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エピローグ・マイノアルテ

「……ん」


 意識が浮上する。

 シャロンは自分は死んだのか? そう思いながら目を開く。

 見知らぬ天井があった。


「これが、死後の世界?」


「だったら私はいませんわよね?」


「マグニぅッ」


 突然聞こえた自分以外の声に、慌てて上半身を起こす。

 視界に映る見覚えのある女性に思わず声を掛けようとして、ズキリと痛む身体に言葉を失う。


「まだ動かない方がいいわ。幾ら回復したと言ってもここに戻ってくる前に……ええと、まぁ、もしかしたら骨が折れてるかもしれないから安静にしていて」


「でも……ぐっ」


 上半身を起こしただけで身体が痛む。仕方無いので逸る気持ちを押さえて寝ころぶ。

 どうやら自分はベッドに寝かされているようだ。


「ここ、は? なぜ、私は死んだのでは……」


「それについては色々説明が居るわよね」


「ヌェルティスは? 彼女が助けてくれたのでしょう? 彼女はどこに……」


「異世界に、戻ったわ。それと、貴女を助けたのはシャルロッテのントロ茉莉さんよ」


「では、そいつが、勝利を? シャルロッテが生きていっつっ」


「ほら力まない。順を追って説明するから」


 無理して痛みに呻くシャロンの元へ歩み寄り、マグニアは彼女の頬を撫でる。


「本当に、無事でよかったわシャロン」


 生きてくれている。そのことに安堵し、マグニアは涙をためて話しだす。


「あなたのお姉様は私が殺した。勝利者はジルベッタとヌェルティス。敗北を悟った茉莉さんが貴女を救ってくれたのよ。そして、ジルベッタが願いを叶えたことでントロであるヌェルティスは元の世界に戻ったわ」


「そう……じゃあ、勝利者はジルベッタなのね? 何を願ったの? この国の王になったのかしら?」


「いいえ。魔女戦争の終結。以後、ントロがこの世界に召喚されることはなくなったし、今回のように魔女が殺し合うことも無くなったわ」


「……そう、でも、よかったの? ジルベッタの家が黙っていないんじゃ」


「そこは気にしなくていいわ。ジルベッタはウチで保護するもの。貴女はこれからどうする? 怪我が治った後は領地に戻るのかしら?」


「……そうだな。放浪の旅でもするかな。領地には父がいるだろうし、姉を倒した仲間の私が行っても殺されるだけだろう」


「なら、ここで暮らす?」


「……ここで?」


「ええ。ここで。ジルベッタと、私と、シャロンの三人で、どうかしら?」


「……そうだな。そういうのも、いいかもしれないな」


 クスリ、微笑むシャロンに、マグニアも笑みを浮かべる。


「よかった。それじゃあ……ああ、そうだったわ。貴女が起きたらお詫びをしたいという者がいたの」


「お詫び?」


「少し待っていて。呼んでくるわ」


 そう言って、マグニアが外へと出て行く。

 しばし、一人になる。

 視線を真っ直ぐに向けると、天井が見えた。


 生きていた。

 自分の奇跡に今更ながら実感が追い付いて来る。

 シャルロッテを止めなければならない。強迫観念にも似た思いで駆け抜けた。


 自分で止めることはできなかったが、本当に、止めきったのだ。それも五体満足生き残ってである。

 ずっと、辛い日々だった。

 ヌェルティスを呼び出すまでも、呼び出してからも、大変な日々であった。

 それが、ようやく報われた。


 思い描いた結末では無かったけれど、充分過ぎる勝利に涙が溢れる。

 ごめんなさい姉上。まだ、私はそちらには行けないようだ。でも、それでも……この結末に、後悔する気は無い。そもそもがずっと分かり合えなかった姉妹だったのだ。どちらかが死ぬまで争い合うのは確定していたのだろう。


「よーぅ、元気か」


「……げっ」


「ちょ、その反応は酷くないかな?」


 ドアからマグニアに連れられてやってきた人物を見て、シャロンは思わず呻く。

 そこに居たのは兄妹らしい男女。女性の方はマグニアに肩を貸されて歩いている。

 体調が悪いのか顔が青く色白だ。


「ゼムロット・クライベル・グラシエ……生きていたのですね」


「ああ、生きてたよ。ビルグリムは脅されてントロ使用権限ごとシャルロッテに奪われたけどね」


 シャルロッテたちにントロを奪われたことでお払い箱になった彼は不要であると放置されたようだ。殺されなかっただけマシだろう。


「あの、兄が迷惑をかけたそうで……何とお詫びすればよいか……魔女戦争がこんなことだと知っていれば這ってでも兄を止めましたのに」


 今にも死にそうな顔で告げるのは、ゼムロットの妹、アルジャーノ・クライベル・グラシエ。

 どうやら彼女はントロに付いて殆ど意味を知らず、言われるまま兄の為に召喚を行ったそうだ。まさか殺し合いの為の召喚だったなど、彼女も知らなかったのである。


「気にしないわ。こうして生き残れたみたいだし」


「そう言って貰えれば……げほっ、ごほっ」


「ほら、言わんこっちゃない。安静にしとけアーノ」


 咳込んだアルジャーノを慌てて抱えあげるゼムロット。


「まぁ、そう言う訳だ。もはや敵対する理由は無いからな。一応報告の為に来た。では、妹の体調がすぐれんので休ませて貰う」


「二人も、親からおめおめ逃げ帰ってと厄介払いされたらしくて我が領地に住み始めたの」


「そう、楽しくなりそうねいろんな意味で」


 困った顔でシャロンは告げる。前途多難感は拭えないが、それでも幸せな日々が待っている。そんな予感にマグニアと笑い合うのだった。

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