地球・巨大化の勇者2
魔法少女渾身の一撃が巨大化の勇者を背後から襲う。
紫電を纏わせた強烈な拳が叩き込まれ、衝撃波に後頭部の髪が波打った。
だが、巨大化の勇者はただ仰け反っただけでダメージを受けた様子が無い。
身体の硬さが強過ぎダメージが通らないらしい。
即座に離れたエレクトロハルリーに、巨大化の勇者は頭を撫でながらむぅっとした顔で振り向く。
「ちょっとビリっと来たじゃないかーっ」
ギロリと睨んだ巨大化の勇者は、箒に跨った魔法少女を見て、怒りから一転、目を輝かす。
「凄い! 魔法少女だ! 人形みたい!」
エレクトロハルリー向けて腕を伸ばす巨大化の勇者。
巨大な腕を慌ててかいくぐろうとするが、思った以上に動きが速い。
一回、二回と迫る腕を寸前で回避するも、風圧の煽りを喰らい動きが阻害される。
なんとか体勢を整えた時には次の腕が迫り、再び体勢を崩される。
巨大化の勇者に翻弄されるエレクトロハルリーに、はっと純平は我に返った。
黙って見ている場合じゃない。少女一人に任せて呆けている暇は無かった。
慌てて自分の機体を点検する。
「ジェノス、機体の不備は!」
「あ、っと、大丈夫ですマスター。機体自体のダメージはほとんどありません。続闘可能です!」
同じく呆けていたジェノスが慌てて応える。
ならば休んでいる暇はない、と機体を動かしかけた瞬間だった。
低空飛行でヘルトが横を通過する。
物凄い速度で巨大化の勇者へと迫るヘルトに、巨大化の勇者は気付いてない。
「よーし捕まえ……」
「リュアッ!!」
エレクトロハルリーをむんずと掴むその刹那、イルミネート力を身に纏ったヘルトの頭突きが直撃した。
吹っ飛ぶ巨大化の勇者がビルをなぎ倒す。
勢い任せて地面を前転して立ち上がったヘルトは、へろへろと空を漂うエレクトロハルリーをぎりぎりで保護する。
「リュア!」
「あ、は、はひっ。大丈夫です」
真っ赤な顔で慌ててお礼を告げたエレクトロハルリーがスプラッシュみゆみゆの側まで下がると高度を上げて退避を行った。
「魔法少女の援軍はありがたいですが、流石に相手にダメージが与えられないのは変わらないようですねー」
「ジェノス、それ毒吐いてる」
体勢を整えたジェノス・カスタムもレーザーサーベルとハイチャージバスターライフルを構える。
起き上がった巨大化の勇者にまずは一射。
起き上がった瞬間側面からのバスターライフルでさらに吹き飛ぶ巨大化の勇者。
決定打を欠いた現状ではこうやって相手が動かないように体勢を崩すのが関の山だ。
「魔法少女の方」
「はい!?」
「ラナリアに連絡を頼む。アトミックマンやジェノスでもダメージを与えられない。さらに高威力な存在、できれば龍華さんか完全さん、それくらいの戦力の投入を求む!」
「わ、分かりました!」
慌ててスプラッシュみゆみゆが連絡を始める。
「こっのぉぉぉっ!」
起き上がった巨大化の勇者が走りだす。
ビルをなぎ倒し、一軒家を踏み潰し、バスターライフルもイルミネートビームも雷撃魔法も水魔法も通用しない。
全てを駆け抜け、イルミネート力を足へと溜め込んだヘルトへと向かう。
イルミネートキック。
イルミネート力を蹴りにより飛ばし相手を切り裂く、ヘルトの必殺技である。
蹴りから放たれた斬撃が巨大化の勇者に直撃する。
「ぐぅっ!?」
巨大化の勇者の額に切り傷が走った。
初めて食らったダメージに純平もヘルトも思わず好機を見出すが、その一瞬で巨大化の勇者がヘルトへと肉薄する。
「リュア!?」
「だあぁっ!」
拳を握り、お世辞にも攻撃とも呼べない一撃。
だが、それはイルミネートバリアーを打ち破り、ヘルトの顔面を殴り飛ばした。
物凄い速度でヘルトが吹き飛ぶ。
咄嗟にフォローに向かったジェノスを巻き込み、遠く離れたビルを根こそぎ破壊する。
「クソッ、こっちの攻撃は殆ど効かないのに、向こうの一撃は大ダメージか」
「ま、マスター! ヘルトさんが!」
「!?」
なんとか庇ったヘルトは、ジェノスカスタムの前に居た筈だ。
しかし、彼らの視界はすでに離れた場所に居る巨大化の勇者が見えている。
まさか、嫌な予感を覚え、純平は下に視線を向ける。
アイレンズを通して見つめた外の景色に、一人の青年が倒れていた。
伊藤信之。アトミックマンヘルト本人だ。
意識を失った彼は、ダメージが大き過ぎたようで変身が自動解除されてしまったらしい。
機械の腕で彼を保護し、純平は震えた声で呟く。
「嘘、だろ……」
折角相手にダメージを与える方法を見つけたというのに、その人物が早々に敗北してしまった。
「ヘルト様っ!」
エレクトロハルリーが慌てたようにやって来てジェノスの腕から信之を掻っ攫う。
彼女に任せておけば彼は安全だろうが、これで巨大化の勇者を止められるのがジェノス・カスタムだけになってしまった。
他の機械乗りはゾンビ相手や民間人の保護で忙しいし、ラナリアの冒険者たちも援軍に来る気配はない。
ここはジェノスだけで切り抜けなければならないらしい。
「はは、ジェノス悪いな。毎度絶望的な闘いばかり押しつける」
「お互い様ですマイマスター。ジェノちゃんは地獄の底だろうと何処だろうと、ずっとマスターと一緒に行く所存です」
「ぞっとしないね。……やるぞ!!」
決死の覚悟を決め、純平は操作用レバーを強く握りしめた。




