地球8
「うにゃーっ」
猫獣人が叫ぶ。
気合いと共に突撃したゾンビを槍で貫き周囲のゾンビを牽制する。
ゾンビが突き刺さったままの槍を振り回し、遠心力で遠くに投げ飛ばしながら、ゾンビの群れを撃退していた。
「マイツミーア、突出は控えなさい!」
「分かってるニャ!」
叫んだのは鳥獣人の女性。彼女だけは宙に浮きながら翼を打ち羽根をミサイルと化してゾンビ達を駆逐している。
その下では彼女の元へゾンビが殺到しないよう、人型の魔族が槍を振るってゾンビと闘っていた。
「テーラ、もうしばらく現状維持をお願いします」
「分かってますよペリカ。要救助者が安全地帯に着くまで後どれぐらいです?」
「残り30人と言ったところですか、この学校に逃げ切れるのはそれぐらいでしょう」
ペリカ、マイツミーア、テーラの三人は今、ラナリアから下された指令により、とある学園の裏門に居た。
逃げ遅れていた人たちを一纏めに護衛し、安全な学校敷地内に避難させるのが今回の目的だ。そのまま自分達も校内へと避難していいらしい。
彼女達三人だけではなく、ラナリアの怪人や正義の味方も借り出されており、今も共同作戦の最中である。
「ぐわぁっ!」
「大丈夫か!?」
「スマンやられた。俺もゾンビになるかもしれん。殿を行う、皆、後は任せる」
悔しげに呻く怪人はクワガタ怪人のようだ。
立派な甲殻にゾンビが噛みついている。
胴を裂いたは良いが、上半身が無事だったせいで噛みつかれてしまったようだ。
「あきらめるな! 甲虫だろう!」
「ゾンビ化の可能性がある以上俺は無理だ。そら! 避難民が居なくなったぞ、お前達も避難しろ」
追いたてるように他の怪人や正義の味方を校内に押し込むクワガタ怪人。
ペリカたちも仕方なくそれに従い、学園内へと避難する。
最後に裏門をクワガタ怪人が閉めると、彼は単身ゾンビの群れへと突っ込んでいった。
「うおおおおおおっ、ここが俺の散り際だぁぁぁッ」
無数のゾンビをちぎっては投げちぎっては投げ、やがて、遥か遠方で爆発が起きた。
「クソッ、また一人仲間が……」
「全く、魔神様の人形の群れを生き残れたと思ったら今度はゾンビパニックとか……」
「あの女神ホント最悪ニャ」
溜息一つ。マイツミーアが顔を上げた瞬間だった。
彼女めがけて救助したお婆さんが襲いかかる。
ギリギリで躱したマイツミーアは、ゾンビが混じっていたのかと焦ったが、違う。
老婆は虚空を見つめながらマイツミーアへと襲いかかっているだけでゾンビ化はしていなかった。
「な、なんだこいつら!?」
「どうなって!?」
「待って……あいつだッ!」
ペリカが羽根ミサイルを放つ。
助けた民間人の一人に向かったソレを、そいつは軽々躱して見せた。
「あっぶな。ふふ。見つかっちゃった」
「何者です!」
ペリカの問いに、その女はクスクスと笑う。
「初めましてぇ。魔眼の勇者でーす」
ギラリ。そいつの視線がペリカを捕えた瞬間だった。怪しく紫に光る双眸に見せられ、ペリカもまたテーラへと襲いかかる。
「嘘ッ!? ペリカ正気に戻って!?」
「あははははははっ。ほらほら同士討ちしちゃいなよー。魔眼最高ーっ。視線合わせるだけで皆私の意のままよ! あはははははははは」
怪人を、正義の味方を一般人が攻撃して封じる。
そして魔眼の勇者に操られた怪人の一人が、今し方閉めた裏門に向かって行く。
「ちょ、何するつもりニャ!?」
「決まってんじゃん。そこの門解放すんのよ。ゾンビパニックでここは壊滅って訳よ」
裏門に手が掛かる。
阻止したくても正義の味方も怪人も、マイツミーアたちも皆が動けない。
なすすべなく裏門が……
「かんふぃーるっ!」
ふわぁっと裏門を開こうとした怪人が光に包まれた。
「なっ!?」
「うっし! ぎりぎりぃ!」
何が起こった? と魔眼の勇者が周囲を探れば、校舎側から一人の男と空に浮かぶ妖精が一体。
ピンクの髪を持つ妖精は、舌っ足らずな声でいぇいっと男にVサインを送る。
「何か騒がしいから見に来たけど、ピクシニー、全員を正気に戻せる?」
「まかせろぃますたー。きゅあらおーる!」
ピクシニーの魔法が戦場に行き渡る。
正気に戻った一般人を校舎内へと退避させ、正義の味方と怪人が魔眼の勇者を取り囲んだ。
「全員油断するなッ、目を見れば操られるぞ!」
「女神の勇者って奴か。飛んで火に居る夏の虫とはこのことか」
「ふふ。雑魚が群れてほざいてるわね。魔眼ってのは、ただ見るだけじゃないのよ。レーザーだってでるんだから!」
真正面に来たテーラ向けて、魔眼の勇者の瞳から光が放たれる。
「わひゃっ!?」
飛び退いたテーラの真下をレーザーが穿つ。
楽に負ける気はない。魔眼の勇者がニタリと哂った。




