モルグドラハ3
機械兵団の勇者は余裕を持って敵対する者たちを見つめていた。
防壁の勇者と闘っているのはクマのような体型の黒い装甲の怪人。
双方、未だに動く気配すらなく、完全にカウンター狙いでその場に佇み相手に悪口を告げてるだけだ。あれではあと何時間ああなっているかすら分からない。
多腕の勇者は苦戦気味だろうか? あの蜘蛛糸を操る怪人はかなりの手練と見ていいだろう。
頭上に蜘蛛の巣を作りだし、空中機動を確立させた彼女の動きに、多腕の勇者が付いて行けておらず、既に六本の腕を破壊されている。
といっても、彼にとっては腕など自由に変えが利くのだから問題はない。
「いい、皆。個別で闘ったらあっという間に囲まれるわ。少なくとも二人。互いに背を向けて闘いなさい!」
バグパピヨンの指示が飛ぶ。
王利にベタ惚れな彼女とはいえ、闘う時は元バグソルジャーの一人として、圧倒的な力で皆を率いている。
ヒストブルグの正義の味方見習いの彼らが力負けしないように指示を出し、とにかく防衛の構えで時間を稼いでいるようだ。
「ステップキーック」
仮面ダンサーに憧れる少女の一撃が機械兵を破壊する。
最強の正義の味方に肩を並べたい。
幼い頃からあらゆる武術を身に付け、ただただ目標に向かい突き進んだ少女は、単体でも怪人相手に闘えるだけの力を手に入れた。
といっても華奢な身体の耐久力は一般的女子高生のモノである。
それを技術と装備でなんとかカバーし、普通の正義の味方並みの活躍が出来るようになったのだ。
ダンサーへの人体改造をするべきかは迷ったが、結局受ける暇なくこの世界に連れて来られてしまった。
だが、感謝はしている。
今の彼女は地球で正義の味方をやるよりも濃密な体験が出来ているのだから。
この経験を糧にすれば余程の怪人が現れなければ彼女の勝利は揺るがなくなり、まさに無敗の仮面ダンサーに人間のまま名を連ねることもできるだろう。
だから今は、ただ只管、力を付けたい。その為に、邪魔な機械兵団を排除する。
スイッチを入れて後部に設置した自前の多角弾頭ミサイルを発射する。
しかし、機械兵団達はこれに反応してミサイルを発射。迎撃されてしまった。
どうやら兵装まで自由に作れるらしい。
だが、ミサイル発射で出来た隙を、別の女性が狙っていた。
「ナイスアシストアル!」
地面に力強く生みこんだ足を支柱に、掌底を機械兵へと叩き込む一人の少女。
李蘭爛の一撃を受けた機械兵は後方の機械兵たちを巻き込み吹っ飛んだ。
さらに残心することなく後になった足を使って浴びせ蹴り。
頭部を陥没させた機械兵が放電しながら倒れる。
「なんだか木人拳やってるみたいで楽しくなってきたネ」
「李さん突出しすぎだよっ!?」
海賀雅巳、笹垣薺、藍染亜衣子の三名は寄り添いながら一体づつの機械兵と闘っている。
流石に蘭爛のように突出する気にはならなかったようだ。
無理なく無難に敵を破壊している。
そんな面々を見て、機械兵団の勇者はふむ。と唸る。
決して弱い訳ではないが、あの三人は自分と敵対するには役不足だろう。
早々に排除してしまうか。
結論と共に新たなタイプの機械兵を作りだす。
砲塔を携えた戦車タイプの小型機械兵がキュラキュラとキャタピラを動かしながら三人に迫る。
初めに気付いたのはバグパピヨンだった。
流石に実際に怪人や悪の秘密結社と闘って来た彼女は戦場全体を見ていた為に逸早く気付けたのだ。
「そこの三人、狙われてるわ! 逃げなさいっ」
「逃げろと言われても……っ」
「こいつ等押し込めるように来て……っ」
「ムリムリムリ、ここから逃げるの不可能に近いですっ」
追い込まれる正義の味方候補に、無慈悲なる砲弾が連射される。
逃げ場はなかった。
避ける暇もなかった。
愕然とした顔の三人に砲弾が……
「無効之拡盾」
あたらなかった。
突如三人を守るように出現した防壁により砲弾が弾かれる。
「なっ!? 防壁!?」
思わず防壁の勇者を睨みつける機械兵団の勇者。
気付いた防壁の勇者は慌てて被りを振る。
「お、おれじゃねーしっ」
「なら誰だっていうのよ!? こいつ等の誰もこんな技使える奴は……」
「いないだろうな」
唐突に、凛とした声が背後から聞こえた。
避けられたのは奇跡に近い。
「霊光閃!」
「くぅっ!?」
ギリギリで避けたせいで衣服が裂かれる。
躱すと共に機械兵を召喚、背後から奇襲してきた人物に突撃させる。
しかし、一刀の元斬り伏せられた。
「やぁこんにちわ。随分と楽しそうな事をしているわね。私も混ぜなさいな」
「な、なんだお前はっ」
機械兵を常時出現させながら現れた女に向け突撃させる。
「極炎焦土」
女の周囲から炎が噴き上がり爆散。群がる機械兵を一網打尽にしてしまう。
「初めまして勇者共。マロムニアの魔王、アルベリカ・アロンダイト・アークウインドだ」
ニタリ、絶対的強者の笑みでアルベリカが微笑んだ。




