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地球・魔眼の勇者3

 リテルラ・マイネ・エトリアルテは怪盗である。

 もともとは芸術家の娘であり怪盗という存在ではなかった。

 だが、父と母の作品が心ない誰かにより強奪され人生は一変した。


 父は盗まれた作品達を取り返そうと、闇市を歩きまわり浮浪者に殺された。 

 母は父の死から作品にのめり込み、命を使い果たして散った。

 残ったのは幾許かの借金と、母の未完の作品だけだった。


 そんな彼女に更なる転機が訪れたのは、時の大怪盗ラッフェンが盗まれた作品を盗み返し、彼女の元へ返しに来た時だった。

 それからは必死で覚えた。父の作品を、母の想いを盗み返すために。

 ラッフェンに頼み込み、怪盗技術を身に着け、独自に昇華させ、ラッフェンの名を継ぐに至った。


 前ラッフェンは今はフランス辺りでバカンスでもしているだろう。

 一応リテルラの義父と成っているが、ラッフェンだと日本政府にバレた今でも彼に迷惑が掛かっていないことには感謝している。

 だからこそ、今回日本政府を通してラナリアから救援要請があった時、彼女は即座に動いていた。


 自慢の足を生かし、人々の救出を行っていたのだ。

 そこで、見付けた。

 避難所で闘う正義の味方達。その相手は、一人の女性。

 しばし観察し、何が起こっていて誰が悪なのかを見極めていたのだが、魔眼の勇者だったとは思わなかった。


 ヨルゥイエルが操られたことでようやくそのことを確信できたのである。

 ならば後は、相手の目を見ず征圧するだけである。

 慣れない剣を持ちつつ背後から攻撃を加える。

 とっさに前に飛び退いた魔眼の勇者が飛び込み前転で転がる。


 キッと睨みつける魔眼の勇者。

 しかしそこにリテルラは存在しなかった。

 彼女もそれを予想していたのだろう。

 さらに飛び退き背後に視線を向ける。


「なっ!?」


「あら、捕捉されたみたいデス」


 視界にリテルラを収めた魔眼の勇者はニヤついた。これで操れる。とでも思ったのだろう。相手が目を瞑ってさえいなければ、だが。


「あ、あなた目を瞑って!?」


「言ったはずです。あなたを征圧するだけなら目を見ずにできマスと」


「無茶苦茶だわ。でも、まだ甘い」


 既に操られたペリカとマイツミーア、テーラが拘束しに向かって来た。

 正義の味方の半数もリテルラ捕縛に近づいてくる。

 それらを的確に避けながらクスリと笑う。


「無駄無駄無駄デス。この程度の包囲で怪盗ラッフェンは捕えられませんよ」


 まさに黒き疾風となり、リテルラが無数の手を逃れていく。

 素早く的確に、時折フェイントを混ぜ魔眼の勇者の視認も許さない。

 時折見逃し消えたリテルラを探す魔眼の勇者も次第焦りを募らせる。


 攻撃手段は近接攻撃だ。

 近づかれさえしなければ……

 ヨルゥイエルが動く。魔眼の勇者が見逃していたが、既に彼女の側に近づいていたのだ。

 ホーリーアローがリテルラへと放たれる。

 バク転で避けたリテルラが空を舞う。

 伸身スワン。大空を羽ばたくように宙返りを披露し、魔眼の勇者の肩に飛び乗った。


 驚く魔眼の勇者に肩車するように座り、太ももで首を絞めて来る。

 本能で両手を動かし引き離そうとするが、背中越しに倒れ込んだリテルラは地面に手を突き身体を持ち上げる。

 足で掴んだ魔眼の勇者を引き上げ、地面に叩きつけた。


「がぁっ!?」


「あら失礼。さすがに首を折るのは止めておきましたデース」


「くぅっ、ふざけ、るなっ!!」


 地面を転がり砂を握り込んだ魔眼の勇者が砂を投げる。

 礫は体勢を整えたリテルラに当ったものの、大した効果にはならなかった。

 リテルラは目を瞑っているのだから当然とも言える。


「トドメと行きます、やりすぎたらゴメンデス!」


「あんたがね!」


 不意に、リテルラの側頭部に衝撃が走った。

 驚いたリテルラ。人の気配は全て避けた筈。

 体勢を崩されたリテルラに魔眼の勇者の蹴りが襲いかかる。

 全体重を乗せた一撃に、リテルラが吹き飛んだ。


「残念だったわね。人間には意識を向けてたみたいだけど、空を近づく妖精相手じゃ気付かなかった?」


 ダメージを殺すように地面に手を突き着地したリテルラもそれで気付いた。

 ピクシニーが操られたのだ。


「ふふ。どう? 折角助っ人に来たのにあなた以外全員が敵に回った気分は?」


「これはちょっとピンチ……デス?」


 その場に居た正義の味方も魔族も天使も、皆が等しく魔眼によりリテルラへと迫る。


「ば、万事休す……」


「ほら、捕えろ。目を開かせて私の下僕にしてからゾンビに変えてやるっ」


 仲間に捕縛され、両手を拘束されたリテルラが地面に膝を突かされる。


「ふふ。残念だったわね。この区画はこの魔眼の勇者が支配させて貰うわよ」


「いやいや、残念なのはお前の頭だろう。よくぞ持たせた怪盗ラッフェンとやら、後は我が引き継ごう」


 リテルラの目を開かせてやろう。思った魔眼の勇者が近づこうとした矢先の出来事だった。

 上空から雷鳴の如く蹴りが襲いかかる。

 避けられたのは奇跡に近い。

 尻持ち着いた魔眼の勇者の目の前に小型のクレーターが出来上がる。

 衝撃音と共に出現したのは一人の女。

 目を布で隠した女が一人、戦場へと降り立った。

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