地球3
「疫病?」
赤城哲也はインペリアからの報告を聞き耳を疑った。
「マスター。インペリアからの情報を精査した結果、ほぼ100%の確率で女神の勇者の一人であると断定出来ました。疫病の勇者と仮称します」
「おいおい、どうすんだよその勇者。流石にこれはヤバいだろ」
「場所も場所でかなり離れているな。インペリア、量産型ハルモネイアでなんとか出来るか?」
『シュミレート結果は勝率58%になります。疫病の勇者だけならばその戦力で勝てるでしょうが、近くに虫の勇者を観測しました』
虫の勇者? と哲也は怪訝な顔をする。
ラナリア最高司令室で、哲也、毅、有譜亜の三人が必死に各地の情報を調べていた。
今のところ観測されている勇者は巨大化、疫病、虫、ゾンビ化の四人の勇者だ。いや、もう一人、ゾンビ周辺に生まれている闇があることから闇の勇者も観測されている。
未だに残り五人の勇者とやらは探し切れていない。
桃栗マロンの言葉通りであれば、ジャスティスセイバーへの復讐の為、日本に集中して降りて来ている筈なのだが、残りの五人の痕跡は未だに探し切れていない。
「疫病は少々面倒だな。できるだけ早めに消しておきたい。有譜亜、悪いが向かってくれないか」
「了解しました。予測シュミレートですが、虫の勇者と連携される可能性があります。出来れば疫病を無力化できる……魔王を連れて行きたく思います」
「魔王か……ブエルに連絡を取り最適な人材を見繕って貰おう。しかし、なぜ悪魔なのだ?」
「疫病や虫は魔王の眷族が多いのです。マッチした人材が来れば苦もなく倒せるでしょう」
「疫病などになるとクラスメイトで対応できる人材は限られるからな。すまんな有譜亜」
「問題ありません」
有譜亜が勇者迎撃の準備のため、部屋を後にする。
残ったのは哲也と毅だけになった。
静寂が……周囲を支配した。
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「あー、こっちでいいんだっけ?」
久我山環架は森の中を散策しながら前を歩く男に尋ねた。
メガネを掛けたヒョロ長の男、佐川亨に尋ねる。
「はい。問題はありません。しかしよかったのですか?」
「何がだよ?」
「皆さんに黙って来てしまって。確かに僕とバッタさんが居れば雑魚相手に敗北はあり得ませんが」
「あー、いや、良いんだ。皆今は休養して貰った方がいい。バッタを救いだすのでかなりダメージ負ったからな」
「それは貴方もでしょう。傷が塞がった途端に僕に付き合わなくてもよかったんですよ? それこそ皆で来た方が……」
「危険だからな……その、魔法を覚える為にもボスと闘わないといけないんだろう?」
環架と亨、そしてリアルなバッタのキグルミを着た少女、バッタの三人は今、マーダーサバイバル開催地である孤島で探索を行っていた。
目的地は亨が誘って来た魔法使い用の攻撃魔法となるスナイパーライフルがあるとされる洞窟であり、今は三人で向かっている最中だ。
他にもパーティーを組んでいる仲間は居たのだが、環架としては、あまり信用したくない亨に誘われた場所に全員でのこのこ出向きたくはなかった。
ただ、一人で向かうのもアレなので、バッタに同行を頼んだのだ。
リアル顔のバッタのキグルミは、今まで闘った魔物たちの返り血を浴び所々が黒く変色してしまっている。洗うことすら出来てないので恐ろしい臭いも醸し出しており、リアルでRPGをコンセプトとしたマーダーサバイバルならではの劣悪なキグルミと化してしまっている。
そろそろ洗濯しないと重大な病気にかかるんじゃないかと思ってしまうのだが、洗濯も金が掛かるのでなかなか手が出せないのだ。自力で洗うにしてもバッタの中身がしばしキグルミなしの無防備状態になってしまう。
いつ危機的状況になるかわからない現状でそれはマズいので、彼女も我慢して着続けているのだろう。
「ん? 待ってください環架さん」
「どうした?」
亨の言葉で三人は停止する。
そっと木々の隙間から覗いた場所に、そいつはいた。
巨大な岩のような生物を前にぺたぺたとその身体を触っている少年が一人いた。
「ふーん。カード化で手に入れたのはいいけど、変な魔物。つか地球に来たのになんだこの魔物? 地球だよねここ? 特殊変化でもしたのかな?」
少年は無防備に魔物の前に居るのだが、魔物が反応する様子が無い。
「どうなってる? いや、既に連絡は向かっていたみたいだね」
亨の言葉に環架も気付いた。
少年の元に黒い服を着てサングラスを掛けた男達が近づいて行く。
気付いた少年に向け、彼らは手に持っていた突撃銃、ガトリングランチャー、マシンガンなどを一斉に構えた。
「へ? な、何? なんだよお前らっ!?」
「マーダーサバイバル実行に不確定要素を発見、直ちに排除します」
「あなたにマーダーサバイバル参加許可は出ておりません」
「その魔物は我が社が特別に用意した素体だ。持ちだされるのは困るのだよ」
少年が何かを告げるより早く、無数の銃声が重なった。
この日、女神の勇者が一人、何の成果を出す事もなく消え去った。




