エピローグ・神々の宴
「ひゃっはーっ! あたりめじゃあぁぁぁぁっ」
ザレクがわざわざ地球から取り寄せて来たあたりめに飛び付く。
「儂んじゃ儂んじゃ! これは儂んじゃぁ!!」
ボトルに入ったあたりめを両手で抱えて嫌々と首を振るザレクに、皆が白い目を向けていた。
「あー、まぁお爺ちゃんはどうでもいいとして、皆もどうぞ。さっき買って来たばっかのコンビニおつまみだけどね」
「おーし、チータラげっちゅー」
「つぶ貝の缶詰貰うわね」
「俺はこいつだ。イカぽっぽ」
「あーっ。それ狙ってたのにっ!」
賑やかなことこの上ない。グーレイは酒盛り始める彼らを見ながら思わずため息を吐いた。
「おーし、新入り、酒飲め酒、いらない? 俺の酒が飲めねぇってのか!」
「こらこらクオル、落ち付きなさい。ほらアルセちゃんカクテルよーっ」
「ええい、やめろお前らー。あるにゃんが戸惑ってるだろー。あちしが全部飲んじゃるわー」
「あ、こら駄女神、その酒は高い……」
「いやぁ、私のとっておきのカクテルがぁ!?」
戸惑うアルセの側で既に出来上がっていた酔っ払い共が騒ぎ出す。
流石に仲裁に向かう気がしないグーレイは心の中でスマンアルセ。とだけ謝りその場を後にする。
「ほーれ、のめのめ小娘。嫌なことは飲んで忘れるんじゃー」
「えーい、酔っ払いめがー。あちしの超上位存在的CQCでアレしてピーしてアレな感じにしてくれるわっ。あるにゃんに酒を飲ませたければ、あちしの屍を越えて……あれ? 皆さんなぜ目を据わらせていらっしゃ、いやあああああああああああ!?」
やんややんやと楽しげな場所から一人、離れた場所に。
誰もいなくなった暗い世界で、グーレイは一人虚空を見上げた。
ようやく終わった。終わってくれた。
被害の爪後はまだ癒えそうには無い。それでも、危機は去ったのだ。
「あら、酒盛りには参加されないのですか?」
「っ!?」
不意に声が聞こえ、慌てて振り向く。そこには黒の聖女が立っていた。
「貴女ですか、管理者は居ないので?」
「ええ。第二十五世界に放置プレイ中です」
クスリと笑い、黒の聖女はグーレイの横へとやってくる。
「辛いですか?」
「……貴女がソレを言いますか。黒の聖女とは名ばかり、腹黒の聖女ですね」
「あら、なかなか言いますね。それはもう、元秘密結社の首領ですから。でも……潰れちゃったなぁ、ラナリア」
黒の聖女は溜息混じりに告げる。
「今から行ってもいいのでは? いえ、そもそも時空転移を行わせた技術を彼女に渡したのは貴女でしたね。ラナリアはもともと潰すつもりでしたか」
「ええ。もう過去の私にも今の私にも不要のモノだもの。帰って来ない主を待つ組織が暴走する前に無くしてしまった方がいいわ。ええ。この先の世代に超人は不要なのよ。それよりも、超人の彼らには人類の壁を破って貰わなきゃ」
「……何を、やったのです?」
「人類補完計画、かしらね。地球が壊れるまでまだまだ先は長いもの。人類が死滅エンドなんてことで終わるのは味気ないでしょう。まぁ、説明なしで強制的に送ったのは……私が悪の首領だからかもしれませんね」
クスリ、屈託なく笑う女の笑みに、グーレイは呆れた顔をする。
「本当に、なぜそんな性格になってしまったのです」
「あら、もともとこういう性格よ? 今まではクルナちゃんを救おうと必死だっただけ、だって私、クルナちゃんを救うためだけにラナリアを設立したのだもの。元から悪人の要素があったのよ。それをクロリに見出されただけのことよ」
「はぁ……まぁその辺りは気にしないことにしましょう。それより、サンニ・ヤカーに付いてですが、本当に、現れることはないと思っていいのですね」
「ええ。あの世界はそこにあるという概念しか持たない世界だから外から入ることはできても中から出る方法はないの。そもそのも内部なんて存在しないものだし」
「その辺りがよくわからないんですよ。零次元というのならば二十一次元を持つ私ならば理解できない筈がないのですが……探してみても認識すらできません」
「あら、探す必要は無いでしょ。零次元とは全ての起点にして基点、今この瞬間、この場所が基点であり、そこが基点であそこも基点。零次元はそこいら中に存在しているわ。でも、誰もそれを見ていながら見ていない。零を確認することなんてできないモノ」
「うん、全く理解できません」
「ふふ。そうね、それでいいのよ。重要なのはあいつはもう、二度と現れない。それだけの事実があれば問題ないわ。それよりも気を付けるべきことは、滅ぼした女神の勇者の転生体が意思を持った時よ。三世代くらいは気を付けておいた方がいいわ」
「なるほど、それは確かに危険ですね。後で皆に教えておきます」
「ええ。それじゃ。傷心を癒そうとしていたのに邪魔したわね」
「感傷に浸ると言ってくれませんかね。さっさと消えてください」
はぁ。と溜息を吐きだすグーレイに笑みを残し、黒の聖女が消え去った。
誰もいなくなった場所で一人、グーレイはもう一度だけ溜息を吐いて、酒盛り続く宴会場へと戻るのだった。




