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ヘリザレクシア1

「はぁ~、女神の勇者っつったってなぁ、この広い世界出会う確率なんざン百兆以上だろ」


「何を言ってるのか分かりませんであります。気が狂いましたでありますか邪神アンゴルさん」


 兎を頭の上に乗せて歩く少女、ピスカが小首を傾げて聞いて来る。

 アンゴルモアは溜息を吐いて空を見上げた。

 なぜ、自分の相方はこんな女なのだろう。もう少しこう、俺に優しくてもいいんじゃないだろうか?

 しかし、アンゴルモアは不幸だった。

 不幸しかない彼に幸運にも自分を理解してくれる女性など現れる訳……地球に残して来た凛の姿を思い出す。


「はぁ、早く地球帰りたい」


「あなたは不幸の体現者でしょう。そう思えば遠のくだけでは?」


「うぐっ。そりゃそうなんだけどよぉ」


「それに女神の勇者とやらもであります。あなたの不幸に呼び寄せられてこっち来る可能性大でありますよ。それこそ100%中99%位の確率で」


「いやいや、ピスカ。流石にそりゃねーだろ」


 確かに、アンゴルモアは不幸だ。

 不幸に愛されているとも言える。

 死のうと思えば不幸にも生き残るし、道を歩けば鳥のフン。突っ立っていれば隕石突撃、地割れに巻き込まれ、何もしていなくとも何かしらの不幸が襲って来る。


 ほんともう勘弁してくれと思うのだが、不幸は生まれた時からずっと隣で添い遂げて来た伴侶のようなものである。

 扱い方はそれなりに理解できている。

 そんな不幸体質とはいえ、流石に女神の勇者共がピンポイントでここに来るわけが……


「あっはー。見っけ見っけ。ほら見ろよ。僕の幸運ちゃんと仕事してるだろ!」


「半身機械の自称アンゴルモア神。女神が言ってた最も殺しておきたい存在だな」


「おお、見ろよ、可愛い女連れてやがる。ちょいと地味な気はするが、アレ俺が貰っていいか?」


「ふざけんな。全員の所有物だろが」


 下卑た笑いを浮かべ会う二人を引き連れ、そいつはアンゴルモア目指して現れた。

 ピスカが親指を立てる。さすがアンゴルさんであります。無言の瞳がそう告げていた。

 アンゴルモアは無言でその場に崩折れ四つん這いになった。


「俺の不幸、極まり過ぎじゃね……っ?」


「初めましてであります。貴方達が女神の勇者で相違ないでありますか?」


 話が出来そうにないアンゴルモアを放置して、ピスカが尋ねる。

 近づいて来た三人の男は話しかけられるとは思っていなかったようで、珍しいモノを見た顔で立ち止まった。


「お、おぅ、なんでぇ俺らの事知ってんのか?」


 粗野な大男が無精髭をさする。

 筋肉質の彼はピスカと頭上の兎を見る。

 兎が無駄にもごもごしているのが微妙に気になるが、少女自体は目元が隠れた少し内気そうなメイド姿の少女だ。

 少し脅せば屈するような華奢な少女である。


「俺は魔人の勇者ってんだ。やはり人よりすぐれた存在に憧れててなぁ。最強の肉体に変えて貰った。女神サンニ・ヤカーさまさまだぜ?」


「僕は幸運の勇者ってとこかな。不幸なアンゴルモアっていう男を女神様が絶対に殺したいと言ってたからさ、見付けたら倒すよって約束してたんだ。まさか本当に見付けられるとは思わなかったけど、この世界にビビッと来るものがあったから選んだけど、ホント幸運だね僕は」


 くっくと嗤う優男。ジャケットとジーパンというラフな格好で、無手のままアンゴルモアに対峙する。


「まぁ、僕の相手はアンゴルモアってことで、他の二人が君を襲っちゃうみたいだけど、ごめんね。アンゴルモアと一緒に居た不幸を嘆いてくれよ」


「つーわけでだ。お嬢ちゃんは俺らとにゃんにゃんしよーぜぇ」


 最後に下卑た笑いを浮かべる粗野な男。

 ナイフを取り出し舌で舐めるような動作をしている。


「あなたは、何の勇者でありますか?」


「あ? 暗殺の勇者だが……って少しは恐がれよ。調子狂うだろ」


「無理に下衆を演じている相手に合わせる義理はないのであります。それと、ご主人様からお二方にメッセージです。悪いことは言わないからピスカに敵対するのだけはやめとけ、死ぬぞ。と」


 一瞬、何を言われたのか理解できずに魔人の勇者と暗殺の勇者が破顔する。


「は? ぎゃはははははっ」


「聞いたかオイ。このお嬢ちゃんと敵対したら死ぬんだと!」


「面白ぇ冗談だ!」


 魔人の勇者が近づいてくる。

 ピスカが敵と認識して攻撃態勢に移ろうとした時だった。

 ぴょんっと彼女の頭からウサギが飛び降りた。

 危機を感じて逃げたか? 否、全く違う。


 地面に降り立ったウサギはゆっくりと身体を起こし二足歩行。

 拳を構え魔人の勇者に敵対する構えを取った。

 突然の出来事に魔人の勇者は呆気に取られた顔をする。


「そんなっ!? ご主人様、俺の女に手を出すなだなんてぇ、ピスカもえもえキューンでありますよぉ」


 悶え始めたピスカの言葉で、この兎が彼女のご主人様であり、意思を持って魔人の勇者と敵対したことを、女神の勇者たちは今知ったのだった。

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