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ぞんび・えでぃ♡ぶる!  作者: ぬこ
あこがれのセンパイ
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あこがれのセンパイ

 今日のうお座のラッキーアイテムはバッグに入れた白いハンカチ、AB型の恋愛運は最高、きっといいことが起きる、っていうか起こるっしょ!

 駅から学校へバスの時刻をあわせて7:45。絶対今日は先輩の近くに行けるはず。

 ・・・っていうか、並んでるじゃん!私の1,2,3・・・10人くらい後ろに!ほら、今日はラッキーじゃん!もう今日告白してもいいんじゃないかって勢い。

 告白・・・それは、ちょっと・・・無謀かなぁ。だって先輩私の名前だって知らないと思うし・・・覚えてくれてたら嬉しいけど・・・あー、どうして今日「お友達になって下さい」って手紙持ってこなかったんだろう。

 タラップを上がるのなんて毎日やってるし、先輩と一緒のバスだって何回もあるのに、今日に限ってぎこちないというか、右手右足一緒に出してないよね?変なやつだと思われてないよね?私。

 バスの席はすぐにうまって優先席だけ空いてるけど、もちろん私は座らない。健康優良女子だし、足骨折してる学生いたりおばあさんとかいるのに座っちゃう奴だなんて先輩に思われたらもう生きていけないもの。そ・れ・に、先輩の一番近くに行けるのが立ってる時だしね!

「若葉ちゃーん、おはよう!」

 げっ、癒美だ。

 せっかく先輩と挨拶くらいはできると思ったのに間にこいつが入ってくると私の計画が台無しになってしまうじゃないか。

「さっきこっち見てた時に手を降ったの気が付かなかった?」

(アッハイ、気が付きませんでしたよ。先輩のことしか考えてなかったし)

「えー、ごめん。考え事してたから」

「若葉ちゃん考え事とかよくあるよねー。また中二病っぽいことでも考えてたかな?」

「中二病とか言わないでよ。他のクラスの子とかいるのに」

「ゴメンゴメン。でもさー、結構本当のことだと思うんだよね。逆に」

「むー。否定はしないけどさー」

「でさ、昨日は何してたの?意味深なVINEよこしてくれたけど」

「ふっふー、よく聞いてくれたね。だが、秘密じゃ」

「そーゆーところがー、中二病!」

「うん・・・」

「で、何だったの?」

「うーん、全部言うと絶対癒美退くからぼかして言うと、噂のパワーフードを食べに。」

「えー、若葉のことだから冥界の闇を煮詰めたスープとか異世界ドラゴンの卵焼きとか、ゾンビ豚の豚骨ラーメンとかそういう系でしょ?」

「は、はは・・まさか・・・(ヤバイ、かすりまくってる)」

「写真とか撮ってないの?」

「いやーそれがさあ、撮影禁止とか言われて、こっちとしては聞いてないよって感じだったんだよね。むかつくから低評価してやろうと思ったんだけど、それやると評価の履歴が残って私がそこに行ったのがバレるでしょ?」

「え?じゃあ結局教えてくれないわけ?」

「まあそのうちねー。もしパワーフードの効果が出たら癒美に教えてあげるよ」

「望み薄だなー」

 とか女子トークしている間にバスは満員になってもう出発の時間だ。

 って!ヤバイ!先輩すぐ近くじゃん。こんなに自然にお近づきになれるとは癒美GJだよ!あー、でも癒美がいたら先輩と話ができないし、くー!このダブルバインドはきつい。

 先輩は私に気がついていないけど、私はちゃんと分かってる。やっぱり先輩は先輩ね。先輩がバッグにつけてるチャームは、あの『ぬばたまの・オブ・ザ・デッド』の最強武器、七支刀だってこと、知ってるんだから。先輩は背が高いしイケメンだと思うけど、誰もそのことを知らないってことは自分の趣味を共有する彼女も友達もいないということになる。しかも、もう終わったとかいう人もいる(ムカつく!)マイナージャンルにこだわってるっていうことは相当ディープなハズ。単に頭がボサボサでファッションとか気にしていないからじゃなくって、「こっち側」の人だから女っ気もないってことは私のホームズ・アイでお見通し。でも私は先輩と同じ側の人間だし、何よりジャンル内で語り合いたいじゃない!私が先輩の一番の理解者になれるんだから、世界よ、お願い、先輩と引きあわせて!

