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エピローグ・ペンデクオルネ

 とある学生寮に、彼らは居た。

 信太、サイル、ルーフィニの三人である。

 女神の勇者と隕石の脅威が無くなったため学校が再開され、学生寮からの避難も解除された。

 だから自室へと戻って来たのだが、信太は己の寿命残数を見て呆然としていた。


「あー、一年以上減ってるわね」


「さ、最悪……」


 彼が使った異世界強制転移魔法。これは命魔法という部類の魔法であり、魔法を使用する際魔力ではなく寿命を削って魔法を唱える事が出来るのである。

 生命力自体を燃やすため、通常の魔法よりも強力な魔法を放てるのだが、当然寿命が回復することは無い。

 つまり、使用すれば使用するほど彼の人生が短くなっていくのである。


 ルーフィニとサイルが共同開発した魔法により自分の寿命を見ることが出来るようになった信太は、思いの他短くなった自分の人生に悲嘆する。

 のこり、50年程。100年分あった寿命はほぼ一年で半分まで減ってしまった。

 たった一年でこれだ。後一年、生き残ることが出来るのだろうか? 激しく不安である。


「まぁ、早死には確定よね? でもこの世界なら60年くらいなら平均的寿命よ?」


「今はなっ! これからも魔法使うだろうが! 来年には残り1年あるかどうかになってないかこれ! 最悪過ぎる。ルーフィニ、子作りしよう、割りと切実に! 童貞のまま死ぬとか切なすぎるからせめて卒業だけはっ!!」


「あんたサイテーね」


『私は、いつでもおっけー』


 グッドマーク掲げるルーフィニ。しかしサイルが許すはずもなかった。


「公序凌辱違反よ!」


『邪魔しないで』


「こいつ絶対ヤリ捨てする気よ!」


「ばっか、ルーフィニ捨てる訳ないだろ! 俺らはラブラブだぜ」


『ラブラブ……』


 思わず顔を赤らめるルーフィニ。実は両想いらしい二人を見てイラッときたサイルがバチリと魔力を高める。


「あれ、嫌な予感……」


『サイルはすぐ魔法使うの止めるべき』


「うるっさいっ!!」


「ラ・グライラ消えて」


 撃ち放たれた魔法を咄嗟に言霊で打ち消すルーフィニ。

 しかしサイルは次弾を装填しており、二人の攻防が始まった。

 慌てて退避する信太。防衛用の指輪を慌てて部屋から探し出し、指に嵌める。次の瞬間火炎魔法に身を焼かれて指輪が弾け飛んだ。

 次の指輪を填める。一撃必殺の氷結弾が信太の身体を凍らせた。指輪が弾け飛んだ。


「せっかく買いためた指輪が……俺の金、殆どこれに消えてる気がする……」


 信太の切ない呟きは、ルーフィニにもサイルにも届くことは無かった。




「しっかし、なんだったんだろうなぁ、あの一連の奴等」


 そこは平和過ぎるチート世界。

 ナートは切り株に腰掛け頬づえ付いて空を見ていた。

 あまりにも平和過ぎて何も出来ないこの世界に、わざわざやってきたおもちゃたち。

 ついつい張っちゃけ過ぎてさっさと壊してしまったが、惜しい事をしてしまった気がする。

 まさか拳一つの風圧で消し飛ぶとは思わなかった。


「なんっかこう、殺人の快楽ってモンを感じれることはねーもんか……」


「ナート、何してんの?」


「チッ。なんもしてねぇよ」


「ふーん。あ、そうだ。ナート、お父さんたちから許可貰ったから宇宙行こうよ、隕石キャッチボール私達もしよう!」


 お外で遊びましょう。程度の軽い口調で誘って来た幼馴染に思わずため息を吐く。


「冗談じゃ無ぇ、ンなめんどくせぇことやってられっか」


 なおもじゃれついて来る幼馴染の顔面を掴んで地面に叩きつける。

 遊んでくれると勘違いしたようできゃっきゃとじゃれつく幼馴染。

 溜息吐いて、ナートは彼女の顔面を鷲掴みして、天高く投げ上げた。

 見る間に小さくなっていく少女。


「落下で死んだら笑えるのにな」


 しかし、落下して来た少女は顔面から地面に突っ込んでも即座に突き刺さった顔を引っこ抜いて笑っていた。


「今の面白かった。ナートもっかい!」


「……ド天然が」


 溜息一つ。次は全力で真上に投げ飛ばす。

 楽しげな幼馴染の声を聞きながら、ナートは家路に付くのだった。


「って、ナート、放置して帰らないでぇー」


 折角放置しようとしたのに逃げる前に落下して来た幼馴染に腕を拘束される。


「家に帰るんだが」


「一緒に帰る。そして遊ぶの!」


「はぁ、もう勝手にしろ……」


 誰か、誰でもいい。俺に娯楽を、早く、俺の殺人願望が錆付いてしまう前に、誰でもいいからまた俺に殺されに来てくれ。

 来ることは無いだろう。そう思いながらも願わずには居られない。

 殺人こそ自分の生きる意味と思っているナートは、絶対に殺せない住民たちに囲まれ、今日も平和に暮らすのだった。

 やがて来るかもしれない哀れな贄を手ぐすね引いて待ちながら、今はまだ、幼馴染を手ひどくあしらうだけに留めるのだった。

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