると、早速精霊の誰かに念話で指示を飛ばしてくれたようだ。
しばらく待てば、価格のリストが届くだろう。
今、私とセオは休暇中で、これから数日の間、ラザールさんを歓待しながら、2層でのんびりと過ごす予定だった。
釣りや狩りをしたいとは思わないけれど、薬草を摘んだり、ハーブを探したりはしてみたい。
この階層の魔兎などは、こちらから攻撃しなければ襲ってこないから、安心して散歩もできる。
夜にはテラスでバーベキューもする予定だ。




