エピローグ・モルグドラハ
「おっまたせ~い」
そんな言葉と共にエアリアルがやってきた。
王利たちは丁度恐竜を狩って食事中だったようで、キャンプファイヤー囲んでエアリアルを出迎えた。というか、既に忘れていたようで、あ、そう言えば居なくなってたな。みたいな雰囲気が場を支配する。
「あれ? なんかどうでもいい感じ? 隕石粉砕してきたエアリアルさん、疎外中?」
「何をおっしゃるエアリアルさん。そんな訳ないじゃないかはっはっは。ほら、肉を食うがいい」
王利から箸で摘ままれた肉を一切れ口に放り込まれる。
「うん、うまい。……で、実情は?」
「……はい、皆で楽しく忘れてました」
「よろしい、頬つねっちゃる」
「痛っ。マジに痛いっ」
とりあえず代表で王利の頬を抓り、エアリアルは皆を見る。
なんやかんやで自分が居ないと隕石で全滅していたかもしれないメンバーだ。
今は呑気に食事している。
いや、王利がいるのでむしろ強制転移してこの星だけ滅んでたかもしれないが、まぁ、一応自分が救った命たちである。
もう少し称賛の声があってもいいような気がするが、その辺りは期待するだけ無駄だろう。そういう面子であることは十分承知している。
「さて、そろそろ次の世界に行くか」
「ついに動くのか」
「うむ。我らが滅びると言われている十六世界だったか。そこまでの時間を引き延ばしたとしても結局は出会うのだろうしな」
「別にそこを放置しても問題は無いだろう?」
「ふ、強敵がいるからその場を除くなど論外だ。全ての世界をじっくりと見る。我が願いをW・Bが叶えてくれるのだ」
ふふん。と自分に手を振り自慢げに言う。その対象は会話中のアルベリカではなく王利の隣で腕を絡めているバグパピヨンである。
自分の方が王利に慕われているぞとアピールしているのだ。
気付いたバグパピヨンはむぅっと唸りつつも、首領に遊ばれているだけだと分かっているのであえて反応はしない。
「お前も頑固だな」
「死ぬことを恐れていては真に欲しいモノを見逃すかもしれない。なれば死を恐れるな。可能性を掴み取り、己の欲するモノを手に入れよ。なんてな」
くっくと笑う首領に、皆が呆れた顔をする。
「でも首領、流石に付いて来た皆まで巻き込むのはどうかと思うんだけど」
「ふむ。まぁ今ならもう地球に戻っても問題は無いか」
「ん? どういうことですか首領」
「うむ。我がクローンがシクタの首領としてラナリアを乗っ取ることになっていてな。その時インペリアに秘密裏に作らせておいた強制時空転移が超人全てを人理崩壊後の世界に向かわせるようにしておってな。それが発動した後なのでそろそろ不死者辺りが止めているだろ。アレは可哀想だからこの地に残しておいてやらねばならんしな。流石に永遠に父に会えぬ状態にするのは我でも非道過ぎる所業だと思って……どうした?」
得意げに話していた首領クロリは、ぽかんとした皆の顔に気付いて言葉を止める。
「……いや、その、首領?」
「レウコクロリディウム、今の話、どういうことだっ!?」
「クローン!? 強制転移!? 超人全員!? 人理崩壊後? ツッコミどころが多過ぎるだろ!?」
皆、情報の多さにフリーズし、その情報の危険さに慌てふためく。
「お、お前はっ、なんてことを!?」
「世の中から超人が居なくなれば人の世になるだろう? ならばそこからが真に人の世界といわれるものになるだろう。それに、どう試算しても7777年の壁を越えて人間が生き残る確定した未来がなかったからな。無理矢理こじ開けてやったわ。むしろ称賛してほしいモノだがな。8000年以降も人間が存在できるということに、まぁ超人ばっかりだが、それでも……ん? どうした風音?」
「何してくれてるんですか首領ッ! 私の楽しみが! 正義の味方が、全員会えない時代に転移!? どうしてくれるんですかこのお馬鹿ッ!!」
もう正義の味方に会えないという事実に気付いた風音が思わず上司に喰ってかかる。
首領の襟を両手で掴んでがっくんがっくん揺らす風音に、首領はあー、しまったな。といった顔をしている。
「まぁ、その、なんだ。お前も行くか?」
「行きます! 行くに決まってるでしょう! そこに正義の味方が居る限り!!」
「だが異世界の正義の味方に会える今を捨てることになるぞ」
「ぬぐぅ!? そ、そんな。私はどうすれば……」
力無くへたり込んだ風音が四つん這いになって唸りだす。
「あーあ。こんな奴に付いて来たばかりに。ほら風音ちゃん。こんな腐った首領なんか反逆してバグソルジャーにならない? 私は歓迎するよー」
「うぅ、バグリベルレさぁん」
近くに来て声を掛けてくれたバグリベルレにひしっと抱き付き涙ぐむ風音。
さらに首領に詰め寄る正義の味方軍団。モルグドラハは今しばらく、賑やかな声が聞こえているのだった。




