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地球・巨大化の勇者4

 河上萌葱は勇者ではない。

 勇気はあるし、強敵に挑む力もある。

 それでも、彼女は勇者ではないのだ。


 白銀の鎧は貰いモノ。何も知らず異世界に召喚された際、召喚者から聖剣セレスティアルフェザーと共に頂いた鎧である。

 残念ながらナーガラスタ神の信者であった召喚者とは袂を分かつこととなり、今では赤い悪魔と呼ばれていたジャスティスセイバー側に協力し、地球へと戻り世界平和に貢献している。


 それでも彼女は勇者ではない。

 女神の勇者が侵略して来たからといって勇気を持って立ち向かう存在ではないのだ。

 なぜならば彼女は救世主。


 皆が絶望に打ちひしがれ、勇気ある者が途絶えた時、最後の最後に現れる全てを救済する者。

 彼女に求められるのはただ一つ。それは相手に立ち向かう勇気ではなく、相手を打倒する力でもない。

 ただ彼女が現れる、それだけで絶望から皆が救われる。

 そう、彼女に求められるのは世界を救うことだけだ。

 力は不要、勇気も不要。必要なのはどうにもならない絶望から世界を救うナニカだけである。


 不要ではあるが、世界を救えるのならばそれは勇気でもよく力でもいい。ただ世界を救うことが彼女に求められるモノであり、その手段は救世主次第。

 だから彼女が選んだのは自身の力でもなく、手にした武器でもなく、勇気でもなかった。

 ジェノスが死にそうだったから行ったのは全てを守る盾。


 希望の光の盾。そして、相手を倒すのに、自分の実力では敵わないことも理解していた。

 だから次に行ったのは小さな切り傷を付けることで絶死の痛みを相手に与えること。

 最後に神殺しの矢を射ることで自分たち人間が彼の脅威になることを教えるためだ。


 これは勇気ではない。これは力に頼った撃破ではない。ただ世界を救うため、この相手を処分するため、自分ではない何かを利用するために行う作業である。

 矢を引き抜き怒り心頭で起き上がる巨大化の勇者が、狙い通り萌葱を見付けた。


「人形みたいな存在の癖にっ」


 迫る巨大化の勇者。

 彼にとっては小さな羽虫のごとき人間一人にしてやられたのが許せなかったらしい。

 思い切り踏みつぶそうと彼女達二人・・・・・に足を向ける。


「私達が人間よ。この世界に正義の味方以外の巨人は要らないわ!」


 そう、救世主に、相手に打ち勝つ力など必要ない。

 ただ、彼女と共に世界を救う仲間が立ち上がればいいだけだ。

 彼女が居るだけで立ち上がる力が湧いてくる。それだけの存在であればいい。

 ならば、敵を倒すのは誰か?

 それは救世主と共に立ち上がった勇気ある者に任せればいい。


「本当に、良いんですね?」


「はい。萌葱さんはミコトの場所まで下がってください」


 コクリ、頷くのは萌葱と共に来ていた女。

 頭上に迫り来る足裏に、萌葱はさっさと飛び退き逃れる。

 だが、その女だけは迫る足裏を見上げるしか出来ない。

 自力で逃れる術など、彼女はない。

 そう、三神凛、旧姓新禿凛には無いのだ。

 だから、彼女は心の底から安堵する。


「ああ、これで死ねるなら、私は幸せ者・・・ですね」


 不幸な英雄を愛する不幸な妻が心の底から自身の幸運を思い安堵する。

 ならば、それは不幸ではありえない。

 不幸な女が死ぬことこそを幸福と信じるならば、不幸は彼女を死なさない。


「あれっ!?」


 片足上げて不安定な体勢だったせいだろうか?

 突如巨大化の勇者の身体が傾ぐ。

 その場に勝手に倒れた彼に、萌葱が走る。


絶死のアブソリュートシュテルペ煉獄・フェーゲフォイアッ!!」


「ぎえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」


 巨大化の勇者が悲鳴を上げた。

 まさに絶死の一撃を連続で食らっているのだ。涙目で悶える巨大化の勇者、その暴れる先に凛が居る。

 いつ巻き添えで死んでもおかしくない場所で、凛は幸せそうに迫る腕や足を見上げる。


「暴れる巨人の巻き添えで死ぬ、かぁ。それはそれで幸せだろうなぁ」


 心の底からそれを幸福だと思う。

 そうすることで彼女の死は不幸から幸福となり、不幸が死を遠ざける。

 ならば彼女に死をもたらそうとする幸運は、不幸が責任を持って彼女から遠ざけるしかない。

 結果、巨大化の勇者その者が凛を幸福にする存在と認識され、不幸が彼へと牙を向く。


「なんだよっ、なんなんだよこれぇっ!?」


 起き上がった彼の振動で地震が起きる。

 地割れが起き巨大化の勇者の足が運悪くハマった。

 慌ててバランスを取ろうとして再び倒れる巨大化の勇者。

 そこへ、空から迫る巨大隕石。


「あ。マスターあれ……」


「あー……」


 純平もジェノスも萌葱も命も、凛だってそれは流石に同情を禁じ得なかった。

 起き上がろうとした巨大化の勇者の顔面に、強烈な一撃が追突した。

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