地球4
「ラ・ギ!」
火炎弾がゾンビの群れへと飛んで行く。
直撃した火炎弾により燃え上がるゾンビ。
しかし気にしたふうもなく家へと寄ってくるゾンビに、新見黙人は焦りを覚えていた。
「ちょ、ピクシニー、コレヤバいよ。家に近づいて来てる! 燃えながら近づいて来てるよ!」
「あれが、いんふぇるの……か」
「それ別の魔物だからっ! っていうか、何ドヤ顔してるの!?」
黙人は今、自分の家で篭城をしていた。
家の周囲にはゾンビの群れ。皆は避難してしまったらしく、学校の方は門がしっかりとゾンビをシャットアウトしてしまっている。
幸いなのはそんな学校が自分の眼と鼻の先に有るということだろうか。
直線距離にして約1分。歩けば街道を渡るだけで直ぐに着く。
しかしこの母校へ向かうまでの道はゾンビ達が犇めいており、残念なことに学校まで向かう術を、彼は持たなかった。
家の屋根になんとかよじ登り、相棒の妖精ピクシニーと二人、無駄に魔法を打ち込んでいるのである。
「折角ロスト倒して大学受かったっていうのに、なにがどうしてこうなってるんだよぉっ」
「これがこりつむえんかぁ。ますたーと二人きりってひさびさかも。まおもてなもいないしねー」
「皆ー、誰か助けてーっ!」
泣きベソかきながら叫ぶ黙人。誰も助けに来てくれる様子などなかった。
「くぅ、仕方ない。ピクシニー、魔王としての力でなんとか……」
「えー、めんどくさい。というか、ひつようないみたい?」
と、ピクシニーがある一点を見て喜びを露わにする。
なんだ? とそちらに視線を向ければ、小柄な女性が屋根を飛び飛びこちらに向かって来ていた。手には老婆が1、2、3、背中も合わせて5人も抱えて人外的な動きで跳んでくる。
「おりょ? ピクシニーじゃん」
「よーこかげー。なにしてんの?」
女は黙人たちに気付いたようで、一度高校の敷地に降りて老婆達を解放したあと、ピクシニーの横へと飛んできた。
「何って、ハニエルに頼まれてゾンビ退治よ。あとついでに避難民を見付けたら回収する役?」
「ひ、避難民。避難民です!」
黙人は慌てて割って入る。
自分を連れてって下さい。
そう告げる黙人に、小影はふむ。と頷く。
「別に良いけど金はある?」
「……へ?」
「知り合い割引で救出料10万円」
「ちょ!?」
「無理なら諦めな。小影ちゃんは金のない奴を助ける気はないのだよ。んでは!」
とぅっと屋根を蹴って跳んで行く小影。
二の句を告げない黙人はそんな彼女をただただ見送るしかなかった。
「ますたー、どうする?」
「うぅ、酷過ぎる。でも、聖戦士が動いてるってことは他のメンバーもここを通る可能性あるよね?」
「あー、確かに」
「じゃぁもうちょっと待つ」
小影以外の聖戦士を待つことにした黙人。しかし……
「ルミナスウインターさん、こっち! こっち助け……」
「遊んでないで手伝えっ」
バキューンっと鉛玉が返ってきた。
「ルミナスサマーさーんっ」
「はろー。じゃ、まったねー」
「ちょ、違う。手を振ってたんじゃなくて助けを……」
ルミナスサマーは笑顔で手を振り去って行った。
「オータムさーんっ、助……」
「今忙しいの。後でねっ」
にべもなし。
ルミナスナイトの四人は華麗に黙人をスルーして他の人々を助けて行く。
なぜか? それは彼がピクシニーを従える魔物使いだからである。
この程度の逆境自分でなんとかできるだろ。そういう要らない信頼により、彼は助けを呼べないのである。
「ますたー。おきのどくに」
「うぅ、まさに孤立無援……」
このまま餓死するかゾンビの仲間入りするんだろうか? 黙人が人生に諦めかけたその時だった。
シャンシャンと、ベルの音が聞こえた。
思わずピクシニー共々空を見上げる。
そいつは橇に乗っていた。
二頭のトナカイが空を駆け、後ろに繋がる橇を引く。
大空を駆ける橇に乗るのは、赤い服を着た男、まるでサンタクロースだ。そして、背後には見目麗しき天使がおわした。
「お、要救助者っぽいの発見なんだな。でも男だからスルーで……」
「回収しましょう。避難場所は近いのに逃げ遅れたようですね」
チッと舌打ちしてサンタクロース風の男が綱を引く。
トナカイが軌道を変え、黙人の元へと舞い降りた。
「きっとゾンビ観察中なんだな。別に助ける必要無いんだな。ないと言うのが正解なんだな」
「助けてくださいっ、孤立中ですっ!!」
黙人は当然要救助者を自己主張。
「ますたー、この人普通に天使だよ?」
「妖精!? こいつ魔物使いか!? 三太、こやつらを助ける必要は有りません!」
「了解なんだなヨルゥイエル」
「ちょ、させるかっ!」
急浮上しようとする橇に咄嗟にしがみ付く黙人。
ピクシニーが彼の頭に飛び乗り、二人は窮地を脱出するのだった。
「なっ!? 三太、侵略を、橇が侵略を受けてます!」
「とりあえずそこの高校に向かって投げ落すんだな」
移動距離こそ少なかったが、ようやく安全地帯に向かえたようで、黙人は安堵の息を吐くのであった。




