表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/223

地球・巨大化の勇者3

「かはっ!?」


 強烈な衝撃にコクピットが揺れる。

 揺さぶられた衝撃で純平の身体がバウンドした。

 シートベルトとパイロットスーツによる衝撃吸収を加味しても車で衝突したくらいの衝撃がある。


「くぅ……一瞬意識飛んだ」


「大丈夫ですかマスター!?」


「こっちはなんとか、ジェノスは?」


「オールレッドです。動けるだけマシな感じですね、既に原型も留めてません。首取れちゃいましたよマスター! ああ、私の麗しの顔がぁ。これ、人間だったら即死状況じゃありません?」


 それを楽しげに語るのはどうかと思うよ。

 口には出さず、純平は溜息を吐いて敵を見る。

 一見すればただの子供。思考回路が拙い中学生くらいだろうか?


 その身体はあまりに堅く、ダメージが通らず、その拳はあまりに硬く、ジェノスの身体はひしゃげてしまう。

 一撃喰らってもうスクラップ寸前なのだ、あんなバケモノをどう倒せというのだろうか?

 女神の勇者は皆これ程の強さを持っているのか?


 疑問は尽きないが、この闘いはアトミックマンヘルトとジェノス・カスタムの完全敗北だ。

 魔法少女たちもこのままでは殺されかねない。

 ならば、覚悟を決めるしかないだろう。


「魔法少女の方々」


「は、はい? なんですか!」


「撤退してください。殿は僕がします」


 一瞬、乱菊の笑顔が脳裏を掠めた。

 自分などを好きだと言ってくれた、女だ。

 きっと、自分が死ねば泣くのだろうな。


 そう思いながらも、純平はやるしかない闘いから逃げる気にはならなかった。

 ジェノスではないが、最後まで二人一緒に闘い続ける。例え力及ばず破壊されるとしても。

 彼もジェノスも思いは同じだ。

 せめて、仲間が逃げる暇くらいは……


「で、ですが、その機体ではもう……」


「貴方達が逃げないと、僕も逃げられません。行ってください!」


 背中越しに、魔法少女たちが信之を連れて去って行くのを確認する。


「さぁジェノス。多分僕らの最後の闘いだ」


「あんな小僧に破壊されるのは癪ですが、仕方ありませんねぇ。ご一緒しますマスター」


 互いに相手の顔を見る。

 きっと強張っているだろう。冷や汗や脂汗だってでているかもしれない。

 それでも、最後は共に笑って行こう。


「高田純平……行きますッ」


 動きの鈍い腕にレーザーウィップを持ち、白兵戦。

 すでに無数の武器は破壊され、機体は自壊寸前。行えるのは文字通り、自爆特攻しかないらしい。


「ごめん……乱菊」


 さよなら。

 純平が吶喊攻撃を行おうとした瞬間だった。

 相手もジェノス向けて渾身の拳を握り突撃する。

 ああ、終わる……


「リヒト・ブリック・シルト!」


 それはきっと、希望を示す光の盾だった。

 死を確信したジェノスと純平を守るように出現し、巨大化の勇者の一撃をしっかと受け止める。


「あれ?」


 拳が受け止められ、驚く巨大化の勇者。

 その足元に、小さな救世主は迫っていた。


ずっしりとした霞シュヴェーァ・ドゥントス


 白銀に煌めく鎧を身に纏い、光と闇の聖剣を携えて。

 救世主、河上誠と結婚したことで河上姓を名乗る河上萌葱である。

 萌葱が走る。強敵を打ち消す光として、絶望を撃ち払う救世主として。


暴力的な闇ゲ・ヴァルトザーム・ドゥンケル高慢な衛兵デュンケルハフト・ヴァッハ・ポステン致死之痛撃アゴニー・アグレシオン青ざめし秘密の花園ブラス・ハイムリヒ・ブルーメンベート


 巨人相手に焦ることなく、慄くことなく、恐れることなく、ただ、仲間を救うため。


絶死のアブソリュートシュテルペ煉獄・フェーゲフォイアッ!!」


 巨大化の勇者へと、双剣による連続攻撃。

 巨人であるジェノスやヘルトが敵わなかったのだ。

 なのに、ただの人間である萌葱がダメージを与えられる筈は……


「ぎゃあああああああああああああああっ!?」


 突如、巨大化の勇者が悲鳴を上げた。

 切りつけられた踵を庇って倒れ込み、そのままのたうち回る。

 ちょっとした切り傷が絶死の痛みへと変わる致死之痛撃アゴニー・アグレシオンが付加された連撃を受け、さしもの巨大化の勇者も痛みを感じずにはいられなかったらしい。

 慌てて下がる萌葱。コバルトアイゼンという弓を引き、捻じれた矢を巨大化の勇者へと打ち放っていく。


 巨大化の勇者の尻に一つ、また一つと突き刺さる捻じれた矢。それは神殺しの武具と呼ばれる神をも殺す威力を持つ弓矢。

 自動生成される捻じれた矢を放つだけの単純作業、まして小人としか呼べない体格差をモノともしない萌葱の戦闘に、ジェノスはただただ呆然とそれを見るしか出来なかった。

 自分たちの苦労はなんだったのか、決死の覚悟はなんだったのか……


「あ、あはは……」


「悪運だけは強いですねぇマスター」


「全く。まさか萌葱さんが彼の天敵だったとはなぁ」


 ついに勝機が生まれた。ならば自分はそのフォローを全力で行うだけだ。


「ジェノス、皆で大団円だ。もう少し無茶するぞ!」


「後でマロムニアに向かって回復魔法かけてもらいましょう。それで私は完全復活ですマスター。メインの記憶領域だけ無事なら遠慮はいりませんからね!」


 気合いを入れ、暴れる巨大化の勇者を抑えにかかるジェノス・カスタムであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