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3人の子供達




 毎日ひたすらスキルを使い、みんなと相談しながらダンジョンを作っていたら、街に出かけていたセオが、人間の子供を3人連れて戻ってきた。

 まだ10歳くらいの男の子と、小さい男の子に女の子だ。

 どことなく似ているから、兄弟なのだろう。



「カヤ様、突然申し訳ありません。この子はキートという名で、冒険者見習いをしています。両親が亡くなり、幼い弟妹を抱えて苦労していたので、こちらへと連れてまいりました」



 いきなり転移で知らない家の中に飛ばされたからか、小さな男の子と女の子は、お兄ちゃんにしっかりとしがみ付いている。

 その様子を見るだけで、とても慕われているお兄ちゃんなんだと伝わってきた。

 本人もまだ幼いのに、小さい弟達を守り、可愛がっているのだろう。

 この年で両親を亡くすなんて、どれほど心細いことだろうと、少年の心情を察すると胸が痛む。



「まだ小さいのに大変だったわね。ここは、精霊がたくさんいて、働きたいのなら仕事もあるし、学びたいことがあるならそれを教えてくれる精霊もいるわ。だから、安心して暮らしてね」



 一番年上のキートでさえ、まだ小学生くらいの年齢だ。

 本当は仕事なんてしなくていいから、たくさん食べて、たくさん学んでほしいと思うけれど、多分、それではいけないのだろう。

 私にできるのは衣食住を整え、労働に対する報酬を与えて、彼らが安全に暮らし、成長できるようにすることだけだ。



「セオ、部屋は従業員用の宿舎がいいかしら? 3人で一緒に入れる部屋はある?」



 精霊達はあまり宿舎を使わないので、部屋はかなり空いていたはずだ。

 睡眠をほとんど必要としないからか、生産施設に住居スペースを作って、ずっと籠りきりの精霊もいるし、最近は他の階層で過ごしている精霊もいる。

 だから、割と大きい宿舎を更に空間魔法で拡張してもらったのだけど、利用率は低い。



「部屋は空いてますし、食事も料理スキル持ちの精霊が作ってくれます。そろそろ、前からの計画通りに従業員を連れてくる予定ですので、彼らも寂しくはないでしょう」



 やって来たばかりの子供たちの前で、奴隷を買ってくるという言葉を使わない辺り、セオは優しい。

 この子達を不安がらせないようにという配慮なのだろう。



「足りないものがあったら、何でも用意してあげてね。給与やその他をどうするか、後で相談しましょうか」



 何の仕事をしてもらうか、それに対する報酬はどうするのか、細かく定めておかなければならない。

 貯金できるように、何かシステムも作るべきだろうか?

 今のところお金を使う場所はないから、持っていても邪魔になるし、個人で管理するとなると、人が増えればトラブルの元だろう。

 セオのように空間魔法が使えれば、自分で保管することもできるけれど……。

 いっそ一人に一つ、魔法鞄を支給しようかな?

 そしたら、もらったお金や制服や着替えなど、必要な物は必ず持ち歩けるし、魔法鞄の中身を取り出せるのは本人と登録した人だけだから、紛失や盗難などのトラブルは起こらないだろう。

 それに危険がないとは言っても、ここはダンジョンの中だから、不測の事態に備えて食料を少しは持ち歩ける方がいい。

 魔法鞄と水筒の支給をどうするかも、後でセオと相談しよう。



「カヤ様。俺はキート、こっちは弟のリシュと妹のミミです。リシュが5歳でミミはまだ3歳だから、ここに置いてもらえるなら、俺が弟達の分も働きます! こいつらが働けるようになるまでは、給料はなしで、置いてもらえるだけでいいですっ、だから、俺に仕事をくださいっ!」



 弟達の紹介をしている内に、働き手にならない二人を抱えて雇ってもらえるのか不安になってしまったのか、キートが必死に言い募り、頭を下げる。

 これまでもこうやって、自分一人が我慢して頑張って、弟達を守ってきたのだろう。

 あまりにも健気で涙が出た。



「大丈夫よ、キート。もう何も心配いらないわ。キートだけでなくリシュもミミも、興味があることがあれば学んでいいし、働いたらそれに対しての報酬はちゃんと払います。まずは、毎日たくさんご飯を食べて、元気になりましょうか。働くうえで、健康であることは、とても大事なことだから」



