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序・ミルカエルゼ

 ミルカエルゼ最大の都市は? と聞かれれば、カイネスブルグと殆どの人物がいうだろう。

 しかし、最高戦力を持つ国は? と聞かれれば、カイネスブルグの名前はでてこない。

 数年前ならばカイネスブルグであっていた。なにしろ巨大な西大陸を支配する大帝国なのだから。だが、彼らは今、最高戦力かと聞かれれば、国王すらも首を横に振るだろう。

 なにしろ、この世界にはあの国があるからだ。


 森に囲まれ堀に囲まれ、難攻不落と名高い王国。

 城下町は周囲になく、森の中央部に城がぽつんとあるだけの国有面積最小国として有名な国。

 あまりにも敷地が小さいせいで、城の地下に民間人が住んでいるというあまりにも小さな国だ。なのに、かの国クラリシアはこの世界最強の国として近年注目を浴びていた。


 それは、国王が代替わりした数年前からの変化である。

 近くの国々が恐れを抱くのを知り、カイネスブルグ国王はかの国に訪問してみた。そこに君臨する国王を見て、心底畏怖を覚えたという。

 かの国の王は異世界より降臨し、クラリシア王女を娶った異形の王。

 その者は、周囲から地獄の死神、あるいは地獄の細胞と呼ばれていた。

 ただ居るだけで重圧を振りまくまさに死神のような男であったと、カイネスブルグ王は後に告げた。

 その国で見せられた圧倒的戦力は、かの大帝国をして逆らっては滅亡すると確信させた程であったという。


 そんな最小国クラリシアの作戦会議室に、本日かの王、フィエステリア・ピシシーダこと武藤薬藻は側近たちと共にやってきた。

 側近というのは彼の身の回りを世話する者ではなく、彼の護衛でもない。

 側近がやるべきことは薬藻の行動の記録と、周囲との会話の記録、時間とスケジュールを教える者などである。その全員が、おっさんだった。


 何故かと言えば簡単だ。彼の回りに女性を置くと、いつの間にか側室になっているからである。

 薬藻は好色王としてもその名を馳せていた。

 本人に言わせれば名誉棄損甚だしい二つ名なのだが、なぜか寝取り魔という二つ名と共に周辺国家に広がり始めているのだ。

 それもこれも女神サンニ・ヤカーの支配していた世界にクラスメイトの助っ人として向かった際、向こうの住人を二人程オトして来てしまったからに他ならない。


 溜息を吐きながら会議室にある玉座に座る。

 既に彼以外は席に付いていた。否、彼が座ったのを確かめ、黒髪の小柄な少女がとことこやって来て薬藻の太ももに座って来る。その姿はアイヌ民族のような衣装を身にまとっており、無表情で当然のように座っていた。


「おい、チキサニ?」


「クアニの席、ここ」


「ちょっとチキサニ、あんたは私の横でしょっ!」


 同じく黒髪で、女学生服を着た少女がドスドスと近づいて来てチキサニを無理矢理引っ張って行く。


「やめろー稀良螺。クアニは夫の上に座るのが務めなのーっ」


「煩いっ。今真剣な話すんだから大人しく座ってなさいっ」


 無理矢理自分の席に座らせられるチキサニ。ふんすっと稀良螺も自分の座席に座る。

 王に対して無礼な行いといえば行いなのだが、彼女達が咎められることはない。なぜならば一般市民や貴族などではない、彼女達は側室なのだから。


 改めて薬藻は周囲を見回す。

 F・Tことフィエステリア・ピシシーダである自分から左に、正室にして腹黒毒舌魔法使いネリウ・クラリシア、お茶を飲んでいる和風人形みたいな伊吹冬子、ネコミミカチューシャ付き赤茶髪の炎野美音奈、本日は横ポニーテールに挑戦している武田カトラ、暗い瞳でブツブツ呟いている悪魔っ娘の福田瑪瑙、和服美人のお松、新撰組みたいなピンク色の服装を今日も着ているみぽりんこと近藤沼津上美保理、アンデッド・スネイク社怪人クリムゾン・コアトル、練武山李家の一人娘である李鯉恋、ラナリア所属の怪人プロミネン・アイラーヴァタとアカシック・パールヴァティ、パラステアという隣国の王女シャーセ・パラステア、軟体族のミルユ=モティカルパイト=ヘグイトス、レシパチコタンの巫女チキサニ、エルダーマイアという国に召喚された勇者桜井稀良螺、前世が魔王の増渕菜七、超能力者の坂崎可憐。


 コレが今居るこの国の戦力だ。

 その実力はいくつかのメンバーが一人で一国を滅ぼせる程である。

 もはや神に喧嘩でも売るのかと思える戦力だが、本来はこれだけではない。手塚至宝や大井手真希巴、ヌェルティス・フォン・フォルクスワーエン、イチゴショートケーキ・フロンティア、小出葛之葉などの最大戦力はここには居ない。

 皆、別の世界を守るために助っ人に向かってしまったのだ。


「そう言えば、ヌェルが居ないわね?」


「あの意味不明コリメノコか? この前クアニたちがここに来た時に異世界に旅立ったらしいぞ?」


 ネリウの呟きにチキサニが答える。

 怪訝な顔をしたネリウが薬藻に視線を向ける。

 その顔は本当かと問うているようだった。


 薬藻の膝に座った伊吹冬子も視線を上げて薬藻を見た。

 普通に皆がスルーしているが、いつの間にか彼女が薬藻の膝に座っていたのだ。冬子の席には彼女の代理として先ほどまで冬子が抱えていた【とつめ】という一つ目少女が座っている。

 気付いたチキサニが何か言いたそうにしていたが、冬子はそれに気付くとニタリと挑戦的な笑みを向けて来た。

 誰にも気づかれない中で、静かな冷戦が始まる。


「ああ。ヌェルは別世界に召喚された。子供の方は他の皆がいるから問題はないけど、また捜索しないとダメっぽい」


「女神の勇者とかいうふざけた奴らが来てるってのにあのトラブルメーカーは本当に役に立たないわね」


 舌打ちするネリウに苦笑いしながら薬藻は皆に向けて真剣な顔で告げた。


「さぁ、そろそろ始めよう。緊急会議で増渕さんや坂崎君にまで集まって貰ったのは他でもない。議題は一つ。この世界に来やがったサンニ・ヤカーの残党狩りをどうやるかだ」


 そして、クラリシアが動き出す。各国が鳴動する動乱期が、始まろうとしていた。 

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