グレイシア4
その日、一羽の鳥が飛翔した。
東大陸をマホウドリという名の鳥が、一人の少女を乗せて飛翔する。
亜麻色の髪の少女はただ只管に前を見つめる。
彼らは今、たった一つの目的の為に空を駆けていた。
新日本帝国の世界侵攻作戦。想像以上の戦力に、各国は徐々に押され始めている。
このままでは本当に世界が壊される。
だから、頼まれた。
あなたなら出来ると。あなたにしか出来ないのだと。
リエラ・アルトバイエはぎゅっと拳を握る。
皆から離れ、たった一人になるのは心細い。こんな状況は、きっとアルセと出会う前。一年とちょっとしか経ってないが、その頃が懐かしく思える。
たった一年程前のこと、リエラはただの新人冒険者だった。
下級の魔物と闘い、殺されそうになって、本来ならば、そこで命を終えるだけの下級貴族の娘でしかなかった。
だけど、出会ったのだ。緑の少女と、あの人に。
それから先の冒険は、あまりにも濃厚だった。
森の中の冒険も、遺跡での冒険も、ゴブリンの襲撃も。本来自分では生き残れない筈の冒険を、増える仲間たちと共に冒険してきた。
そんな素敵な世界が、新日本帝国とかいう女神の勇者どものせいで崩壊するなど、許容できる筈がない。だから、彼女は元を断つ為に飛翔した。
リエラが目指すのは新日本帝国本国に居る勇者たち。首魁を打てばきっと止まる。
そう信じて、たった一人、マホウドリと共に空を行く。
不意に、風が悲鳴を上げた。
首を横に傾けると、頬を掠る弾丸。
どうやら防衛施設の上を通過したことで捕捉されたようだ。
瞬く間に銃弾の雨が真下から襲って来る。
マホウドリが防壁を展開。
自身は守るモノのリエラまでは届かない。
「マホゥ!」
「いい。気にせず飛んでッ。私はアルセの御蔭でまず死なない。だから、遠慮はいらない。駆けて!」
銃弾の雨に晒されながら、一羽の鳥が飛翔する。
無数の弾幕に穿たれながら、時に剣を引き抜き銃弾を弾き、マントを使って受け止める。
「流石アルセ特性ヒヒイロアイヴィで作ったマントね」
ふぅっと冷や汗を流しながらリエラは一人言ちる。
今まで為した事はなかったヒヒイロカネという時の止まった鉱物すらも叩き割るとされるヒヒイロアイヴィで作ったマント。銃弾を止める位訳ないとは思っていたが、それでも確証はなかったのだ。
「マホゥ」
「大丈夫、もうすぐよ。あなたの使命は私をあそこに送り届けること。お願いね!」
「マホゥッ!」
不安げなマホウドリに元気づけるように頭を撫でようとしたリエラ。しかし警戒を交えた鳴き声に背後を見る。
彼らに迫る一発の弾丸。否、それは弾丸などという小さな鉄ではない。
迫撃砲による一撃がリエラたちへと迫っていた。
「嘘でしょ!?」
咄嗟に剣を引き抜こうとするが間に合わない。
慌ててマントで身を包み衝撃を防ぐ。
カッと光と共に全身を衝撃が弄った。
「やったか?」
兵士の一人が思わず呟く。
爆炎の中、一羽の鳥がひゅるひゅると落下する。
思わずガッツポーズ。
「ふん。我が軍の防備を単身で抜けようとは片腹痛い、そこの兵、確認し、生きていれば捕縛しろ」
「楽しんでいいので?」
「好きにしろ」
兵士達が走りだす。
その視線の先で、墜落していたマホウドリが羽ばたいた。
「なんだとっ!?」
力強く羽ばたくマホウドリは地面すれすれを飛翔し、すぐさま同じ高度へと舞い上がる。
その背中には一人の少女がしっかりとくっついている。
「クソッ、討ち漏らした!?」
「撃て撃て! 銃身が焼けつくまで打ち続けろ! 本国に行かせるなッ」
兵士達が銃弾を放つ。
既に魔法で結界を張るような魔力もない。
今の一撃を防ぐので使いきった。
マホウドリは背後を見る。
気絶しているのだろうか? リエラが動く気配はない。
もしかしたら死んでしまったのかもしれない。
そうなると、自分が頑張る意味はない。
それでも……
無数の銃弾を潜り抜け、追って来る銃弾を引き離し、マホウドリは決死に羽ばたく。
自分が託されたのは、この少女を敵の本陣へ届けることのみ。
皆から託されたのだ。魔物である自分たちを仲間と言って、ともに冒険してくれた冒険者達に報いるためにマホウドリもまた、彼らの為に飛翔する。
……
…………
……………………
「……っは!?」
気を失っていた。
リエラは思わず周囲を見回す。
まだ空の上。否、まだじゃない。
既に目の前には新日本帝国と呼ばれる国がある。
コンクリートで作られたビルが立ち並ぶ異世界の国。
既にリエラ達のことは報告が行っているようで銃撃が前方から飛んでくる。
だが、マホウドリは気にせず銃弾の嵐へと突撃して行く。
慌ててマントを使って前方の銃弾を弾く。
「ちょ、結界は!?」
慌てたリエラの声に、しかしマホウドリは応えない。
ただ只管に飛翔して、新日本帝国中央付近で急降下を開始した。
驚くリエラは、気付いた。
慌ててマホウドリの身体を抱きしめ身体を入れ替える。
「くっのぉぉぉぉっ!!」
ズダン。思い切り両足で着地した。
勢いを殺しきれなかったのか身体の芯が震える。
「なんてこと……」
すぐさま物影に隠れ、近づいて来た兵士達から身を隠す。
確認すれば、マホウドリの意識は既になかった。
ただ気力だけで、飛翔していたのだ。
身体は無数の弾丸に穿たれ血を流し、霞んだ瞳は既に何も映してはいなかった。
「ごめんなさい……そして、ありがとう」
優しく頭を撫で、その場に寝かせる。
取り出した魔銃をマホウドリへと向け、引き金を引く。
「後は、ゆっくり休んでてね」
たった一度、発砲音が響いた――――
※アルセ姫護衛騎士団では、魔銃の弾は基本、回復用の魔弾を使用しております。




