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アンゴルモニカ4

「無事か桃蛇郎」


「白か。むしろ早いくらいだ。歌貢耶がやられる前に来てくれて助かった。もっと絶望的な状況を想定していた」


 心底安堵した顔の桃蛇郎とバトンタッチし、白が拳法の勇者と対峙する。


「カカ。何だ? 今度はお前が相手か?」


「拳法の勇者なのだろう? 俺は練武山師範、李白だ。同じ拳法家として、お相手致す」


「クカ、カカカ。いい、素晴らしい、お前みたいなのを待っていた! 期待はずれになってくれるなよ!」


 双方拳を握り込む。

 狙いはどうやら同じらしい。

 まずは小手調べ。

 一足飛びに相手に近づき、崩拳を打ち込む。


 ズダンッ。

 力を込めた足が地面を陥没させ、絶死の一撃同士が激突した。

 ビリビリと震える空気に双方戦慄と共に楽しげに笑う。

 気付いたのだ。共に、互角であると。


「これは重畳、楽しませてくれそうだ!」


「やはり世界は広いな。俺と同等以上の存在がまだいるか!」


 闘いを始める二人の側で、霊体の勇者もまた、老人と対峙していた。

 しかし、この闘いの勝敗は既に決したようなモノである。

 何しろ、霊体の勇者は常時霊体化というスキルを使えるのだ。

 物理攻撃が効かない存在に、拳法家が太刀打ちできる訳がないのだ。


「ほぅほぅ、なんか人肌ではなく透き通っとるのぉ」


 宙に浮いたままの霊体の勇者に近づいて来た老人、黄丹月は霊体の勇者の二の腕を突っつく。


「ほっほー。こりゃぁ面白い」


「いや、おじぃーちゃん。何してんの?」


 ふぉっふぉと笑いながら霊体相手にセクハラまがいのことをしている丹月に、霊体の勇者は呆れていた。

 先程から何が楽しいのか無防備に近づいて来た老人は彼女の身体を前後左右から見回し、突っついて来るのだ。

 当然ながら霊体なので突き抜けるのだが、それが面白いのか調子に乗っている。


 呆れた様子でされるがままになっていた霊体の勇者だったが、そろそろ飽きたし一人づつ呪い殺して行くか。そう思った瞬間だった。

 ふにょん。自分の胸に違和感。

 あれ? と思い視線を向けると、丹月が自分の胸を揉んでいた。


「ふぉー。こりゃ面白いわい。おなごの胸なのに冷たく霞みを掴むよう。しかし特有の弾力は衰えず。むほーっ」


「こ、このエロジジイッ!!」


 思わず丹月に膝蹴りを叩き込む。

 顔面に無防備に食らった丹月は鼻血を噴き出しながらよろめいた。


「な、なにしてんのよ変態っ」


「ぐっほぅ。効いたわい。思わず知的探究心を優先してしまったわ」


 全く悪びれた様子のない老人に、掴みかかろうとして、ふと気付く。

 自分は今、霊体だった。その胸を、何故……掴める?

 今、気のせいじゃなかった。丹月は確かに掴んでいた。揉んでいた。

 それはつまり、霊体である自分にダメージを与えられるという結果ではないのか?


「あ、あんた……なんなのよ? 霊体と闘える? そんなの聞いてない……」


「ふぉっふぉっふぉ。氣を使えば霊体に触れるなど造作もない。むしろ拳法家として氣で悪霊を吹き飛ばすのは基本中の基本よ」


 そんな基本は規格外だ。霊体の勇者は思ったが、この世界の仕様にツッコミを入れても意味はない。

 むしろ、冷や汗が止まらない。

 今までは自分を滅する存在は居ないと高を括っていたのだ。それが通用しない、自分を殺せる拳法家が目の前にいる。その事実に血の気が引いて行く。


「さて、少々遊びが過ぎてしもうたが、そろそろ倒させて貰おうかの。女神の勇者とやらの実力を……」


「い、一抜けた――――ッ!!」


 丹月が構えるより早く、霊体の勇者は逃げ出した。

 突然の行動に呆気にとられる丹月が気付いた時には、既に松下城側へと空中を逃げていく霊体の勇者。


「しもうた、あまりに見事な負け犬逃走に思わず見守ってしもうた!?」


「老師、ここは私と桃蛇郎で、歌貢耶を連れて城下を守ってくださいっ!」


「う、うむ。では任せるぞぃ」


 やむなし。っと再び歌貢耶を御姫様抱っこした丹月が走りだす。


「ちょ、変なところ触らないでくださいます!? そこを触っていいのは桃蛇郎様だけですわよ!!」


 歌貢耶の叫びと共に消えていく丹月を見送り、桃蛇郎は拳を打ちつけ合う拳法家たちを見た。


「ええい、不甲斐なし、あの女逃げおった」


「女神の勇者は纏まりが無いのか?」


「皆、各世界で好きに暴れろとしか言われてないからな。仲間意識などあってないようなもの」


 世間話のように話し合いながら拳に蹴りにと打ち込み打ち込み返す拳法の勇者と白。

 あまりにも激しい闘いに、桃蛇郎は参戦することが出来ないでいる。

 否、むしろ白自身も彼の参戦を良しとしないだろう。

 二人は今、一対一の真剣勝負をしているのだ。桃蛇郎の助太刀は必要としていない。

 今しばらくは、二人の闘いを見ていよう。桃蛇郎はそう結論付けて見物に徹することにしたのだった。

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