マイノアルテ6
聖龍華。それはヌェルティスにとってクラスメイトの一人である。
本来は地球に存在し、今はアメリカだったかを相方の下田完全と共に旅しているはずの人物だ。
別名放浪の不死者。遥か過去にした約束を守るため、遥か未来まで放浪を続ける不死身の存在である。
そう、文字通り、不死身なのだ。斬り裂こうが焼き払おうが次の瞬間には急速再生して打ちかかってくる。
さらに身の丈三倍あるあの大鎌を、自慢の腕力で振り回して来るため攻撃範囲も攻撃力もあまりに高すぎる。
チート化したヌェルティスでも打ち勝つ可能性は低い存在であるのに、今のヌェルティスの状態では互角にすら闘える気がしない。
ヌェルティスは咄嗟にシャロンを抱えて飛び退く。
しかし龍華はビルグリムを放置してヌェルティスに飛びかかる。
背後から迫る龍華に焦りが募る。
「悪いな、逃しはせんよ」
「だああもうっ。供物蛇の輪舞会!」
咄嗟に暗黒龍を放出する。
魔力の塊を龍の形で打ち出すこの技ならば、魔力を切り裂けない龍華にとっては多少時間稼ぎに成る為である。
だが……
「甘いッ」
気合い一閃、暗黒龍が三つ裂きに霧散する。
「嘘だろッ!?」
「昔、知り合いに氣の扱いを教えて貰ってな。奇術であろうが魔法であろうが切り裂けるッ」
それは完全のことだろうっ!? 思わず叫びそうになったがそんなツッコミを入れている暇はない。
「相変わらずのバケモノめ」
相対するだけで死亡フラグに成りかねないが、相対せずに逃げるのは不可能らしい。
「祖は宵闇の覇者にして真祖の王。我誘うは魔天の翼、悪辣なる腕。神より落とされし邪悪の王。恨み帯びし善への怨嗟。今ここに我が晴らそう。共に踊り、喰らい尽くせ! 暴食蛇の武踏祭!」
「むぅっ!?」
「シャロン、己の身は自分で守れよ!」
抱えていたシャロンを投げ飛ばし、地面に足付けUターン。
両手に暗黒焔を纏わせ、ヌェルティスは決死の覚悟で拳を握った。
「ふむ? 今の台詞、どこかで聞いた気が……」
「なぜ儂を覚えて居らんのか理解できんが、聖よ。同じクラスメイトとして主とは闘いたくなかったぞ!」
「クラスメイト……ヌェルティス……ベヘモート」
ぶつぶつと呟きながらも攻撃を仕掛けて来る龍華にヌェルティスはステップを踏み鎌撃を避ける。
返しの一撃を拳で弾き、龍華の頭上を飛び越える。すぐ前に眷族の蝙蝠を出現させ、足場にして三角飛び、龍華の後頭部向けて突っ込む。
「そうか、思い出したぞヌェルッ!」
しかし、ヌェルティスの渾身の一撃は、取り出された懐剣により防がれた。
「チィッ、反射速度が速すぎるッ。ビルグリムではないが性能に差があり過ぎるだろうッ」
「クラスメイト、ふふ。懐かしい。まさかまたお前の顔を目にするとはな。背丈が縮んでいたので思い出すのに時間がかかった」
「何を言っている? 主は地球で完全と旅をしているところだろう。数年会ってないとはいえ、物忘れが酷過ぎるのではないか?」
鎌を片手に懐剣でヌェルティスの攻撃を受け流す龍華。殺意が少し薄れた御蔭でヌェルティスもまた決死というスタイルを捨てて試合でもするように気楽に語りかける。
「すまんがそれは過去の私だ。今はその時代から100年以上経っていてな」
「それでも儂と顔合わせくらいするだろう!?」
「いや、お前とはアレから顔を合わせていない。異世界だからか。それとも……ここで死ぬからかは知らんがな」
ゾクリ。殺気が駆け廻る。
咄嗟に逃げようとするが間に合わない。
龍華の振るった鎌がヌェルティスの胴に吸い込まれ……
―― はーい、そこまでそこまでー。このマイノアルテの神様でーす ――
ビタリ。ヌェルティスの胴に浅く切り込みが入った場所で鎌が止まった。
この程度なら自己再生で直ぐに回復するが、天から声が降って来なければ確実に殺されていた。
ぶわりと嫌な汗が全身から噴き出る。
生きた心地など少しもなかった。
―― 魔女戦争してくれてる各領地の魔女に告げまーす。この世界に邪神の加護を受けた女神の勇者を名乗る存在が、えーっと 五体? 出現してまーす。放置すると世界が崩壊するので魔女戦争を一時中断、女神の勇者を狩っちゃってくださーい。女神の勇者が居なくなったら魔女戦争再開しまーす ――
「ああ、お前の存在でようやく得心行った。この時期だったな奴らが来るのは」
「よ、よくわからんが、そうなのか?」
「仕方あるまい。一時休戦と行かないか?」
「阿呆。儂からすれば常時休戦したいわ。聖と闘うとか無理だからな」
「ふむ? まぁお前がそう言うのなら昔の誼だ。他の敵を倒すまでは敵対はせずにいてもいいが」
「是非頼む」
上品さの欠片も無くヌェルティスは土下座までして龍華に頼む。
それほどまでに龍華の強さはヌェルティスの脳裏に刻みつけられているのだ。何しろ10万の大群相手に単身切り込んでいく猛者なのだ。そんな相手と単身闘うなど避けれるなら避けるに越したことはないのだから。




