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神様がみてる




「お酒を造れる精霊とかいるのかな?」



 果樹でブドウを選択したところで、ふと思いついて尋ねてみる。

 リンゴも植えるから、ワインだけでなくリンゴのお酒とかも造れないだろうか?

 私自身はお酒はあまり飲まないけど、体質的にお酒には強いみたいで、どれだけ飲んでもほろ酔い状態が続く。

 まだ二十歳だったから、飲酒の機会はそんなになかったけれど。

 ワインとかアップルブランデーとか作れたら、宝箱に入れられないかなぁ?

 せっかくだから瓶も凝ったものを作ってもらえば、高級品扱いされそうだ。



「お酒を造るのにはスキルが必要ですから、酒造スキルを持った精霊なら作れますよ。お酒を造るのでしたら、専用の設備を設置しなければなりませんが……」



 必要な宿舎とか施設とか色々設置してみたけれど、まだポイントに余裕はある。

 クエストクリアで残りポイントがかなり増えていたのが大きい。



「こっちのお酒って、造って何年も寝かせたりする? 私の住んでいたところでは、古いワインはとても貴重だったりしたけれど」



 結局飲む機会がなかったけど、古く貴重なワインが我が家のワインセラーに入っていた。

 私が生まれた時にお祝いでもらった物もあったらしい。

 お酒を寝かせるのなら、一日も早く作った方がいいのだろうけど、でも、内部の時間を止める魔法鞄があるくらいだから、熟成させる魔法や魔道具もあるのだろうか?



「古酒というのはありますね。ドワーフほどではありませんが、精霊にも酒好きは多いですから、精霊界のお酒は古くなる前に飲まれますが」



 苦笑気味に教えてくれるセオは、お酒が苦手なのかそれとも好きなのか、どっちだろう?



「セオはあまり飲めませんから、お酒の良さがわからないのですよ。古酒だろうが安酒だろうが、どれを飲んでもまずそうな顔をします。いいお酒を飲ませるだけ無駄です」



 エイミーの補足説明を聞いて、つい笑ってしまった。

 お酒に弱いセオって、何だか可愛い。



「エイミーが底なしなだけでしょう。エイミーこそ、少量では我慢できないのですから、高いお酒を飲ませてももったいないではありませんか」



 辛辣なようでいて、二人とも口元が笑んでいる。

 長い付き合いだからこその軽口なのだろう。



「つまり、セオよりもエイミーの方がお酒に強いのね。リビングのキャビネットに、向こうの世界のお酒が入っていたから、今度、こちらの世界の一般的なお酒と飲み比べてみましょう? 酒造用の設備を作るかどうかは、後回しにしましょうか。お酒の材料になる果物が育つまでに時間もかかるものね」



 ダンジョンに人が来るようになったら、酔い潰して留めるというのも一つの手だと思うから、そのためには美味しいお酒が必須だ。

 だけど、何も急ぐことはない。

 まだ私はダンジョンマスターになったばかりなのだから。



「そうですね。酒造設備よりは、カヤ様のためのお屋敷を充実させましょう。家具などに関しましては、最初から設置してあるかもしれませんが、買い物に出た時にいい物がないか探してみます。いくつか心当たりもありますので」



 やっぱりセオが張り切っている。

 私の住環境を整えるのが、セオには最優先事項のようだ。



「セオ、買い物に行くのなら、飲み比べ用のお酒もお願いしますよ。カヤ様のためですから」



 エイミーに念を押されて肩を落とすところを見ると、セオはあまり飲めないだけでなく、お酒自体が好きではないようだ。

 またたび酒とかあったら、喜んでくれるのかな?

