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妖精王に、俺はなる!

 ◆


 ナナは大小合わせた五隻の艦隊を率いていた。

 彼女は先頭の艦に乗り、艦首に立って腰に手を当てている。

 ゼロスはその様を見て、一体どう思ったのだろう。


「ナナ!」


 すぐ、嬉しそうな声が聞こえた。きっとゼロスだ。

 しかし瞬く間にそれは、敵艦隊の兵が上げる悲鳴に取って代わった。


 当然のことだ。


 俺に囚われたと云われるナナが、艦隊を率いて現れた。

 そこまではいい――ゼロス側にとっては朗報だ。

 しかし彼女の艦隊が今、帝国旗を掲げた。

 助けようと思っていた存在が、敵だったのだ。そのことに恐怖を抱かないはずがない。


「「敵だ! ナナが敵に寝返ったぞっ!」」


 ゼロスの艦隊は反転し、こちらと距離をとろうとしている。


「ま、待て! テメェら! ナナが寝返る訳がねぇ!」


 必至で艦隊を纏めようと、指揮官が叫んでいる。これもゼロスだろう。

 だが混乱の生じた艦隊を制御することは、厳しい訓練を乗り越えた帝国海軍ならまだしも、海賊には不可能だった。

 さらに追い打ちを掛けるよう、ナナが叫ぶ。


「残念だったな、ゼロスッ! あたしはアンタの味方じゃないよっ!」


 ナナの声が大海原に響き、ゼロスの耳にも届いたのだろう。

 ゼロスと思しき男が艦首に立ち、大声を張り上げた。


「脅されてるんだろ、ナナッ! すぐに助けてやるから、待ってなっ!」


「違うって言ってんだろっ、このバカっ! こっちにゃ人質がいるんだっ! さっさと降伏しなっ!」


 そう言ってナナが艦首に連れて来たのは、一人の女性だった。

 褐色の肌はナナとよく似ていて、黒い髪を三つ編みにして束ね、背中に流している。

 緑色の瞳からは強い意志が感じらるが、けれど慈愛も含んでいた。

 遠目からでは年齢まで分からないが――二十代後半から三十代の前半だろうか。

 まあ、美人と言って良い。

 正直、俺は彼女を見て――あれ? と思った。若過ぎる気がしたのだ。


「くしゅん……ズズッ」


 ガブリエラがクシャミを一つして、鼻水を啜っている。

 

「ん……あれはルナ? リナ?」


「彼女達の姉、ナナだ。ゼロスの留守中にエル諸島へ行って、母親を人質にとるよう頼んでおいたんだが……」


「ああ、あれが……てか、よく分からないけど、卑怯な作戦を考えたな……くちゅん」


 ガブリエラが、またもクシャミをした。

 薄い肌着だけで冬の海を泳ぎ、艦上へ上がってもまだ着替えていない。寒くても当然だ。

 ガブリエラは両手で身体を抱え込み、摩っている。


「さむぅ……」


 というか……白い肌着が水を吸って、肌が透けていた。

 胸は幾重にも巻いた布で隠れているから先端こそ見えないが、これはとってもエロい姿だ。


「ガブリエラ、船室に行って着替えてこいよ」


「……だな、ほんとに寒い。アレク、お前の服も取って来てやるよ」


 俺とガブリエラがこんな話をしている間に、戦いは収束しようとしていた。

 予想通りの結果ではあるが、なんともあっけない幕切れだ。

 敵艦の艦首に立つ男が、大げさな身振りで叫んでいる。


「げぇっ! 母ちゃんっ!」


 ゼロス艦隊から、カエルを轢き潰したような声が聞こえた。

 艦首で鍋のような兜を被った男が、盛大に転んでいる。

 

「母ちゃんじゃないんだよ、このバカ息子っ! 何も考えずに男衆を連れてっ! 聞けば、そこのアレクシオスさまってのは、ウチらマーモスの民を守って下さるそうじゃないかっ! 一回、話を聞いてみようって気にはならなかったのかいっ!」


