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魔法、覚えました




 色々と話をしていたらお昼を過ぎてしまったので、紅茶とバスケットに入っていた菓子パンで、簡単にお昼ご飯を済ませてしまった。

 精霊にとって、料理やお菓子は食べなくてもいいけど食べられたら嬉しいといった嗜好品に近いらしいけど、一緒にご飯を食べられるのはとても嬉しいから、毎回付き合ってもらうことにした。

 こちらでは、一日2食が基本で、お昼にご飯を食べるのは裕福な層らしい。

 だから食べるにしても、昼は簡素なものが多いそうだ。

 セオは菓子パンを見たことがなかったそうで、とっても幸せそうにメロンパンを食べているのが可愛かった。

 クリームパンを食べるときは、美味しさのあまりうっとりと陶酔気味だったので、そのうちカスタードたっぷりのシュークリームを作ろうと思う。

 きっと喜んで食べてくれるに違いない。

 簡単なお昼ご飯の後は、部屋の中を案内して、どこに何があるのかを説明しておいた。

 お風呂やトイレはこちらにはない作りだったので、使い方を説明したけれど、精霊はトイレに行かないそうだ。

「ダンジョンマスターも必要ないはずですよ?」とセオに言われるまで、一度もトイレを使用していないことに気づいてなかったけど、私にも必要ないらしい。

 普通にごはんを食べてるのになぁって思うと、不思議で仕方がない。 

 お風呂には入るけれど、主人と同じお風呂を使うのは申し訳ないと辞退されそうだったので、絶対に使うように厳命しておいた。

 洗浄の魔法があるから、お風呂に入らなくても綺麗に保てるらしいけど、あるものは利用するべきだと思う。

 掃除道具がないな?と思っていたのだけど、掃除も洗浄の魔法でできるから必要ないらしい。

 洗浄は誰にでも使える生活魔法だそうで、セオに教えてもらったら、私もすぐに使えるようになった。

 魔法が使えたのが嬉しくて、調子に乗ってあちこちと洗浄して掃除をしていたら、セオに笑われてしまった。


 その後、服や小物などの実物も見てもらい、バッグが魔法鞄に使えるかどうか確かめてもらって、一番使い勝手のいいショルダーバッグに空間魔法を付与してもらった。

 靴やアクセサリーなども、こちらでは珍しい形の物が多いそうで、珍しいものだから綺麗な状態を保てるようにと、状態保存の魔法を付与してくれた。

 革製品などは、使い込むことで味が出るものもあるので、そういったものには不懐の魔法を付与したそうだ。

 セオは詠唱もなく簡単に魔法を使うので、説明されなければ、何をされたのかよくわからなかった。

 ただ、セオが私にとって悪いことをするはずはないという気持ちがあったので、安心して任せられた。

 見慣れた自分のバッグが魔法鞄になったのが嬉しくて、目につくものを入れてみたりしているとまた笑われてしまった。





 一通り魔法鞄の性能を堪能した後、まずは交渉の餌になるような物を作ってみようということで、セオにスキルの使い方を習いながら、ユニークスキルでシャンプーを作ってみることにした。

 必要な材料はダンジョンポイントですべて交換できるけれど、それだとコストが高すぎるので、外で集められる材料はセオが転移して集めてきてくれた。

 転移先は危険な不帰の森の中じゃなくて、もっとずっと安全な場所で、その上、転移前に危険がないか確認することができるそうなので、安心して送り出すことができた。

 ダンジョンマスターのレベルはダンジョンのレベルでもあるそうで、ダンジョンのレベルが上がった方が、ダンジョンを広くできるし、階層も増やせるらしい。

 今は私のレベルが1なので、作れる階層もまだ一つだけで、設置できる罠や魔物の種類も少ない。

 通常のダンジョンを作るときは、強い魔物を召喚するためのレベル上げが大変なのだとセオが教えてくれたけど、基本的にこのダンジョンに戦うための魔物を召喚することはないので、そこまで必死にレベル上げをすることはないだろう。

