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エピローグ・魔界

「いやー、まいったなぁ」


 新見黙人は光差さないその場所で、思わず頭を掻いていた。


「あはは。ごめんねマスター。私と契約してたばっかりに」


「ううん。ピクシニーのせいじゃないよ。でも、まいったなぁ」


 すぐ側にいる筈のピクシニーすらその姿が見えない。

 こんな場所で人間が生きて行くのは難しい気がする。

 そもそも目が見えない程に暗いので移動すらままならないのだ。


「とりあえず、知り合いの場所に行ければいいけど……あ、ブエル様ーっ」


 どうやらピクシニーには周囲が見えているらしい。

 近くにいたらしい魔物に手を振って自己主張をする。

 相変わらず黙人の眼には誰も見えないのだが。


「ほぅ、こちらがピクシニーの契約者か」


「私と契約してたせいで魔界に来ちゃったみたい。多分他の契約者もこっちに来てると思う」


「ふむ。念話で部下に伝えて捜索させよう。他の魔王たちにも捜索を頼むか」


「えーと、初めましてブエルさん?」


「もくとー、そっちじゃないよこっちだよ?」


「え? どっち?」


「ふむ。人間はこの世界では視界すらままならんか。少し待て。今魔法を掛けてやろう」


 ブエルの言葉に黙人はいい人だなぁと感心する。

 ブエルの魔法が届き、黙人の視界が晴れた。

 流石に暗いままではあるが、何処に何があるかは見えるようになった。暗闇なのに光の無い世界が良く見える。黒い大地に遠くに見える無数の山々。時折空を飛行種が飛んでいるのが見える。


 この近くにも魔物は結構いるらしい、黙人の目の前を青白い炎を纏った黒い犬が歩いていた。

 黒妖犬? 思わず顔を青くする黙人。まさか見たからって死なないよね? そんな事を思いながら視線をブエルに向けた。


 目の前に大きな厳つい顔があった。

 顔しかなかった。顔の周囲には五つの足が車輪のように付いていて、胴体や腕は存在していない。

 口をぱくぱくしながらブエルを見続ける。

 普通に人型を想像していただけにこれは想定外すぎて何も言えなかったのである。


「ぶ、ブエルさん?」


「うむ。我がブエルである」


「えーっと……よろしく」


 何かを言おうとして、ピクシニーの知り合いならそこまで悪い魔族じゃないか。と自己納得する。


「うむ。しかし小影といい貴殿といい随分と魔族に寛大よな。お、見付けたようだぞピクシニー。何やら暴れる人間の女と魔王様と叫びながらカイムに抱き付いた男を保護したようだ」


「あー、多分知り合いだ」


「あの二人かー。マオたちも一緒だよね?」


「でも、あの人は見つかって無いのか……」


「あのヤンデレか……あ、でもでも、ほら、あの人は魔物と契約したんじゃなくてテナーとでしょ、天界の方連れてかれたんじゃない?」


「あー、可能性はあるかも?」


「ふむ。とりあえず城に向かおう。我のではなく現魔統王ルシファーの方だがな」


「おお、有名な魔王だ!」


「サタンと一緒にいるだろうからそちらに他の人間も送るように告げておこう。ああ、凌辱や魅了はするでないぞ。うむ。また放浪の不死者と闘いたくはあるまい?」


 どうやら魔界といえども闘いの日々になるのではなく普通に暮らせそうである。

 黙人は安堵の息を吐いて空を見上げる。

 本当であれば地上でいつもの日常を送る手はずだったのだが、面倒なことになったモノである。


「あ、そう言えばお姉さんの方大丈夫かな?」


「魔族でも天使でもないから多分地球に置き去りだね。最悪チェクトが見に行ってるでしょ」


「チェクトさんも多分こっち来てるよピクシニー」


「……あ」


 気付いてなかったピクシニーは照れ隠しとばかりにブエルの側に向かってしゅっぱーつ。と元気に拳を突き上げる。

 ノッてるブエルも了解だ。と回転を始めて歩きというか転がり始める。

 そんな二人を、溜息一つ。黙人がゆっくりと追いかけるのであった。


「にしても、何が起こったんだろうね?」


「ふむ。魔界から地球へ戻ろうとしてもどうやら地球上の魔穴全てが消えてしまったらしいからな。スマンが人間達もこっちに来た者はこちらで過ごさねばならんぞ」


「だと思いました。まぁ戻れる方法をゆっくり考えますよ」


「ふむ。まぁそれもいいだろうな」


 暗い世界をゆっくりと歩く。

 ブエルの魔法の御蔭ではあるが、光が無いのに世界が見渡せるというのは随分と新鮮だなぁとどうでもいい事を考える黙人。

 結構神経自体は図太い性格なようで、早々に魔界の空気に慣れ始めていた。


「そう言えば呼吸出来てますけど、この世界も酸素が?」


「そう言うのは知らんな。興味も無い。生きているからそれでいいのではないか」


「……成る程」


 聞いてもどうしようも無い質問だったと反省しつつ、地球とは本当に違う場所なのだと、改めて納得する黙人だった。

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