地球・巨大化の勇者3
「かはっ!?」
強烈な衝撃にコクピットが揺れる。
揺さぶられた衝撃で純平の身体がバウンドした。
シートベルトとパイロットスーツによる衝撃吸収を加味しても車で衝突したくらいの衝撃がある。
「くぅ……一瞬意識飛んだ」
「大丈夫ですかマスター!?」
「こっちはなんとか、ジェノスは?」
「オールレッドです。動けるだけマシな感じですね、既に原型も留めてません。首取れちゃいましたよマスター! ああ、私の麗しの顔がぁ。これ、人間だったら即死状況じゃありません?」
それを楽しげに語るのはどうかと思うよ。
口には出さず、純平は溜息を吐いて敵を見る。
一見すればただの子供。思考回路が拙い中学生くらいだろうか?
その身体はあまりに堅く、ダメージが通らず、その拳はあまりに硬く、ジェノスの身体はひしゃげてしまう。
一撃喰らってもうスクラップ寸前なのだ、あんなバケモノをどう倒せというのだろうか?
女神の勇者は皆これ程の強さを持っているのか?
疑問は尽きないが、この闘いはアトミックマンヘルトとジェノス・カスタムの完全敗北だ。
魔法少女たちもこのままでは殺されかねない。
ならば、覚悟を決めるしかないだろう。
「魔法少女の方々」
「は、はい? なんですか!」
「撤退してください。殿は僕がします」
一瞬、乱菊の笑顔が脳裏を掠めた。
自分などを好きだと言ってくれた、女だ。
きっと、自分が死ねば泣くのだろうな。
そう思いながらも、純平はやるしかない闘いから逃げる気にはならなかった。
ジェノスではないが、最後まで二人一緒に闘い続ける。例え力及ばず破壊されるとしても。
彼もジェノスも思いは同じだ。
せめて、仲間が逃げる暇くらいは……
「で、ですが、その機体ではもう……」
「貴方達が逃げないと、僕も逃げられません。行ってください!」
背中越しに、魔法少女たちが信之を連れて去って行くのを確認する。
「さぁジェノス。多分僕らの最後の闘いだ」
「あんな小僧に破壊されるのは癪ですが、仕方ありませんねぇ。ご一緒しますマスター」
互いに相手の顔を見る。
きっと強張っているだろう。冷や汗や脂汗だってでているかもしれない。
それでも、最後は共に笑って行こう。
「高田純平……行きますッ」
動きの鈍い腕にレーザーウィップを持ち、白兵戦。
すでに無数の武器は破壊され、機体は自壊寸前。行えるのは文字通り、自爆特攻しかないらしい。
「ごめん……乱菊」
さよなら。
純平が吶喊攻撃を行おうとした瞬間だった。
相手もジェノス向けて渾身の拳を握り突撃する。
ああ、終わる……
「リヒト・ブリック・シルト!」
それはきっと、希望を示す光の盾だった。
死を確信したジェノスと純平を守るように出現し、巨大化の勇者の一撃をしっかと受け止める。
「あれ?」
拳が受け止められ、驚く巨大化の勇者。
その足元に、小さな救世主は迫っていた。
「ずっしりとした霞」
白銀に煌めく鎧を身に纏い、光と闇の聖剣を携えて。
救世主、河上誠と結婚したことで河上姓を名乗る河上萌葱である。
萌葱が走る。強敵を打ち消す光として、絶望を撃ち払う救世主として。
「暴力的な闇、高慢な衛兵、致死之痛撃、青ざめし秘密の花園」
巨人相手に焦ることなく、慄くことなく、恐れることなく、ただ、仲間を救うため。
「絶死の煉獄ッ!!」
巨大化の勇者へと、双剣による連続攻撃。
巨人であるジェノスやヘルトが敵わなかったのだ。
なのに、ただの人間である萌葱がダメージを与えられる筈は……
「ぎゃあああああああああああああああっ!?」
突如、巨大化の勇者が悲鳴を上げた。
切りつけられた踵を庇って倒れ込み、そのままのたうち回る。
ちょっとした切り傷が絶死の痛みへと変わる致死之痛撃が付加された連撃を受け、さしもの巨大化の勇者も痛みを感じずにはいられなかったらしい。
慌てて下がる萌葱。コバルトアイゼンという弓を引き、捻じれた矢を巨大化の勇者へと打ち放っていく。
巨大化の勇者の尻に一つ、また一つと突き刺さる捻じれた矢。それは神殺しの武具と呼ばれる神をも殺す威力を持つ弓矢。
自動生成される捻じれた矢を放つだけの単純作業、まして小人としか呼べない体格差をモノともしない萌葱の戦闘に、ジェノスはただただ呆然とそれを見るしか出来なかった。
自分たちの苦労はなんだったのか、決死の覚悟はなんだったのか……
「あ、あはは……」
「悪運だけは強いですねぇマスター」
「全く。まさか萌葱さんが彼の天敵だったとはなぁ」
ついに勝機が生まれた。ならば自分はそのフォローを全力で行うだけだ。
「ジェノス、皆で大団円だ。もう少し無茶するぞ!」
「後でマロムニアに向かって回復魔法かけてもらいましょう。それで私は完全復活ですマスター。メインの記憶領域だけ無事なら遠慮はいりませんからね!」
気合いを入れ、暴れる巨大化の勇者を抑えにかかるジェノス・カスタムであった。