 私の場合、階層を増やすためのレベル上げになりそうだ。

 レベルを上げるためには、私自身がスキルを使ったり、ダンジョンの改装をしたりすることが必要みたいだ。

 私自身でなく、私が契約した精霊達がダンジョン内で活動することもレベルアップに繋がるそうだ。

 通常のダンジョンならば、設置した罠が発動したり、召喚した魔物が戦ったりすることで、ダンジョンマスターに経験値が入って、それの積み重ねでレベルが上がるらしい。

 ダンジョン内が充実すればするほどに、ダンジョンのレベルが上がってやれることも増えるみたいなので、できることから積み重ねていこうと思う。

 2年後までに、最低でも5層までは作るというのが今の目標だ。

 ちなみに5層まで作るためには、レベルを25まで上げなければいけない。



「カヤ様、スキルを使い慣れないうちは加減ができませんから、一度使ったら、必ず休憩を挟んでください。急ぐことはないのですから、無理は禁物です」



 セオに教えられて、ステータスというものを書斎のパネルに表示させてから、初めてユニークスキルを使ってみる。

 自分の持つ魔力が1割を切ると、眩暈や吐き気がしたりするそうなので、慣れないうちはステータスを見ながらスキルを使う方がいいらしい。

 

 必要な材料をそろえて、≪生成≫とキーワードを唱えると、淡い光が周囲に溢れ、光が消え去るとともに作り出されたアイテムが現れていた。

 コアと同じ桜色の綺麗なガラス瓶に入ったシャンプーは、匂いを確かめてみると、セオが集めてくれた花と同じ甘い香りがした。

 瓶の大きさは、見慣れたポンプのついたシャンプーの容器よりも一回り大きいくらいで、形も私のイメージが元になったせいなのかポンプ型だ。用意した材料よりも容量が増えている気がする。

 一度の生成に消費する魔力は全体の2割くらいなので、休憩を挟みながら、一日に4~5回作れればといったところだろう。

 ちなみに、魔力は休むかポーションを飲むことで回復するらしいけれど、魔力を回復させるポーションは貴重なものなので、かなり高価らしい。

 冒険者はいざという時のために持ち歩いているそうだけど、使うとかなりの確率で赤字になるので、命に係わるような緊急事態でもないと使わないそうだ。

 魔力回復のポーションが簡単に手に入るだけでも、ダンジョンに冒険者達が集まりやすくなるだろうとセオが予測していた。

 ポーションを作れる薬師は多いけれど、魔力回復ポーションの材料はダンジョンでなければ手に入らないので、どうしても品薄になってしまうらしい。

 私のダンジョンでも、早いうちに魔力回復ポーションの素材が手に入るようにしたい。



「とても綺麗な色のガラス瓶ですが、このまま売り出すには大き過ぎますね。火の精霊と契約して、売り出すのにちょうどいいサイズの瓶を作ってもらいましょうか? ガラスの材料はこの周囲でも採掘できますし、ダンジョン内で採掘所を作ってもいいですし」



 セオが私の生成したシャンプーを見ながら、売り出すための算段をしている。

 火の精霊が作った瓶なら、質のいいものができそうな気がする。



「ねぇ、セオ。瓶を作ってもらうのなら、花の形とか、ちょっと変わった形のものを作ってもらえないかな? 濃い色じゃなくていいんだけど、色ガラスなんかもできる? 私の知ってる香水は、こんな感じの可愛い瓶に入っていたりしたの」



 タブレットで香水を検索すると、いろんな形の瓶に入った香水が表示された。

 シンプルな形のものが多かったけど、丸みを帯びていたり、ハート形だったり、蓋に特徴があったりで、可愛らしいものもたくさんある。

 シャンプー自体に色があるから、瓶は透明でいいと思うけど、中身が透明な液体の時は、淡い色のついた瓶の方が可愛いと思う。

 男性向けのシンプルなデザインも必要だと思うけれど、形にもこだわった方がずっと高級感がでるはずだ。



「これは素晴らしいですね。火の精霊はドワーフの鍛冶師よりもずっと腕がいいですから、練習すれば作れるようになると思いますよ。腕のいい精霊を勧誘しなければいけませんね。他にも細工の得意な精霊や、植物の育成が得意な精霊を呼びましょう。カヤ様との相性もあると思いますから、よろしければ面談の予定を組みます。こちらの魔道具はカヤ様しか使えないようなので、サンプルとして、カヤ様のお手持ちの鞄や装飾品などをお借りできますか? どういった技術を必要としているのか伝えるのに、万の言葉よりも説得力がありますから」



