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序・ペンデクオルネ

「聞いたかールーフィニ?」


 冴えない少年が隣の少女に聞いた。

 ここは小高い丘の上。シートを引いてたった二人で少年と少女は座っていた。

 少女の近くにはバスケット。中には少年に教わって作った少女の手作りサンドイッチというお昼ご飯が入っている。


 シャギーの入ったショートヘアの少女はちょこんと座っており、胡坐をかく少年に肩がくっつくくらいに近寄って肩を預けている。

 何処から見てもカップルにしか見えなかった。

 長閑な雰囲気が漂う快晴な空、吹き抜ける柔らかな風。風駆け抜ける草原が見える小高い丘。

 デート日和のデートスポット。


 少女、ルーフィニはえへ。と笑みを浮かべてコクリと頷く。

 少年の問いに、言葉を介さず頷いたのだ。

 ソレを見て、少年はふっと笑みを浮かべる。


「女神の勇者を名乗る世界の破壊者かぁ……ンなもん来られても迷惑っつーか、なぁ、この世界魔王も居ねーじゃん。勇者も居ねーし、戦争してる訳でもない」


「ん……」


「なんでそんな平和な世界を破壊しようなんて思うんだろーな」


 少年はそう言って空を見上げ、ふと気付いたように懐に手を伸ばす。

 取り出したのは一冊の本。

 彼の魔法書であり、彼にしか使えない魔法が書かれている。


「俺らがでるようなもんでもないし、この世界のすげー強い誰かがなんとかしてくれるのを待つだけかなぁ」


『私、しんた守るよ?』


 少年にルーフィニから念波が飛んで来る。

 ルーフィニには言霊という名の特性があった。言葉が魔力を持って放たれてしまうのだ。だから、魔道具を使うことで念話による会話を可能にしたのである。

 流石に周囲の皆が使える程安い魔道具ではないので今のところ会話が出来るのはルーフィニと少年だけである。


「ルーフィニが守ってくれるなら安心だな」


 ふっと笑う少年は、視線をルーフィニに向ける。

 濡れた双眸が彼を見つめて来た。


「ルーフィニ……」


 好きだ。告げそうになった瞬間、少年は固まった。

 ルーフィニも何か期待した瞳を瞑り、顔を上向け唇を強調して見せるのだが、残念ながら少年はそれに気付かなかった。

 しばし待って、何も無いと気付いたルーフィニはどうしたの? と瞳を開く。

 青い顔の少年は、ルーフィニを見ていなかった。

 むしろその後に視線を向けている。


 何かを見つけてしまった、そんな顔。

 どう見ても普通じゃない。何か見付けてはいけないモノを見付けた顔をして固まっていた。

 何が居るのか、ルーフィニも背後を見る。


「かぁ~じぃ~わぁ~らぁ~しぃ~ん~たぁ~っ?」


 人でも殺しそうな壊れた笑みに逆立った赤い髪。

 黒いローブに身を包んだ赤髪ロングストレートの少女が勝気な瞳を殺意に染めてゆっくりと近づいて来ていた。


「う、うおおサイル!? どうしてここに!?」


「うるっさい! あんたなにルーフィニとこんな所に居る訳!? 緊急避難宣言聞いてなかったかコルァ!? 校長先生が危ないから生徒が学校からでんなつってたでしょうが!!」


「いや、それサイルもだよね!? ちょ、待ってサイルさん、これには海より深い訳が……」


「コ・ル・ラ・リ・カァァァァッ!!」


 問答無用とばかりに氷撃の一撃が放たれる。


「コ・ルラリカ消えて」


 それまで蚊帳の外だったルーフィニが慌てることなく一言。

 言霊によりコ・ルラリカの魔法が発動直後に消失した。


「ちょっと、邪魔しないでよ!」


 叫ぶサイルにルーフィニは冷めた視線を向けてあいうえおボードを取り出す。そのまま指で文字を差し示してみせた。


 ――あなたがじゃま――


「ぶっ殺すッ!!」


「ちょ、待って。二人ともま……」


 怒り狂ったサイルの魔法をルーフィニが消し去る。

 被害が拡大しそうだったのでバスケットを素早く抱えた梶原信太は即座に逃げ出した。

 丘の上を転がりながら必死にサンドイッチにぱくつき逃げ出す。


 魔法の衝撃で地面が吹き飛び草原に炎が走る。

 即座にルーフィニが言霊使って消し去るがタイムラグのせいで周辺被害が無駄に出ている。

 しかし二人を止められるモノなど居はしなかった。


「くそっ、女神の勇者とかもうどうでもいいよ、俺はこの二人だけでも一杯一杯だっつの。何で俺はハーレム出来ずにこんなことになってんだよ。もうルーフィニだけでも良いから彼女との甘い一時くらいゆっくり過ごさせろよちくしょーっ」


 叫ぶ信太、そこへ流れ弾の氷弾が襲いかかる。


「のぉぉぉぉぉっ!!」


 ギリギリで避ける信太。

 彼らにとっては世界の危機などどうでもよかった。

 ただこの世界で日々を過ごす。それだけで手いっぱいなのである。

 しかし、それは彼ら側の主張である。

 女神の勇者たちにはそんなことは関係ない。


 キャットファイトを始める二人の女が賑やかにやらかせばやらかす程、トラブルの種は向こうからやって来ることを、この時の彼らはまだ知らなかった。

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