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エピローグ・地球1

 女は泣いていた。

 あまりにも突然の別れに泣くしか出来なかった。

 友人が、知り合いが、全ての正義の味方が消えてしまった。

 自分一人を残して消えてしまったのだ。


「リュア!」


「……ぐす、ぇ?」


 不意に、何かがすたりと着地した気配に気づき、顔をあげた。

 三角座りしていた彼女の前に、人型大のアトミックマン・ヘルトが降りて来ていた。

 少し遅れ、ジェノスとエヴーネが降りてくる。ヘルトが人間状態に戻り、ジェノスとエヴーネから外部スピーカーで声が聞こえ出す。


「ふぅ、地球に降りても大丈夫って言われたから降りてきたが、転移しなかったのはハルリーさんだけか」


「……ぁ。あぁ……」


「じゃあ伊藤君、僕らは一応地球防衛軍の方見に行って来るよ」


「ああ。こっちはまぁ、何とかやってみる。つか本当に俺が残ればいいのか綾嶺さん」


「うん、その方が上手くいくと思うの、じゃあ、まぁラナリア本部の方で」


 ジェノスとエヴーネが去っていく。

 それを見送り、伊藤信之は視線をエレクトロハルリーへと向き直した。

 ありえないモノを発見し呆然としているような彼女の顔に、あーっと頭を掻く信之。

 どう話をしたものか考えあぐねているようだった。


「なん……で? 正義の味方、私しか……だって……」


 呆然と告げる彼女は、それでも這い寄ろうとして三角座りから両足を広げ身体を乗りだし、四つん這いに、女豹のポーズみたいな姿になったせいか、ちょっとエロいと思ってしまう信之だった。


「あー、その、さっきまで宇宙に出ててな、その、俺らは無事だったんだ」


「じゃあ……じゃあ正義の味方、残ったのは私だけじゃ……ない?」


「え? あ、ああ。俺らの他にもラナリアに残った奴らも無事らしい。だか……らぁ!?」


 無言で飛びかかって来たハルリーを受け止めきれずに尻持ちをつく。

 がしりとホールドされた信之はなにがなんだかわからないながらも抱き付かれた女性の匂いに硬直しながら興奮していた。


 や、柔らかい、良い匂い、これが女性!?

 そんな事を考える彼の胸で、ハルリーは決壊したように泣きだした。

 先程までも泣いていたが、そんな絶望の涙じゃない。自分一人じゃ無かったのだと、安堵と喜びの涙だった。


「よかっだ……よがっだよぉ……」


 信之の服が涙なのか鼻水なのかよくわからない液体に汚されて行くが、信之にはどうでもいい事のように思えた。それよりも自身にかかる確かな女性の重みを全身全霊で感じながら、戸惑いつつも彼女を優しく抱きしめるべきか悶々とすることの方が重要だった。




 地球防衛軍の元へ向った純平と麁羅だったが、そこに知り合いは存在していなかった。

 どうやら組織に存在する者は一般人であろうとも軒並み転移に巻き込まれたようである。


「文歌さんもおじさんもいませんね」


「予想はしてたけど全滅か。乱菊さんも……」


「純平君……」


 予想はしていた。きっと彼女も超人の部類に入るだろうことは理解していたのだ。

 だから、もうこの世界には存在しない。

 悔しいけれど、それが……


「やはり来たか高田、麁羅」


「ん? あ、祐くんっ」


 人型兵器から降りて施設内を見回り終わり、ラナリアに向かうか。と、ジェノス達へと踵を返した瞬間だった。施設入口前に、二人の男女がいた。

 一人はクラスメイトの一人、御影祐一。

 麁羅が彼を見つけた瞬間走りだし、飛び付くように抱き付いた。


「お、おい?」


「えへへ。よかった。祐くんと離ればなれとか嫌だもんね」


「む、むぅ……」


 顔を赤らめる祐一を一瞬だけ横眼に見た純平は、彼の背後から歩み出てきた女性を見て目を見開く。


「乱菊……さん?」


「……はい。旦那様、お帰りなさい」


「なん……で? いや、いい。どうでもいい。居てくれただけでっ」


 走りだした純平は、顔を赤らめる乱菊の前にやってくると、感極まって抱きしめた。


「よかった。乱菊さんまで飛ばされたって、思ってたから」


「その、御影さんが迎えに来てくれまして、折角だからラナリアに一緒に行こうと」


「御影君が?」


「あー、いや、俺というか、麁羅がな。別行動を取る前に言って来たんだ」


「えへへ。なんか乱菊さんをラナリアに連れていかないと行けない気がして、でも隕石何とかしなきゃだから祐くんに頼ん……あ、えっと、祐一くんに頼んだの」


「綾嶺さん……多分もう、遅いと思うよ」


「ああ。もう、うすうす感づかれているぞ」


「ええっ!?」


 驚く麁羅。

 しかし麁羅と祐一が付き合い始めていることは、純平も乱菊も今のやりとりだけで充分伝わってしまっていた。


「ふふ、でも、またあなたと会えて私は嬉しいですよ」


「僕もさ乱菊さん。もう、君と離ればなれにはなりたくないよ」


「本当ですか? じゃあ、その、結婚式、あげちゃいますか?」


「そうだな。それも、いいかな」


 二つのバカップルがキャッキャウフフし始めた。

 これを止める術を持つ者はここにはおらず、二組は思う存分愛を囁き合うのだった。

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