 今日の計画は一晩考えてプランCまで練っておいたから、きっとなんとかなるはず。まずは最初のカーブのところでぐらっと揺れて私が先輩のところに近づく。その時七支刀のチャームも揺れて、私が「あ!ぬばたまの最終武器?」とか言ってみる、すると先輩が「知ってるの?」って話しかけてくれてそこから自然に会話が始まるってワケ。もし失敗したら私のヘアバンドが実はマスコットキャラのローローだってことをさりげなく見せてそこから始まってもOK。それでもそれでもダメだったら、揺れた時に「この揺れ・・・今、地が割れる」とつぶやいちゃうわけ。ぬばたまクラスタだったら反応しないわけない!完璧!

 ・・・っていうのは昨日の夜ノートに書いたんだけど、今考えたらただの馬鹿だ・・・

 夜にラブレターかくなって言うのと同じ罠にはまってるとしか言えないじゃん。

 先輩の七支刀がもしそれと知らないでつけてるだけだったりしたら何も始まらないし、先輩がどれくらいディープなのかも自信がなくなってきた・・・

 あああ、これはまずい。ネガティブループだ。中二病のあるあるパート2じゃん。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ・・・迷いを捨てないと。

 まずプランAの復習。中央タラップの後ろ側に私が立っていて先輩はやや前。バス内を5レーンに分けるとすると先輩が3レーン目で私がレーン4だ。二人の間にはレーン3の癒美がいる。最初の大きなカーブは右から左に倒れがちだから癒美を左側から交わして先輩のやや左に動いてトライアングルの関係にならないと計画が失敗してしまう。バスが動き出す前に最適なポジションを確保しよう。

 癒美に気が付かれないようにさりげなく移動するにはどうしよう。あっそうだ。

「あ?癒美?ちょっと髪になんかついてない?こっちの方」

「え?マジ?どこ?」

「鏡だと見つけにくいかも。とってあげるから動かないで」

「学校についてからでいいよー」

「遠慮しないで」

「いいって」

 うっ、思っていたのと違う展開だ。もっと素直になるのだ、癒美よー。

「まあまあ」

「いいって」

 回り込もうとする私と遠慮する癒美。

 ポジショニングを修正しようとスライドしたその時、癒美の足につまづいた。

「あっ!」

 つまづいた私が倒れこむその先は、先輩!暴走した精神がこの後に起こる最悪の結果をとてつもないスピードで数え上げているのに、体は何もできない。そして、顔から先輩の制服の胸にぶつかるように飛び込んでしまった。

「痛っ!」

「あっ」

 先輩も突然のことに声も上がらない。

 鼻の頭をぶつけて痛いことよりも、バスの乗客が私に注目していることよりも、先輩に最悪の印象を与えているのが最悪だ。しかも両足揃えて転んだから、つっかえ棒のような姿勢で先輩の棟に顔をうずめたまま動けない・・・

「スミマセンスミマセンスミマセン!あの、あの、七支刀がドジでバッグが私のチャームの先輩で!じゃなくて!あの!あの!」

「・・・若葉さん、でしたっけ?」

(・・・え?今・・・)

「はい?あ、そうです。と、とにかく、スミマセン!」

 先輩が今渡しの名前を呼んだ!ヤバイ想像してなかった!体中の血液が顔に上がってきた!

 ・・・あれ?何か・・・

「若葉さん、大丈夫ですか?」

 この状況で気が付かなかったけれど、これは・・・これは・・・

「運転手さん!すみません!降ります!」

 どういう走り方をしたのか全く覚えていないけれど、何人かの足を踏んだような、ぶつかった人が悲鳴を上げていたような記憶もないではないけれど、そんなことはどうでもいい勢いで私は全速力でバスを降りてコンビニのトイレに駆け込んだ。

「ううう、最の悪すぎる。」

 私、恥ずかしくなったり失敗すると割とすぐに涙が出る質なのに、今日はあまりにもひどすぎて、落ち込みすぎて涙も出ない。千載一遇のチャンスで大失敗をした上にまさか急にお腹がこんなことに。って、あれ?もうお腹痛くない。極度の緊張が体調まで狂わせたっていうことなのか、逃げ出したい気持ちに体が言い訳を用意してくれたっていうことなのか・・・

 何にせよ、今日は朝から人生最悪の日だった。ラッキーアイテムもパワーフードも、もう頼るもんか!もーーーー、みんな、クソっくらえだ!


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