序・神々の苦悩1
「やってくれたわ……」
カタカタと、女は目の前にある物体を両手で弄っていた。
ノート型パソコンという名ばかりの機具は地球で見付けたパソコンに上位世界の常識やら何やらを詰め込んでカスタマイズした桃栗マロンの専用機具である。
彼女の扱うノートパソコンの画面には、三つの画像が放映されていた。
「まったく、最後の最後でとんだ爆弾を置いてくれたものですっ」
怒りをあらわにするのはメガネを掛けた銀色の肌を持つアーモンド形の眼を持つ男。
地球型生命体グレイを模した彼は自分の創造した世界を地球儀くらいの大きさにして目の前に出現させ、ソレを覗いていた。
彼らは今、七人の上位存在が一堂に会し自身の創造した世界の異物を確認する作業に追われていたのだ。
彼らの集まるこの場所に景色はない。黒しかない世界の中で、彼らだけが存在していた。
円陣を組んだ彼らは自分の目の前に創造した世界を縮小した物を出現させ、ソレを回転させながら世界を見回している。
この二十一次元世界では、暇を持て余した者たちにより異世界創造というものが一時期ブームになっていた。
下位次元に存在する星を使って環境を整え自分好みの世界観にしてしまうのだ。
それを数千年分加速させることで人間や魔族が進化していく過程をすっ飛ばし、ある程度の文明が出来たところでさらに手を加えて魔王と勇者を出現させて戦わせたり、幾つもの国で戦争を起こしてみたり、平和に過ごさせてみたり、そして神や女神を自称して降臨してみたり。
時折別の神が管理する世界から人間種を召喚して自分の世界で遊んで貰ったりなどもしている。
そんな世界達が今、サンニ・ヤカーという女神のせいで滅亡の危機に瀕しているのだ。
自分が管理する世界が危機を迎えているだけに、ここにいる面々の形相には必死さしかない。
マロンはノートパソコンから顔を上げ、全員を見回す。
自分から左方向にメガネをしたグレイ型の男。次に青く燃える人型の炎。液体で出来た女性。顔しか見えない風の女。今は周囲に見えやすくするためか薄く緑色になっている。
皆不定形な存在の為自分の好みで容姿を作りだしているのだ。だからいつでも姿をかえることはできるのだが、他人と間違えないように固定の姿が存在する。それがこの姿らしい。
薄緑の女の横には黒光りする砲丸のような頭を持つ流線型の男。マロンとしてはきんに○マンに出てきた奴に似てるなぁ。と思いはするが地球上でいうならばむしろG。ゴキブ……
「ん? どうしたマロン」
「げふんげふん。なんでもないっすよ」
そのG男の横には頭がつるりと光る厳粛な顔をした老人。天使のように頭の上にワッカがあり、背中からは白い翼が生えている。
裁判長を名乗る彼は、マロンからすればただのあたりめ好きの老人である。
「ところで裁判長、グレイ型のグーレイさんはともかく皆さんの名前ないですよね?」
「うむ? 名前など必要ないだろう。まず呼ぶことはないし。役職があるからソレを呼べい」
「つってもG……じゃなかった黒光りするお兄様は弁護士と言えばいいけどそっちの三人は裁判官じゃん」
言われて裁判官をやっていた三人がふむ。と考える。
「じゃあ私の世界ミルカエルゼから取って私はミルカでどう?」
「あ、それいいね。じゃあ私はマイノアルテだからアルテかな?」
「つまり俺はペンデクオルネだから……ペンデク?」
「語呂が悪い気がしますね、折角なのでクオルでよいのでは?」
グレイ型生物グーレイの言葉にお、それいいな。と人型の炎が笑う。
人型炎の男がクオル、液体で出来た女がミルカ、女性の表情しかない存在がアルテという名前で定着した。
「どうでもいいわい」
「ではせっかくだからな。弁護士などと呼ばれるよりは、我が世界モルグドラハから取ってモルグと名乗ろうか」
G男が告げる。すると疎外感を覚えたらしい裁判長がむぅっと眉毛を動かす。
「そういえばさー、グーレイって名前なんでついたの検察官さん」
「私の名前ですか?」
アルテの言葉にグーレイがふむと考える。
下手な言い訳を考えているかどうかはわからなかったがマロンは真実を教えてやることにした。
「検察官の世界にね、グーレイ教ってのが出来てたのよ。このグーレイさんを信仰する宗教なんだけど、そこがグーレイグーレイと呼んでるから、もうこの際グーレイでいいんじゃね? って感じですかにゃ。ちなみにあちしは地球で学生生活満喫するために桃栗マロンって名前にしたんだにゃぁ」
「あんたのは聞いてないわよー、駄女神」
「ちょっ。駄女神言うなし! 何で皆あちしにだけ駄女神言うんですかねっ!?」
「そう言えば、つい最近まで居たパルティちゃんどうしたの?」
「今回の事でグレイシア、私の世界に戻って貰いました。もともと私の世界の住人ですからね」
グーレイの言葉通り、少し前、この世界に来ていたパルティという名前の少女が居たのだが、自分の世界の危機ということもあり、率先して自分の世界に戻っていたのだ。神々に愛されし少女が女神の勇者と闘う。グーレイの世界は恵まれているな。と、この時の神々の意識は統一されていた。
「ヘリザレクシアじゃからなぁ、ヘリザかレクシアなどどうじゃろう」
「それじゃマロン、分かったこと教えて……ん? 裁判長何か言いました?」
「……気のせいじゃろう」
少し寂しそうな裁判長に、仕方無くザレクの名を与えてあげる神々であった。
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神々の名と世界
駄女神マロン ??? ??? 管理はしてないが【地球】も監視中
検察官グーレイ グレイシア
青き轟炎クオル ペンデクオルネ
清き水流ミルカ ミルカエルゼ
無邪気な風神アルテ マイノアルテ
弁護士のGモルグ モルグドラハ
あたりめ大好き裁判長ザレク ヘリザレクシア