地球 ・ラナリア最終決戦7
「ぐぅ……」
レウコクローンは思わず呻く。
目の前に居る城内真一、城内茉莉、仮面ダンサーアンの三人から逃げる術は彼女には無かった。
「君は凄いよ。既にレウコクロリディウムが滅んだ際にインペリアたちに作るように告げていたらしい魔法陣。これに二十五次元の法則を組み込んだ。これのせいで魔法陣を破壊する術を私らは失ったんだ。あれは、何処から手に入れた?」
「……黒の、聖女が伝えてきた。この未来が一番いいのだとよ」
「貴様が他人の言いなりか? ずいぶん本体とは違うなレウコクローン」
「抜かせアン。思考パターンが同じでも環境が違えば別個体に決まっているだろう。現に奴の目指した結末と私が目指す結末は既に違えている」
「なるほど。だが、双方夢半ばで消えることは確実らしいな」
「クク、ハーッハッハッハ。夢半ば? 否、否否否ッ!! 我が願いは既に叶えた。結果を見届けられんのは残念だが、それはレウとクロリに任せよう。だが……」
笑いを止めて、レウコクローンはドクター城内を睨む。
「一つ疑問がある。アンが稼働しているのはなぜだ? 貴様がいるのは分かる、茉莉についても予想は付く。だが、なぜ飛ばされた筈のアンが稼働している? 頭脳を動かすことはできなかったはずだ」
「確かに、葵君の脳も絵麗奈さんの脳もキキの脳も研究施設から移動させるのは難しい」
「ならば、何故だ!? 貴様等も二十五次元の法則でも手に入れたか! 時空転移能力を防御出来る術は無い筈だッ!!」
「確かにないな。私にはその技術は理解できなかった。おそらく一生を使いきっても法則性を解析は出来ないだろう。それこそ西暦8000年頃になってようやく高次元の法則を理解するかもな。だが時間が掛かり過ぎる」
時間さえかければ解析できると言い切ったドクターは不気味にメガネを光らせた。光源は無い筈だが不思議な現象が起こるモノである。
「簡単なことさレウコクローン。時間跳躍を予防できないのならば、予防済みの場所に行けばいい」
「なに?」
「つまり、このラナリア本部の地下の下に、エレナークの研究施設を移したのだよ」
「……は?」
「無数の仮面ダンサーがスコップ片手に掘り、そこに地下研究施設を丸ごと移設したのさ、アンたちに引っ張って貰ってね。地下施設自体は独自稼働状態にしてあるから施設内で電力は稼働する。つまり、部屋ごとの移設が可能なのだよ。あとはこのラナリアと連結させることで異世界転移無効化空間にしてしまったわけだ」
「お父さん無茶苦茶だよねー「残念だったなレウコクローン。こいつはこういう奴だ。絵麗奈が絡むと本当に私も想定外の行動を取ってくれる」」
「そんなアナログな方法で……」
「それでも我々がここに居る。それが事実で結末だ」
ゆっくりと距離を詰める仮面ダンサーアン。すでに話は終わりらしい。
逃げるための時間稼ぎもこれ以上は無理そうだった。
せめてとレウコクローンは逃走に徹する。
しかし、後を振り向いた瞬間、アンの一撃がレウコクローンの首を圧し折った。
「がっ」
「茉莉、焼却を頼む」
「はいな。イグニスゲヘナー」
アンも纏めて魔法を放つ。通路を舐めつくす炎がレウコクローンとアンを焼いて行く。
「ぐぅ、馬鹿な!? レウ、貴様、私を殺して貴様は生き残る気か! おい、葵、奴もレウコクロリディウムだぞ! いいのか!」
「あれにはドクターと茉莉とキキに逆らえんように首輪がしてある。安全とは言い難いが、城内家が居る限り何も出きんさ。ドクターが死んでもキキが後を継ぐ。問題は無い」
「くく、問題は無い? ふふ、ははは。そう言うことかレウ。ならば、ならば貴様が見届けよ。人の行く末を、人の滅びを、我等の悲願が達成されるその時をっ! 心せよ仮面ダンサーッ。そして城内真一ッ。貴様等がどれ程世界に尽くそうと、我はまた現れる。世界平和を警鐘するため、人類の敵として、また再び現れるぞッ! はは、アハハハハハハハハ――――ッ……」
全身が燃えて行く。
逃げないようにと仮面ダンサー・アンがレウコクローンの身体を拘束しているのでもはや彼女が焼却されるのは確実だ。逃げ場はもうない。
この身体を捨てて逃げようにも外に出た瞬間焼き殺されるし、直ぐ近くに居るアンに寄生したところで機械の彼女に寄生した結末は既にレウコ本体が体験済みだ。
抗体により駆逐されるのである。
既に詰んでしまった自分の人生に悔しさを覚え、しかし既にやり終えた偉業に胸を張って笑い続ける。
勝負には負けた、しかし、目的は達成した。
ならば恨みを抱き死ぬ必要は無い。胸を張り、威厳を持って役目を終えるのだ。
「ふふ、ははは。あはははははははっ。世界よ、ドクターよ、一足先に、地獄で待ってるぞぉぉぉッ」
レウコクローンが揺らめく炎に消える。
その姿を、ドクター城内と茉莉は、最後まで見続けていた。