「で、でもよ、母ちゃん! ヴェンゼロスによ……ナナが捕えられたって聞いたから……!」


「ああ、五月蝿いバカ息子だねっ! あたしゃ、そのナナから話を聞いたんだよっ!」


 頭の鍋を片手で抑え、ゼロスが艦首に座り込んでいる。

 ヴェンゼロスは腕を組んで眉を顰め、俺とナナを交互に見ているようだった。

 紫色の髪を海風に靡かせて、ナナが叫ぶ。


「まあ、そういうこった。素直に兵を収めて、アレクシオスさまの配下になんなっ! ヴェンゼロス、あんたの悪巧みも、これまでだよっ!」


 ナナの声に多少の愉悦が混じっている。このことに気付いた者は、たぶん少ないだろう。

 ナナとゼロスの仲は最悪だが、それはゼロスのしつこさに起因していた。

 ゼロスがナナに対してしつこく出来るのも、立場が対等だったからだ。

 しかしこれでゼロスが俺に降伏すれば、マーモス諸島内における明確な序列が生まれる。

 つまりゼロスは母ちゃん同様、ナナにも頭が上がらなくなるのだ。

 だからナナは、内心で喜んでいる。

 その証拠にナナは俺を見て、ニヤリと笑っていた。


 しかしゼロスの残念な脳に、ナナの怜悧な計算は通じない。

 ゼロスは満面に笑みを浮かべ、叫んでいた。


「ア、アレクシオスの配下になったら、結婚してくれるか!?」


「いや、おかしいだろう、ゼロスッ!」

 

 お陰でナナは怒りを爆発させ、地団駄を踏んでいた。

 追い打ちを掛けるのは、ゼロスの母ちゃんだ。


「ああもう、ゼロス! 今、大事なのはエル諸島の安全だよっ! あんたの嫁取りは、また今度にしな! ナナだって本当は、アンタのことを嫌っちゃいないんだからねっ! 分かったらさっさとアレクシオスさまに降伏しなっ!」


「わ、分かったよ、母ちゃん――おい、てめぇら、降伏だ! 白旗を掲げろォ!」


 ゼロスは背を向け、部下達に両手を振っている。

 ナナは怪しくなった雲行きを感じて、母ちゃんの胸ぐらを掴んでいた。


「お、おい! あたしはあんなバカ、嫌だよっ!?」


「ナナ、あたしはアンタが娘になってくれたら、嬉しく思うよ」


「お、おう……そりゃあたしだって、アンタが母ちゃんだったらってのは思うけどよ……」


 おお……ゼロスのお母さん、凄いな。結局、ナナまで黙らせたよ。


 こうしてゼロスの艦隊は武装を解き、共にアイロスの港へ入ることとなった。

 ただヴェンゼロスだけは一人、またも小舟で去って行ったのだ。

 

 ◆◆


 アイオスに入港したのは、翌日の正午頃だった。

 今回、こちら側に戦死者はいない。

 しかし嵐に巻き込まれ、行方不明になった者は三名いる。尊い犠牲だ。

 国に戻ったら、彼等の家族には丁重な見舞いをする。

 部隊の指揮官として俺には、その程度の事しかしてやれない。


 ディアナは「不死者として蘇らせることなら出来るけど?」なんて言っていたが、アイツには「死者を冒涜」とか「死人に鞭打つ」とか、そういった概念は無いのだろうか。

 

