海域の覇者 1
◆
ゼロスがイラペトラ諸島へ向かい、十日あまり。
ということはディアナとミネルヴァが爪牙兵を作り始めて、やはり十日が過ぎたということだ。
爪牙兵とは生き物から切り取った爪や牙に魔力を込めて、その生き物の骨格を再生産し、かりそめの命を吹き込み下僕と為す魔法。
それは魔族の大軍と渡り合ったかつての皇帝が、最前線における兵力不足を嘆き、魔導師に相談したことが始まりとされる。
戦闘能力は決して高く無いが、死を恐れないことと量産が可能であることから、それなりに重宝したらしい。
つまり重要なことは人間の爪を使えば、人間の形をした骸骨兵が完成するということである。
俺は今、宿の部屋に籠って近海の地図を眺めていた。
机一杯に広がった地図には、船の模型が多数並べてある。
俺はその幾つかを前に出し、下げ――首を捻った。
「ニコラオスからイラペトラまで三日――いや、急げば二日で到達出来る。加えてヴェンゼロスとトリスタンは共に策謀家……彼等が結んだとすれば……やっぱり、ゼロスが帰ってくる訳ないよなぁ」
「カタ……」
爪牙兵の顎が揺れた。
俺の後ろには、一体の爪牙兵がいる。人員の不足から、コレが俺の護衛になったらしい。
というのは嘘だ。
俺はコレを側に置き、どの程度の作業が可能か見極めようとしている。
次の作戦には、コレが欠かせないからだ。
爪牙兵は俺の後ろから空っぽの眼を覗かせ、一緒に地図を見ている。白骨の指が動き、船の模型を一つ、ひっくり返した。
「お前、状況が分かるのか?」
「カタカタ……」
分かる――と言っているような気がする。
「地図、読めるのか?」
「カタカタ……」
もちろん――と言っているような気がする。
だが、そんな筈は無い。
それはもとより、爪牙兵には頭脳が無いからだ。
しかしそれ以上に、コイツの元になった人物にも脳は無かった。
そう――何故ならコイツのオリジナルは、ガブリエラ・レオなのだから。
「嘘をつくな」
「カタ……タン」
ごめんなさい――と言っているような気がする。
何だか意思の疎通が出来る様な気がするのは、俺だけだろうか。
皆が試した爪牙兵は、命じたことを命じた通りにしかやらないという。
だとすると、コイツは特殊個体なのかもしれないな。
何しろ俺は今、コイツに何も命じていないのだから。
――――
今を遡ること十日前、ゼロスは一人でイラペトラ諸島へ旅立った。
皆で港に見送りに行くと、男前な笑顔で彼は言ったものだ。
「必ず吉報を持って帰って来るからよ! 楽しみにしててくれ、提督ッ!」
彼が俺に親指を立てながら、ナナをチラチラと見ていたことは忘れない。
そしてナナは彼に視線を合わせることなく、ハナクソをほじっていた。可哀想なゼロスだ。
まあ――俺としても、見てしまった感がある。だから、すぐに目を逸らした。
船は逆風だったが、ゼロスも流石は海の男。巧みに風を操り、あっという間に見えなくなった。
涙をこらえる母親セーラの美貌が、何だか未亡人を思わせる。
未亡人百合もいいな……デュフ。
そんなセーラの隣で海風に靡く金髪を押さえながら、ガブリエラが首を傾げている。
昨日の作戦会議に出席出来ず文句と不平を溜め込んだかと思えば、彼女は意外と大人しかった。
もっとも、俺から少し離れた所に立っているのは、怒りを抑えているからかもしれないけれど。
俺と目が合ったガブリエラは、僅かに距離を縮めてセーラに聞こえないよう言った。
「なあ、こんなんで上手く行くのか?」
「上手くいってくれたら、一番有り難い。だが、まあ……次善の策も用意するよ。だからさ――」
そう言って、俺はディアナを側に呼ぶ。
そのとき彼女に俺は百体の爪牙兵を十日以内に作るよう頼み、同時にドムトに対して軍艦二隻に鉄板を張り、防御力を強化する工事を命じた。
ちなみにその後ティグリスが寄って来て、おそらくは皆が懸念していることを聞かれたのだが……。
「なぁ、提督。ゼロスが成功する確率って、どのくらいだ? 二割くらいってところか?」
「いや、一割もないだろう。運が良ければ成功するってところだ」
