グレイシア3
「まったく。損な役回りね」
溜息を吐きながら、少女は隣の女に溜息を吐く。
「申し訳ありませんパルティさん」
短めのショートボブに加えて揉みあげというか側頭部の髪を編み込んで三つ編みにしている赤紫色の髪の少女、パルティエディア・フリューグリスは今、かなり高い山の頂上に来ていた。
周囲に木々はなく、雲よりは低い位置に位置している山だ。
ここからだと360°の大パノラマが見渡せる。
「ここが東大陸……か」
東大陸は今、新日本帝国により実効支配されていた。
西大陸はアルセ姫護衛騎士団が各地に向かっている御蔭で征圧されたという報告はないが、こちらの大地はもう国一つ残っていないだろう。
「このような絶望的な闘いをさせてしまい、申し訳ありません」
「そこは気にしてないわ。むしろ私にしか出来ない闘いだから。リエラさんもアルセもあの人だって頑張ってるんだもの。皆の元へ、こいつ等は行かせない」
目の前に広がるのは、大草原。しかし、その大草原を埋め尽すように迫り来る黒い波。その全てが新日本帝国軍の兵士であり、戦車であり、空をまばらに埋め尽す戦闘機達である。
西大陸に進軍しているのは全体の半分も居ない。
彼らの最大戦力は今、ここにいるのだ。
「ホント、嫌になるわね」
「遊んでいるのですよ女神の勇者たちは。だからこそ、付け居る隙がある」
「メリエだっけ? あんたはそろそろ退避なさい」
「え? でも私はもうやるべきことはやり終えて何も……」
「ここは私だけで充分よ、乗ってきた空軍カモメに乗って安全な場所にでも行きなさい」
目の前に見える軍団は、規則正しくゆっくりと迫っている。歩兵に合わせ戦車も戦闘機も進む速度はかなり遅い。それでもコレが東大陸を歩み終え、本格的に西大陸に向かってしまえば……物量に押され、アルセとあの人が大切に思う全てが、蹂躙されてしまうだろう。
だから、パルティエディアはここに立つ。
「では……カチョカチュア神の御加護がありますように」
メリエが待機していた鳥に掴まり飛び去って行く。ソレを見届け、パルティエディアは両頬を張って気合いを入れる。
皆が頑張っているように、ここが彼女の戦場なのだ。
本当であれば愛しい彼の元へ向かいたい。
リエラと肩を並べて闘いたい。
けれど、自分にしか出来ない闘いがここにあるから。
100億に達するほどの兵団見据え、彼女は掌に魔力を込める。
女神サンニ・ヤカーの世界で彼女が暴れたせいもあるかもしれない。
それがなければ勇者の数も少なかったと思う。
それでも、この世界にやってきた勇者達は絶対に後悔して貰う。その為に、彼女はここでたった一人敵対する。
「伊達に神々にスキル教わってないのよ。この世界に来たこと……後悔しながら消え去れッ」
頭上に掲げた魔力が形を帯びる。
投げ槍の形状に。鋭く巨大に。紫電を走らせる魔力の槍は徐々に巨大になって行く。
「巨人の槍!」
ギュオゥッ
空気を切り裂き巨大な槍が放たれる。
光を超える勢いで放たれた一撃は空気の壁を次々と引き裂き轟音と共に駆け抜ける。
平野を歩く歩兵を飲み込み、戦車という名の棺桶を破壊して。回避行動を取ろうとした戦闘機を巻き込み粉砕する。
対面にあった山脈に風穴開けて、巨大な魔力砲がどこかへと飛んで行った。
「まだまだァッ巨人の槍!」
続けて一射、二射と打ち放つ。
逃げまどう兵士達を次々打ち抜き粉砕し、黒い絨毯を瞬く間に削り取る。
「これで、どおだァッ!!」
巨大な魔力の槍が展開される。
一つ二つではない。
隙間すらなく埋め尽すようにパルティエディアの居る山の左右へと次々展開される巨人の槍。数十キロに及び待機する槍の群れ。迫る兵士たちはその光景を見て知った。逃げ場など、既にないということに。
神々に愛され、神々の力を手に入れてしまった、まさにチートと呼べる少女の本気の一撃が放たれようとしている。
「女神に力を授かった勇者たちと、神々に力を授かった私。どちらが勝つか……勝負よ!」
掌を真正面へと振り、絶死の一撃を打ち放つ。
「巨槍の射撃場!」
無数の巨槍が勇者の兵団向けて放たれる。
一つ一つが億単位の兵士を刈り取る致死の連撃。
周囲の山を森を湖を消し飛ばし、無敵の軍団を消し去って行く。
それはまさに神々の使徒。
世界を破壊しに来た侵略者に、神意を示すかの如く、圧倒的な力で駆逐する。
連射が終わり、抉れ飛んだ大地の先には、遥か遠くに見える青海が広がっているだけだった。
「殲滅、完了……はぁ、疲れたぁ……」
その場にへたり込み、少女は一人、安堵の息を吐くのだった。
巨槍の射撃場:ずらりと並列した小型コロニー○ーザー一斉射攻撃w