 もちろんゼロス側は、こちらに数倍する人数を嵐の海で失っている。

 最初から話し合いで解決出来ていたのなら、彼等は皆、死なないで済んだのだろう。

 そう考えると、もっと上手くやれたのではないかと考えてしまう。


「ガイナス――あなたなら、一体どうやって戦う?」


 そう問いかけたところで、誰も答えてくれるはずが無い。

 俺は部屋に一人だし――何より問い掛けた相手は、囚われた敵の将軍だからだ。


 部屋の扉がノックされた。

 テオドラが入室し、艦隊がアイオスへ入港したことを告げる。


「提督、ガブリエラはさっさと本国へ返そう。あの胸は脅威だ!」


「は?」


 テオドラが訳の分からないことを言っている。

 見ると、彼女の目元に青痣があった。

 多分、ガブリエラと喧嘩をして負けたのだろう。

 その腹いせに、文句を言っているのだ。


「誰にとって、何の脅威があると言うのです? あるとすれば残った海賊団に対してでしょう」


「あ、あたしにとって脅威だ! あいつ、また胸がでかくなってるぞ!」


「それで、胸を触って殴られた、と」


「う……」


 ガブリエラの胸が大きくなるなんて、良い事じゃないか――と思う。

 ディアナの丁度良い大きさの胸と対比させた時、いかにも美しい百合となる。


 デュフ……。


 俺の中で、ガブリエラとディアナのカップリングは最強にして至高となった。

 次点でアイーシャとテオドラか。

 もっとも、こちらは純粋な女性なので、大切に育てたい逸材だ。


 デュフ……尊いなぁ。


 両方見つめるとなると、これは観葉植物ではなく、妖精さんになるしかないぞ……デュフフ。


「おい、アレク、白目になるなっ! 帰って来い!」


「あ……」


 テオドラが俺の両肩を掴んで、ガクガクと揺すっていた。


「それに真面目な話として、兄上がガブリエラとアレクの関係を疑ってやがる。あんなのでも皇太子だから、睨まれたら立場が危うくなるぞ」


 確かに、ユリアヌスはガブリエラにベタ惚れだ。

 ガブリエラが帝都を抜け出して、こんなところにまで俺を追って来た、なんて知れたらマズいだろう。

 主にマズいのは俺の命だが、俺が命を失えば、ガブリエラの未来も確定する。

 きっとガブリエラは、あらゆる手段を使われて、ヤツの妻にされてしまうだろう。

 つまり俺はガブリエラの為にも、疑われた挙げ句の暗殺なんか、されちゃいけないって訳だ。


 とはいえ……。


「……テオドラの言うことは、理解していますよ。ただ――だからと言って、せっかくここまで来たガブリエラに帰れなんて、私は言えません」


「親友だからか?」


「――そうですね。この前、誓ったばかりですからね。私とガブリエラ、そしてディアナはずっと一緒だと」


「それは……二人を妻にするということか? お前にとっては、二人が一番大切なのか?」


 テオドラが目に涙を溜めて、鼻水を啜っている。

 俺は懐から布を取り出し、テオドラに渡した。


「ちーん」


 いや、その……涙を拭ってもらおうと思ったのだけど。

 なんで鼻をかんじゃうかな……テオドラさん。


「ありがとう」


 鼻水が付いたまま布を返されても、正直困る。


「いや、妻になんてしませんよ。私達は親友ですからね」


 俺は湿った布をそっと机に置き、窓を外を見た。

 既に艦は桟橋に繋がれている。

 入港したら、ゼロス達にも今後のことを話しておきたいと思っていた。

 年内にイラペトラ諸島とニコラオス諸島の制圧も、完了させたいのだ。

 そう考えると、ここでテオドラに捕まっている時間は惜しい。


「本当か? 信じていいのか? なぁ、アレク……あたしが第一夫人でいいんだな?」


「ん?」


 おかしいぞ、雲行きが怪しくなってきた。

 テオドラの妻はアイーシャ一択で決まりだ。

 百合豚たる俺の出る幕など無い。 

 そもそも俺に妻? なんだそれは? 刺身の下に敷かれているやつか? 

 つまり俺は刺身か? するとテオドラは大根になりたいのか?