と、頭を掻きながらも正直に言ってしまった。
お陰で周りはドッと笑ったが、セーラだけは顔面を蒼白にしている。
そりゃそうだ。母親の前で悪いことをしたと、今でも思う。
「も、もちろん、死なせるつもりは無い」
慌ててフォローしたけれど、セーラは微笑みながら言ったものだ。
「良いんですよ、アレでも男ですからね。何かをやるなら、命懸けじゃないと!」
帰ってきたら、ゼロスは相応に報いてやろう――そう決意せざるを得ない母親の微笑みだった。
ただ、それより問題は、この時ディアナが目を丸くしていたことだ。
「十日で百体!? いや、いくらボクが天才魔導師でも、ちょっと無理があるよ! 一日五体が限界だもの!」
「え、ディアナでもそんなもの?」
「そりゃそうだよ! 元はこんなに小さいんだよ!? これを、こんなに広げるんだから!」
言いながら、自分の指の爪を突ついている。そして俺の身体を両手でなぞり、頭から足下へと動かした。
それから顎に指を当てると口角を吊り上げ、ディアナは付け足す様に言う。
「まあ、死体を使えば十日で百体も無理じゃないね。骸骨兵なら、その辺の墓から沢山作れると思うよ」
俺は首を左右に振って、断った。
「それじゃ駄目だから、爪牙兵なんだよ。住民感情も少しは考えてくれ」
「あ、やっぱり」
「そうだ。俺も協力するから、どうかな?」
俺の提案にディアナは腕を組み、目を瞑って悩んでみせる。
「う〜ん、まあ、いないよりはマシかな」
「ディアナ。私も役に立てると思うけれど……」
ミネルヴァが、小さく右手を上げている。
「あ、じゃあ、おれも……」
ガブリエラは全員から「役立たず宣言」をされて、そのまま港の風となって消えた。
◆◆
結論から言えばディアナが爪牙兵を作る速度は、一日五体が限度。ミネルヴァが三体で俺が三分の一体だ。
そして今、後ろに控えているのは、俺が頑張って作った最初の一体である。
コイツを作る際、ガブリエラの爪を元にしたのは理由があった。
アイツくらい戦闘能力の高いヤツはいないのだから、アイツを元にすれば強い爪牙兵が作れると思ったのだ。
だが――それが失敗だった。
実際、この爪牙兵は強い。
ディアナの爪を元にして作った兵も、俺の爪を元にして作った兵もコイツには敵わなかった。なんとミネルヴァの爪から作った爪牙兵さえ圧倒した程だ。
「これなら、全部ガブリエラの爪牙兵にした方がいいんじゃないか?」
そんな風に皆が思っても、当然だろう。
だからある一日、嫌がるガブリエラの爪を切り落とし、八体の爪牙兵を作ったのだ。
翌日にはガブリエラの足の爪を切り、さらに八体を増やそうと計画して、俺達は眠りにつく。計画は順調に思われた。
しかしなんと、その八体は深夜のうちに互いを潰し合い、翌日には一体に減ってしまったのだ。
それを別の部屋にいた俺の爪牙兵がボコンと一撃――コレが最後まで勝ち残ってしまったのである。
「あぁ……気性とか、元の人に似るからね……少しくらい。本当に少しくらいなんだけど……ガブリエラの場合は……なんかねぇ……フヒヒ」
寝ぼけ眼で言ったディアナは、以来三日掛かりで作った俺の爪牙兵をここの護衛係にしてしまった。コレを他の爪牙兵に会わせると、多分ろくなことにならないと言って。
俺も、賛成だった。
“コンコン”
ノックに対する俺の返事も待たず、慌ただしく入って来たのはテオドラだ。
彼女に対して俺の爪牙兵は、妙な敵意を見せる。
「叩き割るぞ、この肉無し!」
テオドラもこれがガブリエラの爪から出来ていると知った後、敵意を隠そうとしなかった。
「カタカタ!」
軽く手を挙げて二人を止め、俺はテオドラに用件を聞く。
「テオドラ、用件は?」
「あ……それが、イラペトラ諸島のエリティスから書状が届いたんだ」
そう言ってテオドラは蜜蝋で封のされた羊皮紙を差し出し、俺の机に置いた。
早速封を切り、中に目を通す。内容は、予想通りだった。
ゼロスがイラペトラへ向かって、既に十日が過ぎている。
マーモスからイラペトラへ到着する迄に三日。交渉に二日掛かるとして、帰りも三日。