 


「あ、そうだ。牛とか鶏の魔物を飼うための獣舎もいる? 世話をするのが大変かな?」



 セオに買ってきてもらうものはないかと考えたときに、ふと思い出した。

 お酒より乳製品や卵の方が、日々の生活に直結しているから重要だ。

 精霊の人数が増えるとシステムキッチンの材料だけでは補えないかもしれないから、自給自足できるのならした方がいい。

 本当はお米も作れないかなぁ?って、思っているのだけど。

 ダンジョン内で作れるのなら、いちいちダンジョンポイントで交換する必要がなくなる。

 ポイントで交換できる日本の食材の中に、種もみが入っていたから、環境さえ整えば育てるのは可能なはず。

 問題は気温だけど、ダンジョン内は特殊エリア以外は一定温度に保たれていて、暑くも寒くもないから、不適格ということはないだろう。



「精霊を受け入れる環境さえ整えば、世話はどうにでもなります。既に待機状態で、呼ばれるのを待っている精霊が何人もいますから」



 昨日召喚したばかりなのに、セオは仕事が早い。

 私が寝ている間に、どれだけ働いてくれたんだろう?

 最初に召喚したのがセオで、本当によかった。



「じゃあ、獣舎も作るわね」



 魔物は後で呼べるから、まずは環境を整えてしまおう。

 私の家と精霊たちの宿舎の間に大きめの獣舎を設置する。

 必要な生産施設や精霊たちが快適に暮らせるような環境を整えて、細かい部分を修正していった。

 適度に雨も降らないと困るから、天気はランダムで設定した。こうしておくと、雷雨や嵐などの酷い天気になることはなく、定期的に雨が降って、程よく風も吹くらしい。

 


「果樹は、ブドウとリンゴとオレンジとレモンにオリーブとクルミ。あ、梅と桃もいるかな。ねぇ、この果樹って、どの程度の周期で実をつけるの? 一年に一回くらい?」



 ふと気になって尋ねてみたけれど、考えてみたら、そもそも一年の長さが地球とは違うのだった。

 こちらでは一週間が10日で、5週で一か月、10カ月で一年だから、一年は500日もある。

 年末の5日間と年始の5日間はどこもお祭りをやるらしくて、とても賑わうそうだ。

 誕生日という概念がなくて、年明けに歳を取るから、また一つ歳を重ねたお祝いという意味もあって盛大なのだろう。



「ダンジョンの外でしたら、一年に一回しか実をつけませんが、ダンジョンの中では成長した後は常に実を付けますよ。一つの木で花も実も同時についていますから、花の蜜も常に取れます」



 ダンジョンの中では、自然界の法則も無視されるということか。

 でも薔薇の迷路を作りたいから、常に花が咲いた状態にできるのならちょうどいい。

 花が咲いていなければただの生け垣になってしまうし、それに香水などの材料が手に入らない時期ができてしまう。

 ありがたく有効活用させていただこう。



「じゃあ、小麦とか野菜を植えたらどうなるの?」



 果樹じゃない場合が気になったけど、そもそもダンジョンで小麦や野菜を育てる人なんているんだろうか?

 どう考えてもいないような気がする。



「多分ですが、通常より早く育つと思います。収穫したらまた植えないといけませんが。ダンジョン内はカヤ様の魔力で満ちていますから、カヤ様のレベルが上がれば上がるほど、成長速度も上がっていくのではないでしょうか」