 だんだんと、意味が分からなくなってきた。

 俺は観葉植物であり、妖精だ。

 すなわち、植物王国の妖精王だ。

 うむ、妖精王に対して、テオドラは無礼である。


「……そんなことよりテオドラ。副官としての仕事をしてくれませんか?」


 俺は立ち上がり、剣を腰に差した。早く仕事を片付ける為、上陸したいのだ。

 多分、いつもより冷たい目でテオドラを見下ろしたのだろう。

 彼女は一歩後ずさり、表情を固くしていた。


「お、おう! 何をすればいい?」


「では、私は一足早く宿へ向かいます。そこへゼロスと彼の母君、それから我が軍の主立った幹部達を集めて下さい」


「ぎ……御意っ!」


 胸元に拳を当てる軍隊式の略式敬礼を見せると、テオドラはそそくさと部屋を後にした。

 

 ――――


 宿はヴェンゼロスを倒した夜、祝杯を上げた場所だ。

 あれ以来ここを本営として、俺は仕事をしている。

 だがヴェンゼロスの姿は、あれ以来なかった。まあ――当然だが。

 

 民家を接収しようとすれば住民を追い出さなければいけないし、空き家を使えば手を入れなければならない。

 その点、宿なら金次第で全てが解決できた。

 とはいえ全ての兵を収容することは出来ないから、適当な広場に宿営地も作っている。


 交易が再開されれば、ここは海上交通における要衝となるだろう。

 そうなったとき、宿の不足は致命的となる。

 だから俺が選んだ宿営地は、遠からず大きな宿に作り替えるつもりだ。

 もちろん、その計画は世話になっている宿の主人にも伝えてある。

 そもそも俺は宿泊業など専門外だ。どのような設備が必要かも分からない以上、彼に協力を仰ぐのは当然だった。


「ご無事の帰還、お喜び申し上げます」


 アントニアとティグリスを伴って宿に戻ると、妙に増えた従業員達が恭しく迎えてくれた。


「よく言うぜ。俺達が負けたら負けたで、ゼロスに勝利の祝いを言うつもりだったんだろ?」


「そりゃあ当然ですよ、ティグリスさま。商売ですからね」


「この野郎、ぬけぬけと――ハハッ!」


 宿の主人とティグリスが軽口を交わし、肩を叩き合っている。

 庶民派のティグリスはいつの間にか宿の主人と仲良くなっていた。

 俺はその姿を横目に食堂の奥を陣取り、他の幹部達を待つことにする。

 

 ここにガブリエラを呼ばないのは、彼女が今回の作戦に参加していない――という帝国軍の大前提がある為だ。これに対して激しく文句を言う彼女を宥める為に、ディアナも今回は参加を見送っている。

 

「モテる男は辛いな、アレク」


 さっそく銀杯を掲げて、テイグリスが葡萄酒を飲んでいた。

 

「別にモテてる訳じゃないよ、だいたいアイツ等は――って、俺のことはいいんだよ。それより聞いたぞ、ティグリス。お前こそ、二番艦の女性兵の大半と関係を持ったんだって?」


「お、耳が早いな」


「ミネルヴァに泣きついて来た兵がいる。ほどほどにしておけよ」


「はは……何て言って来てるんだ?」


「何番目でもいいから、妻にして欲しいってさ。観念したらどうだ?」


 チラリとテオドラの顔が脳裏を過ったが、俺はティグリスとは違う。無罪だし観葉植物だ。

 ティグリスは溜め息を吐き、苦笑を浮かべた。と、同時に手酌で新たな葡萄酒を杯に注いでいる。


「なあ、アレク。男にはな、やらなきゃならん事がある。そんとき家族ってヤツは、邪魔にしかならん」


「そうでもないだろ。レオンだって家族を大切にしながら、上手くやってる」


「ま、俺にはヤツほど、上手くやる自信が無い……」

 

 下唇を突き出し、ティグリスはそっぽを向いた。そして話題を変える。


「そんなことより、アントニーの方が酷いんだぜ?」


「え、あたし?」


 アントニアはちょうど給仕の女性から蜂蜜酒を受け取り、指の美しさを褒められていたところだ。

 確かにアントニアの指は、細くて白くて美しい。これで剣も槍も、帝国で十本の指に入る程の腕前だというから、恐ろしい話だ。

 

