真エピローグ・遥かな未来に降り立つ者たちへ
「……ん……?」
不意に、自分が眠っていることに気付いた。
なぜ眠っているのか、どうして眠ってしまったのか、あんなことがあったのに。
直前に覚えている光景は、檻に囚われた親友。
必死に手を伸ばした彼女と自分の手は触れることなく、彼女を残して転移した。
転移……した?
「ハルちゃんっ!?」
慌てて起きる。
目を開いて見た光景は、おどろおどろしい曇り空。
遠くを飛び交う鳥の嘶き、ゴギャー、ウギャーと謎の声を響かせ豆粒のような鳥が視界の端を移動している。
荒れ果てた大地。自身が眠っていたのは地面だったことに気付いて慌てて立ち上がる。
気が付けば、周囲には見知った人たちが同じように地面に寝転がっていた。
ジャスティスレンジャー、ライドレンジャー、あちらに居るのは魔法少女部隊か?
少し離れた場所には地球防衛軍らしき人たちと備品一式が纏めて倒れている。機械兵器も巻き添えを喰らったようだ。アレは確かなんとか文歌さんだったろうか? 男の人と抱き合って無事を喜び合っている。
「確か、スプラッシュみゆみゆだったか?」
不意に、声を掛けられた。
振り向けば、クワガタの怪人が頭を振って意識を回復させながら立ち上がったところだ。
悪の怪人。正義の味方。地底人に宇宙人。丁度あの時地球に居た超人全てがそこにいた。
「これは、どうなってる? 何が起こった?」
「わ、私に聞かれましても……」
そう言いながら親友の姿を探す。エレクトロハルリー。その姿だけは、見当たらなかった。
「数千数万の超人が纏めて転移させられた、って所ね」
ぞくり、すぐ後ろから声が掛かり、慌ててそちらを振り向きながら飛び退く、クワガタ怪人も慌てて戦闘態勢に移行するが、その姿を見て構えを解いた。
大鋸屑を纏ったような姿の仮面ダンサー。その存在を、彼らは知っていた。
「仮面ダンサーペトル?」
「すまないが起きた全員、まだ寝てる奴を起こしてくれ。話はそれからだ。纏めて一度で終えたいからな」
「あ、ああ。それは良いが、あんたは知ってるのか?」
「……ああ」
少し哀しげに俯き、ペトルが告げる。
まるで回避出来ない悲劇が起こったことを知りながら、それを伝えられないもどかしさに揺れているように思えた。
「全員を起こしたら付いて来てくれ。他の場所からの超人たちも集めなきゃならない。説明に付いては仮面ダンサーアンから行われる。もっとも……この時代に来たアンは私達の知る最強の正義の味方では……ないがな」
「……どういう? ああ、いや。その説明も含めてなされるのか」
みゆみゆたちは周囲の皆を起こしてペトルに付いて行く。
そこにはドーム型の巨大な施設が立っていた。
「ここは?」
「街さ。私達の唯一の安全地帯。ああ、安全地帯だ」
安全地帯? 思った時だった。
空をくねりながら飛行する甲殻類を見かける。
「なんだありゃ?」
「スコロペンなんとか。名前は忘れたが、人類が死滅した後の世界、進化した生物予測にある生物さ。ムカデだかゲジゲジだかは知らんがな。そら、あちらには動く木がいるぞ」
「木っつーか、粘土で作った出来の悪い象みたいなのが……」
「つまり、私達の知る生態系とは違う生物ばっかり……?」
みゆみゆの言葉にペトルは頷く。
「そういうことね。ほら、入るわよ」
ドーム内へと入るよう促され、厳重な扉を潜り抜ける。
二重扉で一度全身消毒を行い、無菌状態になってから内部へと抜ける。
ふわり、空気が変わった。
先程までの息苦しさは一瞬で消え、すがすがしい日本の森林といった空気が彼らを迎え入れる。
「うわぁ……なんですかここは?」
「生存者の為に作られたエレナークの、いや、私達の最後の希望。アルカディアといったところか」
「理想郷? 確かに住みよい場所ではあるが、理想郷とは程遠くないか?」
確かにジャスティスガンナーが告げたように、綺麗な草原や森林は見える。しかし、ここに住めと言われても二の足を踏まざるを得ない。
「ここいらは郊外だ。街は一応日本の都会を想定してインペリア達が作ったらしい」
中央広場へとやってきた彼らは、他の場所から集まったらしい怪人やヒーローと合流し、台座に佇む仮面ダンサーたちを見る。
アン、ドゥ、トロワ、スワン、マズルカ、そしてペトル。
他にも数人のダンサーとアンデスローズガーデンなどの首領たち。
エレナークの首領は見当たらないが、かなりの大物がそこにいた。
「やぁ、皆。いろいろ言いたいことはあるだろうがまずは聞いてくれ」
代表するように、仮面ダンサーアンが告げる。
「我々はシクタの首領による強制転移により西暦8000年以後の時代に転移した。ここから元の時代へ戻る術は既にない」
ふざけんな! そんな声がいくつも上がる。
しかし、彼らの声は聞き届けられるはずもない。
なぜならば、彼らをここに送ったのは目の前の仮面ダンサーアンではなく、名も知らぬシクタの首領なのである。
「ゆえに、我々は一丸となりこの世界で暮らさなければならない。次代へと文明を命を繋いでいかねばならない。君たちは種だ。本来なら滅び去った筈の人類の最後の希望となった。このアルカディアは君たちにとっての最後の防衛拠点だ。この外は人類の居ない時代を、弱肉強食の世界を生き抜いた生物たちの世界だ。超人であろうとも殺されかねん。外に出る際は気を付けてくれ。この施設内であればインペリアたちに要望を伝えて貰えればある程度は聞いてくれるだろう」
一方的な通達。
残された超人たちは、ただただ戸惑い、自分たちの現状を受け入れて行くのであった。
彼らが西暦8000年以後、どのような文明を築き、どのように反映したのか、あるいは施設ごと何らかの現象により滅亡にしたのか、それはまた、別の話である――。
ご愛読ありがとうございました<(_ _)>
俺のクラスメイトが全員一般人じゃなかった件EXはこれにて終了です。
ちなみに、グレイシア編に関してはその彼の名を誰も知らない、の第十五章で展開されております。