 がりがりに痩せているキートが、子供らしくふっくらとするまで、しっかり食べさせてあげたい。

 頭を下げたままのキートを抱きしめて、背中を撫でると、耐えきれないように肩を震わせた。

 泣きたいときもずっと一人で我慢していたのだろう。声を殺して泣くのが癖になっているようなのが切ない。

 考えてみれば、この子は親を亡くしたばかりなのだ。

 その悲しみを感じる心の余裕さえ、今まではなかったのではないだろうか。



「頑張って働く前に、ちょっと休憩しようか。キートは十分頑張ってるから、少しくらい休んでも罰は当たらないわ」



 弟達と一緒に、美味しいご飯を食べておやつも食べて、居住区でゆっくり過ごせばいい。

 一生懸命頑張って生きてきたんだから、ほんの少しくらいのご褒美があっていいはずだ。



「にーちゃ、いたい?」



 キートの足にしがみついていたミミが、キートが泣いているのに気づいて自分まで泣きそうになっている。

 リシュは人見知りなのか、何も言わないまま、おろおろとキートを見上げていた。

 キートはいつも優しくて強いお兄ちゃんで、弱音を吐くところも泣くところも、二人は見たことがなかったのだろう。



「大丈夫、痛くないよ、ミミ……。ちょっと、安心したんだ。これからも、ずっと一緒にいられるって。母さんとの約束も、ちゃんと守れるって」

 


 袖口でぐっと涙を拭いて、キートはミミとリシュをしっかり抱きしめる。

 顔を上げた時は子供らしい笑顔になっていて、さっきまでの緊張も悲壮感も和らいでいた。



「セオ、キートたちを宿舎に案内してくれる? 小さい子に階段は危ないから、一階の部屋がいいと思う。それから、お風呂の使い方を教えて、ご飯も好きなだけ食べさせてあげてね。宿舎で食事を用意できないようなら、エイミーに頼んでこちらで用意させるわ」



 雇い主となる私の前では落ち着けないだろうと、セオに案内を頼む。

 ここでの生活に慣れるまで、接触はできるだけ減らした方がいいだろう。



「かしこまりました、カヤ様。食材は揃ってますし、宿舎の方で食事はできますから大丈夫ですよ。しばらくお側を離れますが、ご用の時はいつでもお呼びください」



 丁寧に一礼してから、セオが子供たちを連れていく。

 ダンジョンを通して繋がっているからか、どんなに離れていても、私がセオを呼べばセオに伝わるようだった。

 転移魔法が使えるセオは、どこにいても、私が呼べばすぐに来てくれる。

 何があってもセオが来てくれるという安心感は、何にも代えられない。


 それにしても、子供を3人受け入れるだけで、色々と気忙しいのだから、数が増えるとなればもっとだろう。

 住む場所は宿舎でいいとして、どんな風に仕事を振り分けたらいいんだろう?

 精霊達に仕事を教える余裕があるだろうか?

 後は、宿などの従業員として冒険者と接するのなら、礼儀作法だけじゃなくて読み書きや計算もできるようになってほしい。

 個別で教えるのは時間がもったいないから、宿舎の食堂にでも集まって、毎日少しずつ勉強をする時間を作った方がいいのかもしれない。

 一度にたくさん詰め込まれても、子供は飽きてしまうだろうし、なかなか身につかないだろう。


 常に持ち歩いている魔法鞄からノートを取り出して、思いついたことや気になることを書き留めていった。

 こうしておかないと、後でセオに相談しようと思っていても忘れてしまう。

 何か思いつくたびに呼んでくださればってセオは言うけれど、セオがどれだけ忙しいのかよく知っているから、負担を掛けるようなことはできるだけしたくなかった。

 いっそのこと、もう少し落ち着いたら、視察と称してセオと2層のコテージあたりでのんびり過ごすのもいいだろうか?

 雪山でスキーもいいけれど、セオは猫精霊だから寒いのは苦手かもしれない。

 

 まだまだ足りないものだらけで発展途上のダンジョンだけど、セオ達のおかげで形になってきた。

 この先の階層をどんな風に作っていくのか、考えないといけないことはたくさんあるけれど、きっと何とかなるだろう。

 世にも珍しい人を殺さないダンジョンを、私は絶対に作り上げてみせる。





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