「ああ。アントニー、お前、俺の部下とヤっただろう?」


 俺はこの話を聞いて、少しホッとした。

 アントニアはオネェなので、興味の対象は男だと思っていた。

 しかしティグリスが文句を言っているのだから、女性と関係を持ったはずだ。


 考えてみればアントニアは、超が付く程のイケメンである。

 女性なら、彼を放っておくはずがない。

 俺は「ヨカッタ、ヨカッタ」と頷き、ミルクの入った杯を煽った。


「何言ってるのよ、ティグリス。あたし達に穢れなんて、な・い・の。あ――ちょうど彼が来たみたいだから、紹介するわね」


 アントニアは入り口の方を見つめ、一人の小柄な兵士を手招きしている。

 兵士は俺達の席の手前で跪き、頭を垂れた。


「アントニーさま……今日はここの護衛を仰せつかり、ご挨拶に参りました。提督も、お見知りおきを」


 とても美しい、茶髪の少女だ。

 その彼女が今、じっと俺の顔を見ていた。


「提督は、おいくつですか?」


「え、俺? 十六だけど」


「俺もです。でも提督はもう提督で――俺は兵士。だから俺、提督のこと尊敬してます」


「あ、ありがとう」


 少女は帝国軍の軍装をしているが、小柄なせいか全体的にふんわりとしている。

 クリッとした大きな目は少し潤んでいて、赤く小さな唇との対比でとても可愛らしい。

 何より俺を無条件で褒めてくれて、良い子だと思った。


 ていうか、こんな可愛い子とヤッたと?

 ……うーん、想像すると、なんだか……ブホッ!

 いかん、鼻血が出てしまった。


「へ……へえ、この子がアントニアの彼女かぁ、いい子じゃないか」


「彼女というか――弟のようなものよ。アレクにもちゃんと紹介するわ――彼の名は、ランス・フューリー。弓の名手よ」


「へえ、弓を扱うんだ」


「ええ、そうよ。今でも帝国で五本の指に入るんじゃないかしら? 将来どうなっちゃうのか、逆に心配だわ」


「そんな、アントニーさま。俺にそんな力なんて、ありませんよ」


 アントニアが饒舌に、ランスのことを褒めている。

 ランスは頬を赤らめ、謙遜していた。


「何が弟だよ、アントニー。どうせ男同士で楽しんでんだろ? わはは!」


 ティグリスが大口を開けて笑い、手で払うような仕草をしている。

 なに、男同士だと?

 ♂×♂だと?

 そういえば、アントニアも「彼」と言っていたような……。


「失礼ね、ランスは優秀よ。平民なのに将来は大軍を指揮したいって言うから、あたしが面倒を見てあげようかって……ホント、それだけなの。そしたら弓がもの凄く上手だったっていう、ね!」


「アントニアさま、恥ずかしいです。帝国の剣と呼ばれる方とアレクシオスさまの前で、そんな……」


 むむむ……。

 俺は二人の顔を見つめ、あることを思った。

 二人とも、美し過ぎる。

 これはもう、いっそ女同士に見える程だ。

 ということはこれ……いっそ百合では……?

 違う、違ーう! 俺のバカ! 騙されるなっ!


 俺は自分の頭を両手で殴り愚かな思考を振り払うと、ランス君に微笑みかけた。

 なんであれ、我が兵士に違いはない。労おうと思ったのだ。


「ご苦労さま。外は冷えるけど、警護、宜しく頼むよ」


「あ、ありがとうございます、提督! 俺、必ず提督のお役に立ってみせますっ!」


 なんだコレ……可愛い……。

 ランス君が深々と頭を下げると、長い茶髪がハラリと落ちた。

 すぐに立ち上がったランス君は、零れた髪を耳に掛けて踵を返す。

 その姿はとてもとても美しく、俺は思わず見蕩れてしまった。


「なあ、アレク。お前までそっちの世界、行かないでくれよな……」


「あ、ああ。大丈夫、俺、妖精王だから……」


 ティグリスの声が、どこか遠くから聞こえるようだった。

 ていうかランス君、本当に男の子なんだろうか?

弓の名手なのにランス君。

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