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モルグドラハ1

「アレって、多分女神の勇者案件よね?」


 ふと、探索中だった王利に、隣に居たバグパピヨンが尋ねる。

 彼らの目の前には、トリケラトプスと格闘をしている男がいた。

 その男を見ながらヤジを飛ばしている女と男が一人づつ。


 角から火炎弾を放つトリケラトプス。

 炎弾を避けて角を掴み取るのは、八つの腕を持つ男。

 ふんぬっと力を込めてトリケラトプスを投げ飛ばすと、さわやかな笑みを浮かべて汗を拭った。

 そこで、王利達に気付く。


「あん? なんだありゃ。人型のバケモノ? 現地住民って奴か?」


「お、マジ? 第一村人接近遭遇? ついに未知との遭遇かよ」


「そう。話ができるといいわね」


 男女は警戒する王利たちに向け歩き出す。

 王利は背後を見る。

 そこには一緒に探索に来たメンバーがいる。

 あいにく首領たちとは別行動だ。

 今居るのは武藤風音、仮面ダンサーステップ、海賀 雅巳、笹垣 薺、藍染亜衣子、李 蘭爛、エコーデリーター、そして隣にバグパピヨン。


「エコーデリーターだっけ、悪い、首領たち呼んで来てくれ」


「俺かよ!?」


 このエコーデリーターは声を打ち消す正義の味方候補である。王利たちが異世界に来る際巻き込まれてやって来たのだが、もともとチャラ男な彼は正義の味方というよりはヤラレ役がしっくりくるタイプなので戦闘には向かない。

 それでも王利から離れればこの世界に一人孤立しかねないため、彼らの顔色を伺いながらなんとか上手くやっているのが現状だ。

 今回も渋々他のメンバーを呼びに向かった。


「よぉ、初めまして、俺は女神の勇者の一人、多腕の勇者」


「俺は防壁の勇者な。んでこっちが……」


 女は声を発することなく、両手を開く。すると、彼女の周囲から無数の機械で出来た兵士が地面からせり上がってくる。


「周囲の鉱物を使用して簡易ゴーレムを作りだす。機械兵団の勇者とでも名乗っておきましょう」


 ニタリ。白衣姿にメガネを光らせ狂気の瞳を向ける機械兵団の勇者。

 彼女の笑みに呼応するように機械兵士たちが動き出す。


「いきなり戦闘アルか!?」


「問答無用みたいですねぇ。王利さん、とりあえず防壁の勇者はお任せしましょう。多腕は私が。残りは機械兵士と闘いながら他の皆さんの到着を待ってください」


 正直に言えば王利に彼らと闘い打ち勝つ術はない。

 森元王利ことW・Bウォーターベアは自己の生存特化の怪人なのだから。自分だけは無事に生き延びられても相手を倒せるかどうかは不明。むしろ攻撃力を投げ捨てて防御特化になった怪人なのだ。ソレが防御特化の防壁の勇者と対峙することとなってしまった。


「なんだぁ。俺の相手は冴えない男かよ」


「冴えない男で悪かったな。flexiоn!」


 変身ワードを口にする。

 光を放つ王利を見た防壁の勇者は思わずおおっと目を輝かせた。

 変身というキーワードに憧れを持っているらしく、どんなヒーローが現れるかわくわくとした顔をしている。

 しかし、光が収まった場所に現れたのは、正義のヒーローなどではなかった。


 黒く流線型のクチクラ装甲。

 全体的にはズングリムックリとした姿で、二足歩行のダンゴムシを思わせる姿。

 顔は凶悪で頭部1環節と胴体4環節、背中からは六つの触手のようなモノがたゆたう、熊のような生物がそこに居た。


 お世辞にもヒーローとは言い難い。なれどそれなりにはカッコイイ悪役とでも言えようか。

 手の爪は鋭いが、それ以外に危険そうな武器防具を持っている様子はない。


「おもしれぇ。変身するのかよ。まぁいい、さぁ来い!」


「それはこっちの台詞だ。お前が来いよ!」


「……」


「……」


 これは運命の悪戯だろうか?

 防壁の勇者はカウンターこそが本領だ。

 堅い防御を攻撃した相手に反射の防壁で撃退するのだ。


 対する王利は堅い装甲で相手の攻撃する意思を挫き、征圧するのがコンセプトの防御型怪人である。

 つまり双方相手の攻撃待ち特化型のスキル構成、当然ながら相手の攻撃を待つため双方見合ったまま微動だにしなくなる。


「……おい、なんで来ない?」


「そっちこそ、さっさと攻撃してくればいいだろ」


「……」


「……」


 しかし、やはりどちらも動こうとしない。

 二人の闘いは静かに、しかし他のメンバーの決着が付くまで永遠の停滞がそこにあった。

 闘いにすらならない闘い。出会った瞬間停滞するしかない二人は、そのまま相手の攻撃を待ち、見合ったまま動かなくなったのだった。


 そんな二人の周囲を機械兵士が生み出されては破壊されていく。

 その合間に多腕の勇者と対峙しながら呆れた顔で王利たちを見つめる風音。

 とりあえず防壁の勇者が邪魔することは防げそうなので何も言うことはなく多腕の勇者へと視線を戻すのだった。

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