順風満帆に交渉が進めば、ゼロスは二日前に帰っていてもおかしくない。
だから昨日も、ゼロスの件は話題になった。
「あいつ、今日も帰ってこなかったな。ま、殺されたか」
麦酒をガブガブと飲んで言うヴァレンスに、悪気は無かったと思う。
「惜しむべき笑えるヤツだった……!」
だがティグリスはそう言って、酒場を笑いの渦に包み込んだ。
流石にセーラがその場に居なかったから良いが、余りに配慮の無い発言ではあった。
もちろん俺は、その意見を否定している。
何故なら、彼等の掲げる大義はマーモス諸島全体の平和である。
それは排他であっても調和であり、決して身内同士の争いではない。
つまりゼロスも彼等にとっては、身内の一人。彼を殺せば、大義が成り立たないのだ。
「提督――中にはなんて書いてあったんだ?」
テオドラが眉根を寄せた顔を近づけ、俺の手元を覗き込む。
「簡単に言えば、ゼロスを捕虜にしたから、返して欲しければ私に引き取りに来い――と」
そう言って、テオドラに手紙を渡した。
テオドラが肩を揺らし、ブルブルと震えている。
「罠だ! 行く必要なんてねぇ!」
「だけど、私が行かないとゼロスが殺される」
「そんなの、ゼロスが勝手に行ったんだ! 殺されたって文句はねぇって言ってな! それに、もう殺されてるかもしれねぇっ!」
「生きているよ。エリティスの狙いは私だし、何よりこれは、ヴェンゼロスが仕組んだことだろう。私が誘いに乗ると――そう思っている。彼はまあ、やり手だね。ははは……」
「笑い事じゃねぇよ、アレクッ! もう数はこっちが勝ってるんだ! 舐めたことしやがって! 一気に攻めて、叩き潰してやろうッ!」
「テオドラ。まあ、そう熱くならないで。ここに皆を集めてくれないか? 実は、こうなることを予測していなかった訳じゃないんだ。だから、準備も整っている」
テオドラは目をパチパチと瞬き、大きく頷いた。
――――
俺が執務室として使っている宿の部屋は、二階突き当たりの角にある。
窓は南北に対であり、陽光が直接差し込むことはない。
しかしそれでも、日中、ランプに火を灯す程では無かった。
かつてのこの地は、帝国の属領である。
比較的温暖な気候は島に小麦やオリーブを実らせ、海は数多の恵みを育んだ。
しかし同時に海は魔物でもある。潮流は時に大渦となり、帝国の船を阻む盾ともなった。
変わり易い天候も、足枷となったのだろう。
幾度と無く嵐で船が沈み、海賊に襲われたことで、この海域は帝国の人々にとって徐々にではあるが、恐怖の象徴となっていった。
そんな中で生まれたのが、土着の海賊達だ。
彼等は地の利を活かし、数多の帝国船を海の藻屑へと変えた。
本国との交易が減れば当然、島民の収入は減る。それは、やむを得ないことだったのだろう。
しかし、これに業を煮やした帝国軍は本腰を入れて島を不毛の地へと変え、去っていった。
以後、帝国は海賊と共にあるこの地に、見向きもしない。
だからずっと、この地は放置され続けていたのだ。これ程に豊かな可能性を持ちながら。
いや――見て見ぬ振りをしていただけ、かも知れない。
軍事行動を起こす度、海賊達に煮え湯を飲まされ続けたのだから……。
軍装に身を固めた部下達を待つ間、俺はマーモスの歴史を振り返っていた。
「それも、今までのこと」
俺は紅茶を啜り、目の前に揃った皆を改めて見る。
最前列にドムトが立ち、その後ろにティグリス、アントニア、レオン、ナナ、アイーシャ、ミネルヴァ、ヴァレンス、セルティウス、セーラと続いていた。
机の脇、左右にガブリエラとディアナがいて、俺の後ろにテオドラと爪牙兵が立っている。
「……ゼロスは、失敗したらしい。彼の命が惜しくば、私に引き取りにこいと、そういう内容の手紙が届いたよ」
羊皮紙を皆に回すよう、テオドラに手渡した。
皆、手紙を読むと笑ったり、顔を顰めたり、あるいは嘆いたりと忙しく表情を動かしている。
中でもセーラは顔に手を当て、首を左右に振っていた。
「決裂だな……攻めるか?」
最初に発言をしたのは、ティグリスだ。
「そのつもりだ」
「そ……んなっ!」
俺の言葉に、セーラが息を飲む。
