地球・魔眼の勇者4
地面を割り砕き、そいつは空から現れた。
ポニーテールの女。目を眼帯で隠し、両目が見えない状態でありながら、的確に魔眼の勇者を捕える。
不敵にクレーターから上がってくると、目元の布に手を当てる。
「初めましてかな? 我が名はラオルゥという。お前の女神が管理していた世界に居た者だよ」
「あら、あの女神の世界の住人? なんで地球に居るのかしら? まぁ、どうでもいいわ。その眼帯引きちぎって奴隷にしてあげる。そのままゾンビ共に全裸で特攻して貰おうかしら」
「ふむふむ。なかなか面白い事を言う。ならばやって見せたまえ魔眼の勇者とやら」
くっくと笑ったラオルゥが自ら眼帯を取り去った。
驚いたのは魔眼の勇者である。
まさか自分から操られに来るとは夢にも思わなかった。
だが、自分にとってはむしろ好機である。
リテルラも折角助っ人に現れたラオルゥに一瞬期待したものの、その愚かな行為に顔を青くしている。
何してるデスか!? と顔が言っていた。
「ふん。命乞いかしら? 自分から操られようなんて殊勝な心がけね!」
取り去られた眼帯という布がするりと地面に落下する。
現れたのは金色の瞳。真っ直ぐに魔眼の勇者を見つめて来る。
魔眼の勇者もそいつに視線を合わし、魔眼を発動。
「ふふ、さぁラオルゥ、服を……を、を……をろぶえあっ!?」
びくり、言葉の途中で震える魔眼の勇者。その身体が膨れ上がる。
マズい、思ったが遅かった。
身体が膨れる。視線がそらせない。
膨れる、膨れる、膨れる、もう、これ以上は膨れな……
そこで魔眼の勇者の意識は途絶え、彼女の体は爆散して消え去った。
そんな光景をリテルラは呆然と見つめる。
何が起こったのか理解できなかったようだ。
「ふむ。やはり女神が適当に付けた権能程度では我を操るには役不足だったようだ」
地面に屈んで眼帯を取り、埃を叩いてから取りつけ再び目隠し。ラオルゥがようやくリテルラの元へと近づいて行く。
「ふむ? 魔眼効果は奴が死んでも残るのか。厄介だな」
「あ、あの、えっと、今のって……」
「ああ、我もな、魔眼持ちなのだよ。我の場合目を合わせた瞬間相手が破裂して死ぬ魔眼だがな」
わざわざ正面から魔眼の勇者の前に顔を晒して見つめ合ったのは、魔眼持ちだったかららしい。それでも危険はあっただろう。もしかしたら逆に操られていたかもしれないのによくもまぁ試したものである。
「それキュアラオール」
状態回復魔法の広範囲版も使えるらしい。
まさに魔神と証していい存在かもしれない。リテルラは戦慄しながら助け起こされ立ち上がる。
「さて、こちらは片付きそうだし、我はセイバーの元へ行こうかな」
「セイバー? もしかしてジャスティスセイバーさん、だったり?」
「お。セイバーの知り合いか?」
まさかの知り合いの知り合いだった事実にリテルラは驚きつつも、ラオルゥに自分がジャスティスセイバーと同じクラスに居た事を告げる。
そのまま話に花を咲かせていると、皆が正気に戻ったようで周囲を見回し現状を確認し始めていた。
「ラオルゥ様!?」
「ん? おお、ペリカ、マイツミーア、テーラ。お前達もこちらにいたのか。操られていた有象無象で気付かなかったぞ」
くっくと笑うラオルゥ。多分気付いていたのだろうが、冗談のつもりで気付かないと言ったようだ。そのこと自体が気付かなかったようでペリカたちが凄く哀しそうな顔をしていた。
「うぅ、ますたー、ぶじ?」
「うん。まー結果オーライだけど、危なかったね」
能天気そうに告げた黙人に、ピクシニーはむぅっと唸り、側頭部向けてピクシーキックを叩き込んだ。
もともとさっさと黙人が助っ人呼びに行っていればピンチは回避出来ていたかもしれないのだ。理不尽かもしれないがマスターへの怒りを込めた一撃を放つピクシニーだった。
「では、我はお暇するとしよう」
「助かりましたデス」
「主も助っ人に来た身であろう。礼は不要。むしろペリカたちがお主に告げるモノだろう」
そう、リテルラも助っ人に来てピンチに陥ったのはもともと居たペリカ達が既に敗北必死だったうえに操られたからだ。礼を謝罪を告げるべきは彼女達だろう。
「いやー、ほんとラオルゥ様が居なかったらヤバかったですにゃー」
「女神の勇者ヤバかったね。ペリカ様、避難所の見回り始めましょうよ」
「あ、ああうん。そうね。ではラオルゥ様、リテルラ様、助っ人ありがとうございました」
「……私は助っ人に来たのに操られてばかりで活躍の機会が……はぁ」
溜息を吐くのはヨルゥイエル。
それに苦笑しラオルゥは近くのビルへと飛び上が……ろうとして気付いた。
「チッ。まだ終わらんか」
「っ!? 総員戦闘態勢! 何か来ます!」
ペリカの言葉に全員が警戒する。
いつの間にか黙人とピクシニーが消えていた。
魔力回復の為に一早く校舎内に入ってしまったようだ。
魔力の無くなった彼らが居ても意味は無いのでペリカも無視して周囲を探る。
丁度ラオルゥが飛び上がろうとしたビルの上に、そいつはいた。
「アレは……」
「仮面ダンサー……デス?」
知り合いに似た姿を見つけたリテルラが呆然と呟く。
「チィッ! 奴はやる気だ! 来るぞ」
ラオルゥの言葉に反応するように仮面ダンサーは飛び降りる。
くるりと回転し、ラオルゥ向けてダンサーキック。
それを片手で受け止めるラオルゥ。
闘いはまだ、終わっていないことを、如実に物語っていた。




