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アンゴルモニカ5

 目撃地点より少し手前の森。そこへやってきた手塚至宝と大井手真希巴は軟体族族長・ソカン=モティカルパイト=ヘグイトスの元を訪ねた。

 軟体族は今、勇者の一人を迎撃に出ているようで、スライムが一匹、村の入り口で待っていた。

 そいつが真希巴の頭に乗って来て一言。


『ぷるぷる。ぼくはわるいスライムじゃないの?』


 念話で二人の脳内に直接メッセージを送ってくるスライム。否、そいつは至宝と共にマロムニアにある伝説の島でレベルを上げ、スライムの枠を軽く超えてしまったスライムだった何か、である。

 何がしたいのか軟体族の村入り口でいつもぷるぷる震えている。


「あたしらが知るかっ」


「わわっ。しーちゃんいきなり酷いよ」


「ぜんぜん酷くねーってマッキー。こいついっつも第一声これだぜ?」


「え? そ、そうなんだ……」


 スライムが指し示す方向を至宝が確認して二人と一匹が歩き出す。

 しばらく森を散策していると、居た。

 頭を丸く剃った男が剣と盾を装備した状態で指揮をしている場所へと辿り着く。


「よーソカン」


「ム? オオ勇者カ。アソコニイルノガ勇者ダ」


 ソカンが指し示す先には、スライムたちに群がられる男が一人。

 ここからだとかなり遠くに居るのだが、近づくスライム達が爆散しているのが見える。

 どうやらかなり強力な爆発魔法か何かを使う勇者のようだ。


「しーちゃんも勇者だし、あっちのも勇者だとちょっと分かりづらいね」


「あんなクソ野郎と一緒にすんなっつの」


 バツの悪そうな顔をする至宝が剣を引き抜く。ユーリリスという風の魔剣だ。


「先手必勝。ちょっとヤッてくる」


「しーちゃん!? 油断はダメだ……よ」


 思わず止めようとした真希巴を放置して、至宝が走りだす。

 目指すは目視でも確認するのがやっとの遠くに居る黒髪の男だ。

 メガネを掛けたインテリ系の男だが、ひょろ長い体躯と痩せた頬、何より目つきがヤバい。

 異世界に来る前にも何人か殺しているんじゃないかと思える薄気味悪い男だった。


「女神の勇者か!」


 確認するように至宝は告げる。

 気付いた男がニチャリと笑った。


「来た来たっ♪ ようやくスライム等というチンケな生物ではなく人間を殺せるっ」


「はっ。テメーにゃ誰も殺させねぇっつの」


 一撃必殺とでもいうように離れた場所から剣を振り抜こうとした至宝。

 しかし、それより先に男は群がっていたスライムの一人をひっつかむと、至宝に投げつける。

 ぎりぎりで剣を止める。

 危うくスライムを切り裂くところだったと安堵する至宝。

 その眼前に飛んできたスライムが、突如膨れ上がる。


「っ!?」


 至近距離から仲間であるスライムによる自爆攻撃。

 不意を突かれた至宝は思わず目を瞑る。


「おっと、自己紹介がまだでした」


 はっと目を開いた至宝の側に、既に勇者は接近していた。

 至宝の腕にそっと男が触れる。


「てめ……」


「初めまして女神により選ばれた破壊の権化。人間爆弾の勇者です」


「は?」


 意味が分からないといった顔をする至宝。


「ん? 理解できない? ほら、マンガとかでさ、よくあるじゃない? どんなに強い相手でもさ、触れただけで人間爆弾に出来る能力。僕はほら、キーワードのボタンを押すだけでいいんだ。それだけで人類最強も、宇宙最強も等しく粉みじん。チートって言ったら、やっぱこれだよねぇ?」


 マズい。気付いた至宝だったが、既に遅かった。


「くっ、逃げろマッ……」


「起爆」


 咄嗟に振り向き相棒の真希巴に危機を告げようとした至宝。だが、無慈悲なるかな。爆弾の勇者がスキルを行使する。

 体内、否、彼女自身が爆弾と化し、膨れ上がる。


「しーちゃっ……いやあああああああああああああああああああああああっ!?」


 絶叫する真希巴の声が響く。

 勇者手塚至宝が爆死した。


「ナント……コレガ女神ノ勇者」


「そんな……しーちゃん……」


 ぺたんとその場に座り込む真希巴。

 そんな彼女とソカンの元へ、爆弾の勇者が悠々近づいてくる。

 向かい来るスライムや人型スライムを爆散させ、燃える森を背景に、絶望はニタニタと笑みを浮かべながら接近してきた。


「さぁて、次はどちらから爆死させてやろうかなぁ?」


 見た目はどこかのサラリーマン。あるいは冴えない教師といった顔とフォーマルスーツ。しかしその眼は確かに狂気を宿していた。


「僕はそこまで強くはないんだけどね。通信空手とか太極拳とかでさ、身体のキレだけは自慢なんだ。悪いけど君等が僕を殺すより先に、触れて破裂だ。諦めなよ?」


「小娘、逃ゲヨ」


「……嫌、です」


 涙を拭いて、ぐっと力を込めて立ち上がる。

 真希巴だって勇者を倒すためにここに来たのだ。至宝が死んだからとあきらめるには早過ぎる。

 ピンクのステッキを振る。既に覚悟はできている。後は敵と、闘うだけだ。


「トランスイグニッションッ」


 至宝の仇は自分が取る。怒りと共に、真希巴は力ある言葉を口にした。

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