胸に手をあて、大きく肩で息をしていた。
「だが――もちろん、ゼロスを見殺しにもしない。まずは聞いてくれ」
まだ暖かい紅茶のカップに両手を添え、皆を見回した。
良い顔をしていると思う。
ただ、セーラだけは表情を暗くしていた。
彼女をここに呼んだのは安心させる為だったのだが、今のところは逆効果のようだ。
俺は机の上に広げたイラペトラ諸島の地図を皆に示し、説明を始めた。
「今、このタイミングで手紙が来たということは、イラペトラ諸島のエリティスとニコラオス諸島のトリスタンが同盟を結んだと見て、まず間違いないだろう。それを結びつけたのは、もちろんヴェンゼロスだ。
しかし――今更二つの海賊団が結びついた所で、勢力はこちらが上。彼等も迂闊な攻撃は出来ない。おそらく、考え倦ねていたのだろう――そこにゼロスが和平の使者として訪れた」
「恰好の餌になったわけだなぁ……ゼロスのヤツ」
ティグリスはニヤリと笑い、頬を指で掻いた。
セーラを意識してか、暴言は封印しているようだ。
「なるほどねぇ。彼を人質にしてアレクを呼び出す――まあ、エル諸島の御曹司だもの、それなりの価値はあるわね。だけど、こっちの司令官を出せなんて、虫が良過ぎるんじゃない?」
アントニアが肩を竦め、苦笑している。
それに答えて、俺は笑った。
「私が行かなければ、彼等は帝国軍の無情を訴えるだけさ。帝国に付いても、冷遇されるぞ――ゼロスを見ろ、簡単に見捨てられる――ってね。それで我々に付いた民衆の不安を煽ることが出来る」
「逆にアレクが行けば、司令官を殺して戦は終わり――敵としては、こっちの方が望みかな?」
ディアナが眉を顰め、机を指でトンと叩く。
「いやぁ……それじゃあ足りないさ。彼等は来いと言っている。それも人数制限無しでね」
「提督――つまり敵は、こちらを全滅させるつもりだと?」
「レオン、正解だね。だからといって、ご褒美は無いよ」
「そ、そんなものは望んでおりません、冗談を言っている場合では無いでしょう! それでは、どうすると言うのですかッ!」
俺は頷き、地図上に指を這わせた。
「もちろん、ゼロスを取り返しに行くつもりだよ。その為にも皆、イラペトラ島を見てくれ。で、彼等が指定しているのは、この港――ザッカールだ」
「おい、冗談じゃねぇっ! 随分と河を遡るじゃねぇかっ! しかも、こんなに曲がりくねった河じゃ、船の動きも制限されらぁ! 敵は、その辺を狙ってくるってこったろ? しかもここだ! この崖から狙われりゃ、身動きが取れねぇっ!」
「ドムトの言う通りだ。さらに河の両岸付近に石でも蒔いて水深を浅くされていたら、軍艦など簡単に座礁するぞ」
「流石は鮫のヴァレンス。水上戦闘に関する知識は、頼もしい限りだね」
「茶化すな、提督。俺は行く事に反対する」
「まあ、聞いてくれ」
俺は地図にある河がS字状に曲がった地点を指差し、説明を続けた。
「ここが渓谷になっている。上は鬱蒼とした森林地帯らしい――らしいというのは、私もまだ見た事がないからだ。だが、敵が兵を伏せるなら、この地点が最も理にかなっている。ここの川幅を狭め、艦隊を足止めすれば――我々には手も足も出ないからね」
「分かってて行くのは、おれも得策だとは思えいないぞ……」
ガブリエラが腕組みをして、俺を睨んでいる。
「もちろん、私が旗艦に乗り込むことはない。何の為に爪牙兵を準備し、旗艦に鉄板を貼付けたと思っているんだ? ――敵には、私が来たと思わせることが出来ればいい」
「カ、カタ……?」
俺の後ろでガブリエラ産の爪牙兵が両手を上げて驚いているが、気にしたら負けだ。
「旗艦に乗り込むのは、これまでに作った爪牙兵七十体でいい。今回のことで、艦が沈んでも構わない。ただし敵の攻撃は、伏兵だけで終わりじゃないだろう。当然、港から繰り出す本隊があるはずだ。と言うより――これを誘き出したい」
ここで言葉を区切り、俺はアントニアを正面から見る。
「アントニア、旗艦と爪牙兵を含む全軍の半数を預ける。敵の進撃を阻み、渓谷を守ってくれ」
アントニアが目を瞬き、口元に笑みを浮かべている。