 セオとエイミーが顔を見合わせて、少し考えこんでから、セオが推論を口にする。

 やっぱり、ダンジョンで農業をする人なんて他にいないから、推測するしかないのだろう。



「実験をしてみるしかないわね。セオが出かけるときに、野菜の種や苗も買ってきてくれる? 後、小麦も植えてみたいから、それも」


「承知しました。出来る限り買い集めてきます」



 お願いねと、セオに頼んでから、正面のモニターに目を移す。

 できるだけ慎重にチェックしてみるけれど、抜けや漏れはないようだ。

 果樹などは元々ダンジョン内の森に生えていることもあるのか、外で苗を購入せずとも果樹園を設置するだけで、育てる果樹の種類を選ぶことができた。

 当初の予定よりも果樹園がかなり広くなっているけれど、役に立つから構わないだろう。



「こんな感じで新しい階層を作ろうと思うけど、どこか修正した方がいいところがあるかな?」



 念のために二人の意見も聞いてみると、セオもエイミーも真剣にチェックをし始める。



「……小麦を育てるのなら、畑の面積をもう少し増やした方がいいかもしれません」


「そうですね。セオのいう通り、ダンジョンポイントにまだ余裕があるのでしたら、作業効率も考えて、精霊達の作業区域の南の方に畑を設置してみてはいかがでしょう?」



 畑を作ってあるけれど、ちょっと狭かったようだ。

 将来お米を作るかもしれないことを考えると、最初から余裕をもってスペースを取っておくのはいいことだろう。



「じゃあ、南に畑を作って……あら? 拡張区域を、最初から畑で選べるみたい。一度広げて、その後に畑を設置するよりは楽だし、ポイントも節約できるわね」



 さっきまではなかった気がするんだけど、見落としてたかな?

 説明を見ると、『畑に適した土地で収穫量が上がる』と書いてあるから、これは設置しないわけにはいかない。

 まさか、水田はないよね?と思いながら探したら、『水田 New!』という文字を見つけて、脱力しそうになる。

 お爺さん、もしかして見てるんですか?

 私に甘過ぎませんか?

 ついでに、神殿か神棚かお社みたいなの、ないでしょうか?

 お料理とか収穫物をお供えしますから。

 そんなことを考えていたら、『ミニ神殿 New!』という文字がいつのまにか増えていて、見ろとばかりに文字が点滅し始めた。

 チェックしてみると、『お供え大歓迎! 設置すると、ミニ神殿が設置された階層のダンジョンポイントの消費が半減する』という、何とも破格な説明が見えて、小さなため息をついた。

 ダンジョンポイントが節約できるのは嬉しいけど、いいのかなぁ?

 急にこんな施設を増やして、他のダンジョンマスターが怒らないかな?



「カヤ様、いかがなさいました?」



 操作パネルを見ながら私が黙り込んでしまったので、セオが心配げに声を掛けてくる。

 黙ったまま、二人にもミニ神殿の説明が見えるようにすると、目を通した後、二人とも苦笑している。



「神は、カヤ様を可愛がっておいでですね。ここに項目として増えているということは、他のダンジョンマスターも使えるようになっていると思われます。ですから、罪悪感など感じることなく、ご使用になるといいですよ」



 セオは私が何を気に病むのかわかっているみたいで、優しく声を掛けてくれる。



「セオのいう通りです。自分一人だけ優遇されているのが申し訳ないなどと思わず、活用なさるのがよろしいでしょう。推測ではありますが、それだけこのダンジョンを重要視されているのだと思いますよ」



 この大陸の国が滅びないようにというだけではないのだろうか?

 このダンジョンが成長して大きくなることに、何か意味があるのかもしれない。



「そうね、思い悩んでも仕方がないわよね。神殿を設置するのはどこがいいかな?」



 二人に尋ねながら、一番神殿に相応しそうな場所を探してみる。

 お供えをしたいから、家から遠すぎない方がいいだろう。



「花畑の真ん中はいかがですか? そう大きくはないようですし、周囲を綺麗な花に囲まれていれば、神もお喜びになるでしょう」



 エイミーの意見は最もだと思ったので、ミニ神殿は花畑の真ん中に設置することにした。

 そうすることで、消費ポイントが減ったので、畑と水田を同時に拡張することが可能になる。

 都合がよすぎるけれど、今は素直に感謝しておこう。

 畑の世話の方が大変そうなので、精霊達の住居の下に畑、その右に水田を設置した。

 水田を設置すると自動的に用水路などもできるようで、どこからか水がやってきて、どこかへ消えていくようだ。

 

 もう一度二人にも確認してもらい、実行ボタンを押した。

 ダンジョン内が改変される大きな音がするでもなく、あっさりと新しい階層が増えたのだった。





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