地球・巨大化の勇者1
「痛いーっ」
後頭部に衝撃を喰らった一撃に巨大化の勇者が頭を押さえる。
子供のようなそのしぐさに、一撃を加えた存在は少し慌てた様子だった。
攻撃して良かったんだよな? といった様子で押されていたジェノスカスタムを見る。
黄金に輝く身体に黒い炎が巻きつくような模様の入った身体。
地球の危機に颯爽現れる巨大宇宙人、アトミックマン・ヘルト。
それが彼の名であった。
「あれは……アトミックマンヘルト? 伊藤君、助かった」
「リュア!」
伊藤信之ことアトミックマンヘルトはジェノスカスタムから聞こえた元クラスメイトの声にようやく安堵する。
どうやら目の前でうずくまっている巨大少年が敵ということでいいらしい。
起き上がる巨大化の勇者に気合いを入れて構える。
「よくもやったなぁっ」
「リュア!」
「ヘルトーっ、気を付けて、そいつジェノちゃんの剣折りやがったの!」
「リュア!?」
突然ジェノスカスタムから女の子の声が聞こえた。
一瞬純平がコクピットに女の子連れ込んでデートでもしているのかと殺意を覚えたヘルトだが、直ぐに気付いた。
「リュア!」
今のはジェノス自身か。そう尋ねたかったのだが、残念ながらヘルト状態の彼は喋れない。口から漏れるのはリュア。だけである。
聞くことすらできないのかと今更ながら嘆くヘルト。
そんな彼の元へ、巨大化の勇者がドスンドスンと駆け寄ってくる。
「くらえー!」
「リュア!」
イルミネート力を溜め込みクロスした両手から光線として打ち出す。
普通ならば仰け反るダメージを与える筈だが、巨大化の勇者はうわっと視界を塞がれたことに驚いたモノの、目を瞑って突撃を再開する。
「ダメだっ、ダメージになってない!」
純平の叫びでこれではダメだと確信したヘルトが空へと逃れる。
宙空へと舞ったヘルトが巨大化の勇者をやり過ごし、その後頭部向けて渾身の一撃。
避ける事を知らない巨大化の勇者は無防備に蹴りを喰らってビルに突っ込んだ。
「リュア」
「ダメージになってないよヘルト、相手の耐久力が高過ぎるんだ!」
ならどうしろと!?
巨大機械兵と巨人がタッグを組んでもダメージを与えられないというのなら、一体誰がどうやってこれを倒すというのだろうか?
コレが龍華というクラスメイトであれば、体内から打ち崩すとか、完全というクラスメイトならば巨人殺しの秘孔を突くなどしてくれそうではあるのだが、残念ながら彼女らがこちらに来る気配はない。
「もー、怒ったっ! 食らえっ!!」
起き上がった巨大化の勇者が瓦礫を掴み投げつけて来る。
一撃一撃は大したものではないが、こちらの耐久値はそれ程ではない、あの瓦礫一つ当っただけでも致命傷になりかねないのだ。
慌てて避けるヘルトとジェノスカスタム。
避け切れなかった瓦礫はシールドやイルミネートバリアーを使いなんとか弾く。
「このままじゃ埒があかない。ジェノス、暮鵙で瓦礫を除去!」
「ええ!? 大盤振る舞いじゃないですか!?」
「つべこべ言ってる場合か!」
拡散型ターゲッティングミサイル『暮鵙』の発動。
ジェノスの背後から無数のミサイルが発動し、飛び交う瓦礫を破砕していく。
ヘルトもイルミネート・スプレッドで瓦礫を破砕し、怒り心頭の巨大化の勇者にも連撃を加える。
しかし、やはりダメージになっていないらしい。
「もー、こんなの痛いだけなんだからやめろよーっ!」
地団駄踏みながら叫ぶ巨大化の勇者。
近くのビルを蹴り壊し、倒壊するビルを掴み上げると、ヘルト向けて投げ飛ばす。
「リュア!?」
「厄介な!」
バスターランチャーを起動させたジェノスによりビルが破壊されるが、全てを破壊する事が出来ず、先端部がヘルトに襲いかかる。
屋上をバリアーで受け落とし、お返しのイルミネートビーム。
次のビルを投げようとしていた巨大化の勇者に直撃。
手に持っていたビルが爆散した。
「あ、やったなぁ!」
「これでも駄目か。打つ手がないな……」
「100%補充のアレでなんとかなりませんマスター?」
「多分、無理だね。周囲の被害を大きくなるだけだ。何かしらダメージを与えられるモノがあればいいんだけど……」
ビルをさらになぎ倒し、投擲武具にした巨大化の勇者がジェノス・カスタムへとビルを投げる。
「八龍水牙陣!」
突如水の柱が噴き上がった。
飛んで行くビルを絡め取るように出現した水の柱はビルを粉砕して消え去った。
「リュア?」
「援軍……ですかね?」
地上から、彼らはふわりと飛び上がった。
ラナリア所属魔法少女部隊の登場である。
「スプラッシュみゆみゆ、エレクトロハルリー、援軍に来ましたっ!」
「つーわけでぇ、エレクトリカァボンバーァァァッ」
巨大化の勇者の背後から飛び上がった金髪の魔法少女が、一撃必殺、巨大化の勇者の後頭部に電撃の拳を叩き込んだ。