「あら、すごい無茶ぶり。アタシに死ねと言ってるのかしら? それとも、敵艦隊を叩けと?」
「まさか。あくまでも守勢に徹し、私の指示があるまで持ち堪えてくれればいい。帝国の盾に相応しい任務だと思うけれど、どうかな?」
「……ウッフフフ、冗談よ。三方から敵に挟まれて、防戦に徹するなんてゾクゾクするじゃない〜。任せて、あたしにしか出来ない戦いだもの、一兵足りとも死なせないわ」
「よろしく頼む」
「あ、いいな、アントニー。アレク、俺にも何かねぇのか?」
ティグリスが口を尖らせ、横で不平を言っている。
「もちろん、ある。ティグリスはもう半分の艦隊を率いて、南から河口付近に現れるであろうニコラウス諸島の――トリスタンが率いる艦隊を破ってくれ」
「お、おう。いきなり破ってくれって、おま……その前にトリスタンの艦隊なんて、来るのか?」
「来る。帝国の剣に相応しい仕事だろ?」
ティグリスの胸を拳で叩き、俺は片目を瞑ってみせた。
「ずっりぃな、その言い方。任せとけ、トリスタンなんぞ、ズタボロにしてやっから」
ボサボサの髪を掻き回しながら、ティグリスが照れた様にそっぽを向く。
だけど大丈夫、彼は俺の意図を理解してくれている。
ズタボロと言うのは、なるべく殺さずに処理するという意味なのだろう。
さて、次は……。
「アイーシャは夜陰に紛れて、ドムトと百人の兵をイラペトラに送ってくれ。兵を伏せる。その後はティグリスと合流して、ニコラオスの艦隊と戦ってくれ。
ドムトが兵を伏せる地点は、ここだ。指揮はテオドラと頼む。詳細はコレに書いた。手順通りに戦ってくれ」
俺はドムトに羊皮紙を渡し、テオドラと読むよう伝えた。
「おう!」
「えっ、あたしは提督と……!」
文句を言いそうなテオドラを制し、俺は言葉を続ける。
「レオンはマーモスを守ってくれ。治安に関する全権も委ねる。何かあった時は、独自に判断してくれて構わない」
「……御意」
「ん……不満そうだね?」
「願わくば、共に戦いたいと」
「……はは。レオンの勇猛はよく知っている。その時が来たら、是非、お願いするよ」
レオンは頷きつつも、アントニアに慰められていた。
「ちょっと待ってくれ、アレク。肝心のゼロスはどうするんだ? 助けるんじゃないのか?」
ガブリエラが首を傾げ、アホ毛を揺らしている。
「ああ、それは私が助けに行く。ガブリエラ、一緒に来てくれ。セルティウスさんも」
「お、おう……」
「承知した」
あれ? ガブリエラのヤツ、口がムニムニってなって、嬉しそうだな。やっぱり肉弾戦がありそうだからかな?
「フヒヒ、じゃあ、ボクも」
「ディアナはアントニアと一緒に、本隊にいてくれ。防御を固めたといっても、まだ足りないかもしれない。いざとなったら魔法で援護を頼む。ミネルヴァも一緒だ」
「えぇ〜!」
頬を膨らませながら、不承不承ディアナは承知してくれた。ミネルヴァもいるなら仕方が無い、という顔をしている。
「じゃあナナ、そういうことだから、小舟を出してくれ。島へ上陸して、ゼロスを助けに行こう」
「えっ!? 何であたしがっ!」
「そりゃ、ゼロスの婚約者だから仕方ないだろ?」
「おい、提督っ! そりゃねぇだろっ!」
「ははは……だけど実際、島内を知っているのはナナだけし? だから頼むよ」
「そういうことか。分かったよ……でも成功したら、今度こそ金一封くれよ」
俺は頷き、解散を宣言した。
「あ、そうだ。アレク」
手を打ち鳴らし、アントニアが笑みを浮かべた。
「流石に、四人でゼロスのところまで行くのは辛いんじゃないかしら?」
「いや――見つかったら困るからね、少人数の方が良いんだ」
「そう? でも、もう一人くらい居ても良いんじゃない? 腕の立つのがいるのよ。連れて行って欲しいわ。ほら、アレクに何かあったら、あたし達全員、路頭に迷うから」
珍しく、アントニアがグイグイとくる。いや、クネクネか?
どちらにしても彼がこれほど押すなら、さぞや優秀なのだろう。
俺は頷き、同行者をもう一人だけ加えることにした。
ちょっと長くなりました。