 感心したようにタブレットの画面を見入っていたセオが、心持ち興奮気味に予定を立て始める。

 私自身に精霊の伝手はないので、セオに任せてしまうことにした。

 さっき、私専用の魔法鞄を作るために、私の手持ちのバッグや小物を見せているから、セオは私がどんなものを持っているのか一通り知っている。

 そのセオが必要だというのだから、手持ちの物を貸すことくらいどうということはない。

 ダンジョンを作るのに人手が必要なのは確かだし、いくらダンジョンポイントを消費してスキルを取れるといっても、すべてのことを私とセオでやるのは無理だ。

 任せられるところは、専門家に任せてしまった方がいい。

 精霊達は私よりもよほど長生きで、経験豊富なのだから。



「使えるものは何でも使って。勧誘に行くのなら、手土産もあった方がいい? 精霊は甘いものが好きだって本に書いてあったから、お菓子でも持っていく? クッキーとか、ちょっとした焼き菓子くらいなら、私でも作れるから」



 プロの作ったケーキもダンジョンポイントを使えば交換できるけど、できるだけ自力で頑張りたい。

 ポイントの消費を抑えたいからじゃなくて、協力をお願いするのなら、心を尽くす必要があると思うから。

 幸いなことにレシピはタブレットで検索できるから、頑張って手土産を用意しよう。



「甘味の嫌いな精霊はいませんから、手土産で持っていけば、きっと喜ばれるでしょう。私もお手伝いしますから、お手数ですが作っていただけますか?」



 私がお菓子を作ると聞いて、セオは驚いたようだったけど、すぐに賛成してくれた。

 一番得意なチョコチップのクッキーを作って、セオには一番に食べてもらおう。

 私が一番喜んでほしい相手はセオなのだから。

 材料が余っていたので、もう一回、今度はトリートメントを作って、残った材料はセオが作ってくれた魔法鞄に片付けた。

 向こうでも使い勝手がよくてよく使っていた布製の青いショルダーバッグは、セオの手で何でも入る魔法のバッグに生まれ変わったので、タブレットも持ち歩けるようになった。

 生き物以外は何でも入るらしいから試してみたら、システムキッチンに置いてあるパンのバスケットは入らなかったけど、中のパンだけなら入れることができた。

 どちらにも空間魔法が使われていて、バスケットに使用された空間魔法の方がレベルが高いから、そのせいで入らなかったのではないかというのが、セオの見立てだ。

 パンが溢れることはないらしいけれど、キッチンにあるビニール袋に入れたりして、ショルダーバッグに少し移しておいた。

 何があるかわからないから、いつでも簡単に食べられる食料というのは、確保しておいた方がいい。

 セオが能力を最大限に使って作ってくれた魔法のバッグなので、容量はかなり大きいらしいから、安心して色々詰め込める。

 災害時に備えるのが大事だというのはとてもよくわかるから、セオの勧めに従って、数日分の着替えや換金できそうな雑貨、料理しなくても食べられる果物なども入れておいた。

 私はダンジョンマスターだから外に出られないし、いらない備えのような気がしないでもないけれど。

 いくらなんでも、自分の作ったダンジョン内で迷子とか遭難はありえないだろうし。


 基本的にダンジョンマスターが召喚するときは、召喚される側はアイテムを持ち込めないそうだけど、セオは空間魔法が使える。

 空間魔法には、形のない魔法鞄のようなものを自在に使えるスキルがあるそうで、そこにほとんどの荷物は入れっぱなしにしているそうだ。

 古すぎて自分でも入れた覚えのない品もあるそうだけど、内部の時間が止まっていて腐るわけでもないからと、放置したままのようだ。

 きっちりしているセオの意外な一面を知って、ほんの少し驚いたけど、でも、興味がないことは放置って猫っぽいなぁと微笑ましく思った。




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