マイノアルテ・フィラレンツィア家【上品な者】1
「では、何から話そうか?」
狙撃の勇者襲撃のため、グダグダになったヌェルティス達は、チャルチ家の客間へと移動していた。
チャルチ家のメルフィーナはいい顔をしていなかったが、この数の魔女やントロを相手にするのは愚策を気付いていたので、仕方なく了承した感じだった。
白いテーブルを囲んだ椅子に代表の魔女が腰かけ、ントロはその背後に佇むことになる。
ヌェルティスの前に居るシャロンから時計回りに、メルフィーナ、エルフリーデ、シャルロッテ、ゼムロット、ラナエが座っている。
メルフィーナの背後にはフラグニアが佇み、いつでもガトリングランチャーを発射できるように待機中。
エルフリーデの背後には伯爵。フラグニアを警戒してピリピリしているが、なぜか衣服に手を掛けている。いつでも全裸になる気満々らしい。別な意味でこいつは要警戒である。
シャルロッテの背後には誰もいない。本来居る筈の茉莉はただいま隣のテーブルで三時のおやつタイムである。
敵地かもしれないのに全く気にした様子の無い茉莉に、上品さを求めていいのか激しく不安である。
ヌェルティスとしても同じ上品な者として召喚されたもう一人のントロの姿に、自分、本当に上品な者として呼び出されたのか? と思わずシャロンに耳打ちしたくなる。
ゼムロットの背後に居たビルグリムも、今は茉莉の話し相手をしており、欠伸を噛み殺しながら椅子に腰かけている。
自分一番弱いし? 護衛付いても殺されンの目に見えてっからこっちでゆったりしてますわ。っということらしい。
そんな居ずらそうなゼムロットの隣に居るのは、ラナエ。ラナエの背後に居る龍華は鎌をしっかと構え、フラグニアを睨みつけている。
ントロ次第だが、割りと自由だな、そう思わずにはいられないヌェルティスだった。
「さて、まずは敵対する私達魔女は、女神様からの直通念話とやらで休戦を余儀なくされました」
代表するように、シャルロッテが告げる。
落ち付いた品のある物腰のため、場の空気がしゃんと引き締まる。
こういう場面では居てくれた方がありがたいメンバーだろう。
ヌェルティスは噛みつきそうになっているシャロンをどうどうと肩を押さえながらシャルロッテの話を聞く。
流石に背丈が届かなかったので使い魔の蝙蝠たちを召喚し、その上に乗ってシャロンの肩に手を置いている状態だ。
「つまり、ここに居る魔女たちには今、闘う理由は無いわけで、さっさと邪神の勇者とやらでしたか? 彼らを始末してントロ戦争を再開させましょう」
「あら。でもフィラレンツィアの魔女さん、別に今相手の魔女を排除しても問題はないのでは? 再開時に魔女が減っているならむしろ有利ではないかしら?」
「成る程、でもそれで問題ないかしら? 女神自身が休戦と言いましたのよ? この魔女戦争自体女神が考えた余興のようなものでしょう? ならば女神の意向に反して今魔女を減らして、問題ないと思うのかしら?」
可能性としては新たな魔女が補充。
あるいは生き返る。などがあってもおかしくないし、殺した魔女にペナルティが課せられることもあるのでは? などとシャルロッテが告げるが、ヌェルティスはなんとなく理解している。
多分魔女が死のうがントロが滅びようが女神は何もしないだろう。
ああ、残念。程度にしか思わなかった筈だ。
「では聞いてみればよかろう。どうなのだ女神よ」
―― 龍華ちゃんなんでも私に聞くのはどうかと思うんだ。私はこの世界じゃ女神やってるけどー、皆の便利屋さんじゃないんだよー。でも、そーだね。休戦中に殺害しちゃった魔女とントロにはペナルティ与えちゃおっか ――
今、思いつきおったな。
ヌェルティスは呆れた顔をしながら天を見上げる。
そこには駄女神の幻影がにこやかにほほ笑みサムズアップしている姿が見えた気がした。
「どこの世界も管理するのは駄女神……か」
―― ちょっ、ヌェルちゃん酷い!? 私はあいつとは違うのよあいつとはっ ――
慌てる姿がより実像を近づけてしまう気がする。
げんなりとした顔をするヌェルティスは未だにごちゃごちゃと脳内に直接語りかけて来る毒電波を無視してシャルロッテに視線を向け直す。
「で? 女神は敵対を良しとしないようだが、どうする?」
「そちらの三人は既に休戦協定を結んでいるのでしょう?」
「そちらの二人も、ですよね?」
「でしたら、互いに休戦しても問題は無いですよね」
ヌェルティスの言葉にシャルロッテとラナエが互いに尋ね、それを総括するようにエルフリーデがパンッと両手を合わせて嬉しそうに微笑む。
「まぁ、我が領地はントロがントロなのでそれで問題は無いですが……」
ゼムロットがそっと視線をメルフィーナへと向ける。
「……そうね。今更敵対しても無意味のようですし、ここに居る魔女だけでも休戦協定を結びましょうか。女神の勇者全員が排除されるまで、でよろしくて?」
「ええ。それで問題はありません」
「そうですわね。勇者どもに殺される弱者にまでは面倒見切れませんが、それで良しとしましょうか」
ここに、魔女同盟が結成された。
女神からの勇者の居場所が教えられ次第、そこに向かって駆逐する大部隊であった。




