ペンデクオルネ
「落ち付け、落ち着いてくれ二人ともっ」
信太は命がけで二人を止めようとする。
しかしヒートアップしたサイルとルーフィニは止まる術を知らない暴走機関車の如く互いに魔法を使い始める。
「ラ・ギライアッ」
「ラ・ギライア消えて」
サイルが極大魔法を唱え、ルーフィニが言霊でソレを消し去る。
そんな攻防が既に一時間は行われていた。
信太はそこから少し離れた場所で二人の争いの余波から身を守っていた。
そんな彼らの元へ、三人の男女が近づいて来た。
それはそうだろう。遠方からでもよく分かる大魔法が生まれては消えているのだ。興味を覚えた冒険者か何かが近づいてくることだってあるだろう。
気配に気付いたサイルとルーフィニが攻撃を止め、これ幸いと信太は二人の元へと避難した。
得体のしれない黒髪の男女は、信太達三人を見付けてニヤニヤとしている。
明らかにヤバい系の人種だと信太は気付いた。
サイルやルーフィニを間近で見ているのだ、そういう人種は直ぐに分かる。
「おー、第一村人はっけーん♪」
「村人じゃーねだろっつって」
「あはは、なになに? キャットファイト? あの男の子モッテモテ? あ、でも好みじゃないや」
やってきた黒髪の男女は皆十代前半といった若い集団だ。
冒険者というには服装がラフ過ぎる。というか、信太の知っている学生服や、現代の服を着ている彼らが冒険者の筈がない。
「何よあんたたち?」
「あははっ。超強気ー?」
サイルの言葉に女が笑いだす。
ニヤついた男女はクックと笑いだし、代表するように少年が告げた。
「俺は剣聖の勇者。こっちのデカいのが破斧の勇者。そっちの彼女は神槍の勇者さ」
「……もしかして、さっき連絡のあった女神の勇者?」
信太は思わず確認するように尋ねる。
「御名答~。やるじゃん少年。あ、つーかあの服学生服じゃん。なになに、あんたもしかして異世界転移者!? うっわー、初めて見た。居る所には居るのね~」
信太は恐怖で怯えそうになった。
何しろ世界を破滅に導くと言われた女神の勇者が三人揃って目の前に現れたのだ。正直これはない。
信太達は未だ見習いの身、学校で魔法について習っている段階の学生なのだ。それが女神の勇者相手に闘え?
逃げ場はなく、闘う以外、彼らから逃げる術がないとなれば、犠牲者A君は確定である。
信太は考える。現状サイルとルーフィニで彼らと相対して勝てるか? 自分の魔法で何とかなるか? サンダー・クロスなら行けるだろうか? 否、無理だ。
攻撃系魔法で、女神とやらの祝福を受けた存在が倒せる訳がない。
「いや、待て。あの魔法なら……」
「ルーフィニ、一人相手取れる?」
「さぁ?」
「なんとか私が二人倒すからあんたが……」
戦闘する気満々のサイルの腕を引っ張り、ルーフィニの肩を引き寄せる。
驚く二人の顔を自分に向かせた信太は、サイルに、そしてルーフィニに無理矢理キスをする。
「んっ!? ちょっと何すんのよ!?」
「ん……やん、大胆」
くってかかってくるサイルに両手を頬に当て顔を赤らめるルーフィニ。
二人を放置して、信太は魔道書を取り出しめくる。
ページは5。今まで一度も使った事のない魔法を魔道書を見ながら呪文を紡ぐ。
「天よ聞き届けよ、願いしは我ら、梶原信太、サイル、ルーフィニなり」
「ちょ、ちょっと?」
突然声を張り上げた信太にサイルが驚く。
「おっと、見ろよ。魔法唱える気だぜ?」
「あたしらに効くのかねー。チートの御蔭でほぼノ―ダメージじゃなかったっけ?」
「女神からはそう聞いてるな」
ニヤつく女神の勇者たちに、信太は構わず呪文を練り上げる。
「地の底より這い出で来て、処へ集え」
二人への口付けにより魔力のパスは既に通った。
「我らが前を阻みし、絶死の脅威なる者へ」
梶原信太の魔法は強力だ。しかし一人では行えない。
「我等が求め訴えるは、追放なりッ」
契約を結んだパートナーがいることで扱うことのできる大魔法。
それは魔力を使わない。けれど術者にとって大切なモノを消費し放つ大魔法。
今回の魔法は強力で、彼の持つソレを使うと一気に残りが無くなってしまう。だから、パートナーから魔力を根こそぎ頂くことでソレの消費を押さえて放つ。
ソレの名は、命。文字通り寿命を消費し放つ決死の魔法。ゆえに、一般人である彼であろうとも、凶悪な相手に太刀打ちできる。
「異世界転送ッ!!」
ただし、限度はあるので彼は迷わずその魔法を放った。
雑魚い魔法が来るだろう、当ってやって、爆炎晴れたところからゆっくり歩み出て、だからどうした? とか言ってやろう。とニヤついていた女神の勇者三人の足元に浮かびあがる魔法陣。
なんだ? と気付いた彼らが動くより先に、梶原信太の命魔法が発動した。
「……え?」
光が立ち昇り、三人の勇者が消え去った。
後には何が起こったのか理解できずに呆然とするサイルとルーフィニが居るだけだ。
二人は、一瞬で魔力を奪われたせいかその場に尻持ち着いて気分が悪そうにしながらも、魔法を行使した信太に視線を向ける。
その信太は髪を掻き上げ恰好を付ける。
「ふっ。今回も颯爽解決しちまったか」
「って、アホかぁっ!? 今、何したのよ!? あれ、女神の勇者よね!?」
「ああ、俺らじゃどうしようもないし、別世界にブッ飛ばした。他の世界の危機? そっちで片付けてくれ」
「異世界に丸投げかよっ!?」
二カッと満面の笑みと共にサムズアップ。そんな信太によろめきながら立ち上がったサイルは思い切り殴りつけたのだった。




