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地球9

「見つけましたっ」


 渡有譜亜が空から落下する。

 直前に気付いた女はぎりぎりで回避した。

 驚く女のすぐ前に飛び蹴りを叩き込んだ有譜亜がアスファルトを割り砕く。

 飛び散った破片が女の額を掠る。


「痛っ」


「あらら、ひっでぇ。いきなり空から降って来るとか卑怯じゃね?」


 直ぐ横に居た男がへらへらと笑う。ソレを見ながら女はむぅっと怨みがましい目を向けた。

 有譜亜は気にせず手を突きだす。

 女の喉を狙った一撃は、しかし女の口から出現した無数の蝗に阻まれた。


 視界が塞がれ慌てて距離を取る有譜亜。纏わりつく蝗がウザったいのでヒートボディを発動。全身を発熱させることで近づいて来た蝗たちを焼き落とす。

 さらに左腕を換装。バーナーにして空中の蝗を纏めて焼き殺した。

 視界を炎が揺らめくが、先程より見やすくはなった。


「お、おいおい、何だこいつ。俺の疫病が効いてねぇ?」


「私の愛しい虫たちが……」


 浅黒い肌の男は左目に刀傷を持つ男だ。しかも人間ではなく耳が長い。おそらくダークエルフというべき存在なのだろう。

 鑑定してみるが、組成が未知の物質で出来ている。人間なら組成にある筈のリンやら何やらが無く、代わりにNO DATAが犇めいている。


 隣の女は病的なまでに線が細く、目の下にはクマが濃く見える。

 ふらつきながらも周囲に蝗を展開し、醜女のように黄泉から覗くような怨みがましい目を向けて来る。

 長い髪で目元を隠しながら、ニタリと笑みを浮かべた。


「丁度暇してたし、私の虫たちに集り殺される女を見るのも、乙」


「悪趣味すぎる。だが、疫病に苦しみ死ぬ女性は美しいだろうな」


「……データ来ました。疫病の勇者。ならびに虫の勇者を発見」


 二人の言葉を完全に無視し、右腕を換装。有譜亜の右腕に現れたガトリングランチャーを見て勇者二人は目を丸くした。


「くっ。虫よっ」


「おい、まっ……アシッドシールドッ」


 虫の勇者が虫を周囲に展開し、それらに乗って逃げるのと、ガトリングランチャーが火を噴くのは同時だった。

 ぎりぎりで魔法を唱える疫病の勇者。

 銃弾が酸の壁に阻まれ朽ち落ちる。


「目標疫病の勇者固定。シールドブレイクランス換装。突撃」


 休む暇すら与えない。

 ガトリングランチャーが効果無しと見るや即座に次の換装を行う有譜亜に疫病の勇者は思わず舌打ちしながらバックステップ。剣を引き抜き突撃してきた有譜亜の一撃を受け流す。


「クソッ。疫病が効かない相手とは……」


「機械に病原体は効かないのは理解できませんか? 異世界人ならば仕方ありませんね」


「煩いッ、ゴーレムモドキ等に俺の復讐は止められんッ」


 有譜亜の言葉を切り捨て、疫病の勇者は剣を構えるのだった。




 一方、逃げ出した虫の勇者は疫病の届かない場所まで逃げ切り、思わず安堵の息を吐いた。

 有譜亜のような存在に狙われるのは肝が冷えるが、女神の思想を受け入れた自分だ。この地球を滅茶苦茶にすることには嫌悪はなかった。

 自分の命が危険にさらされるのは御免だが、虫たちと絶えず一緒に居られるのならば、その程度苦ではない。


「ふむふむ。そなたが虫の勇者という奴かの」


 ゾクリ。先程周囲を見回した時には誰も居なかった。

 なのに、今、瞬きした次の瞬間、直ぐ目の前に少女が一人。

 あまりにも当然のようにそいつはそこに居た。


「本来はミルカなんとかじゃったかの。そこにおったんじゃが、丁度秋葉原に買い物に来ておってのぅ。こっちに借りだされたのじゃ」


 狐耳をぴこぴこと動かし、背中側にはたゆたう九本の尻尾。

 鉄扇を広げふぉっふぉと笑う狐娘に、虫の勇者は無言で虫を差し向ける。


「羽虫ごとき妾に効くとでも?」


 マンホールが噴き上がり、狐娘の周囲に水が舞う。

 突撃した羽虫は水に絡め取られ、濡れた翅が上手く使えずおぼれ始める。


「自己紹介をしておこうかの。小出葛之葉。そなたの命を摘み取る者じゃ」


 パシン。鉄扇を閉じドヤ顔を決める葛之葉。

 その足元には、既に放たれた第二陣の虫の群れ。

 高笑いを始めていた彼女は気付いてなかったらしい。


「バカじゃない? 出現早々死んでしまえッ」


「っ!?」


 気付いた時には遅かった。

 葛之葉の身体に這いあがる無数のセアカゴケグモ。

 身体中を毒牙で刺され、悲鳴と共に倒れる。

 そこへ我先へと突っ込む虫の群れ。


「クク、あは。あははははははははっ。大層な出現しといて何その呆気なさ!」


「ふむ。呆気ないかのぅ」


 嗤っていた虫の勇者は、真後ろから聞こえた声に声を止める。

 目の前には既に虫集りの人型となった葛之葉がいる。だが、後ろから聞こえた声もまた、葛之葉の声だった。


「ま、さか……」


「幻術じゃ、阿呆め」


 してやったりとニヤつく葛之葉。幻術が破れたのか、倒れていた筈の葛之葉が霞みのように消え、虫達の包球だけがその場に残る。


「狐火連弾じゃ」


 虫達が散開するより早く、葛之葉の放った炎の連弾が虫達を焼きつくす。


「さぁ、折角の祭りじゃ、ゆるり楽しもうぞ?」


 紅蓮の炎に彩られ、女狐がニヤリと笑みを浮かべた。

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